※日経エンタテインメント! 2022年9月号の記事を再構成
「悪い顔選手権」や「財津チャンネル」など、唯一無二の発想力が光り、テレビ業界からも注目されている「チョコレートプラネットチャンネル」。芸人として多忙な日々の中、YouTubeにはどのように取り組んでいるのか。
――実力派コント師として知られるチョコレートプラネット。即興ネタやモノマネにも強く、『有吉の壁』(日テレ系)や『新しいカギ』(フジ系)などでお笑い能力の高さを発揮し、近年はMCとして起用される場面も増えてきた。
“プレーヤー”でいるときに魅力が爆発する彼らは、YouTubeでも多くの人を虜(とりこ)にしており、現在のチャンネル登録者数は169万人。もし犯罪の容疑者として報道されるようなことがあったら、どれだけ悪い人相で映像に映れるかを競う「悪い顔選手権」(2020年11月~)や、口から出まかせででたらめなワードを言いながら、ビジネス“風”の対談を繰り広げる「財津チャンネル」(21年11月~)など、人気企画が多数誕生している。
多くの芸人は20年のコロナ禍でYouTubeに参戦したが、チョコプラが「チョコレートプラネットチャンネル」を開設したのは16年。当時を振り返りつつ、現在はどのようにYouTubeに向き合っているのかを聞いた。
「テレビで見てます」より圧倒的に多い
長田庄平氏(以下、長田) きっかけは、僕らのネタがYouTubeに無許可で上がっていたことなんですよ。それをどうにかしたかったのが1つ。もう1つは、番組などのオーディションに行くときに、僕らはコントなので、衣装や小道具をいっぱい持っていかないといけない。そうすると、ネタは1、2個しかできないんですが、16~17年頃からディレクターさんから「あとはYouTubeで見ます」とかって言われることが増えたんですね。じゃあ、YouTubeにネタをアップしておけば、「これを見てください」でいけるんだと思って。プラスで、自分らのやりたいことも少しずつ出していければいいな、という感じで始めました。初期の頃は「薄着の旅」[極寒の中、タンクトップなどの薄着でどこまで行けるかを試すロケ企画]とか「グダグダスイッチ」[NHK Eテレの『ピタゴラスイッチ』に出てくるからくり装置のパロディ]を、単独ライブの幕あいのVTRみたいなノリで作ってましたね。
松尾駿氏(以下、松尾) 僕らその頃、単純に暇だったんですよ。
長田 そうそう。だから「これを軸にしていこう」みたいなウエートは乗せていなくて。週2回だったらずっと上げていけるかなって設定して、今も続けている感じ。手応えと言われると難しいけど、最近は「テレビで見てます」より、「『6秒クッキング』、見てます」[冷やし中華やフライドポテトなど、6秒で料理をする]とか、「『財津チャンネル』、見てます」と言われるほうが圧倒的に多いですね。
松尾 1番は瑛人さんの『香水』のMV再現(20年6月)じゃない? 登録者数が70万人増えて。
長田 あとは「悪い顔選手権」はテレビでも採用されたりしたので、反響が大きかったですね。
優秀な映像ディレクターが大きな存在
――「悪い顔選手権」にしても「財津チャンネル」にしても、目の付け所が際立つ。最近では、イェール大学助教授の成田悠輔とひろゆきのビジネストーク番組「Re:Hack」のパロディも誕生。いち早く成田をピックアップするスピード感にも驚く。企画はどのように生み出しているのか。
松尾 長田さんが全部考えてます。
長田 まぁ、日常で気になったことを膨らませたり、切り取ったりとかですね。「悪い顔選手権」も、ニュースを見てて思いついて。瑛人君の『香水』は、エゴサーチしててTwitterで「MVが長田にしか見えない」というのを見つけて「なるほどね」と。女性が後ろで踊っていたので、「じゃあ、松尾にIKKOさんやらせておこう」みたいな感じ。全然深く考えてないです(笑)。面白そうと思ったらとりあえずやってみる、撮って出し精神。実験場ですね。何がハマるかなんて分からないんで。バズらない動画もクソほどありますし。
松尾 僕は単純に楽しいですね。テレビだとある程度制作側の意図をくみますけど、YouTubeだと本当に自由なので。でもこうやってずっと週2のペースでYouTubeができているのって、竹川(尚志)君の存在がデカくない?
長田 めちゃくちゃデカい。僕らの制作体制は、映像ディレクター1人と作家が1人、プラスマネジャーという5人のチームなんですね。この映像をやってくれている竹川君がものすごく優秀で。「こういう企画」って言ったら、コンセプトを忠実に把握して、具現化してくれるんですよ。僕が1から10まで編集を指示する体制だったら、たぶん成立してないです。
松尾 ここまで伸びた要因は、長田さんのアイデアが6割だとしたら、あとは竹川君が4割。
長田 いや、もう半々ぐらいじゃない? 編集で面白さが決まるから。
松尾 いいスタッフさんって芸人仲間に紹介したりするんですけど、竹川君は僕らで囲って、誰にも渡さないようにしてます(笑)。
番組に企画を逆輸入したい
――2人にとって、YouTubeは純粋な表現の場。他の芸人のチャンネルや、専業YouTuberを意識することはないという。
松尾 僕はピースの綾部(祐二)さんのしか見てない(笑)。
長田 僕もあっちゃんの「中田敦彦のYouTube大学」くらい。他のチャンネルのことは全然気にしてないです。YouTuberの方はすごいと思うけど、ジャンルが違うんで。モデルさんとかアスリートみたいな枠の1つという感覚。同じ土俵と思ってないです。
――配信する際は、どんなことを心掛けているのか。
長田 スピードは重視してますね。面白そうだったら、あまり練らずにすぐに出すっていう。おそらく専業のYouTuberの人たちは、「こうしたら伸びる」みたいにロジカルに作ってると思うんですよ。僕らはそこは関係ないので。東京五輪のオープニングのピクトグラムを見たときも、「これはみんな目を付けるだろう」と思ったんで、すぐに「ピクトグダグダム」としてアップしたんです。
松尾 たまたまスケジュールが空いてたから、次の日撮ったね。
長田 その2日後にはもう出しました。面白いコンテンツを作り出す才能は、僕自身にはそんなにないと思ってるんで、数とスピードで勝負してます。でも即興だったりノリでできるのは、僕らに合ってるんだよね。
松尾 成田さんのモノマネも、撮る1週間くらい前に長田さんが「コレやりたいんだけど」ってグループLINEに投げて、作家の子がスタジオを探して、僕はどうモノマネするかだけ考えて。「セリフは分からないけど、顔はいけそうだな」とか。とりあえずやってみるかという感じで、あとはもう当日(笑)。台本もないですし。
長田 やってて楽しいのは「財津チャンネル」。ひたすら2人で適当なこと言い合って(笑)。ゲストを呼ぶ「ベーキング」[フジテレビで放送していた『バイキング』のパロディ]も。
松尾 「ベーキング」は、ずっと坂上(忍)さんでふざけてるだけ。だんだん、坂上さんとして普通にしゃべれるようになってきた(笑)。
――今後のYouTubeへの向き合いや、ビジョンは?
長田 芸人にとって、自分らの好きなことができるのって、劇場でのライブが1番だったと思うんです。それが、いろんな手段で発信できるようになって。柱が増えたことは良かったです。もっとあるんなら増やしたいし。多角的に攻めて、1本なくなってもこっちがあるっていう状況を作れたら、より活動しやすいじゃないですか。コロナ禍でテレビやライブや営業がなくなったときも、僕らはYouTubeに身を寄せることができたんですよね。バランスよくコンテンツを持っておけば、何かが残る。だからどれも大事です。今後僕がやりたいのは、YouTubeで新しい企画を作って、それをテレビ界に持っていくこと。
松尾 「悪い顔選手権」も、テレビから「やらせてください」ってオファーがありましたからね。
長田 ああいう逆輸入みたいなことができたらいいなと思います。普段から意識はしてますが。
松尾 僕がやりたいのは、ドラマのパロディ。いつでもできるように今髪伸ばしてるんですよ。
長田 そうだったんだ(笑)。