※日経エンタテインメント! 2022年9月号の記事を再構成

自由と思われがちなYouTubeだが、規模が大きくなってきたからこそ社会的責任も生じている。健全なコミュニティを維持しながら、クリエーターエコノミーを充実させ、なおかつ表現の自由を守ることが、仲條氏の目指すところ。一方、コロナ禍で自主的な啓発的動画の発信が話題になったように、クリエーターもまた、自身の影響力を自覚し、その責任を果たしている。YouTubeは、その両輪あってこそ成長を遂げてきた。その成長について、トップYouTuberのはじめしゃちょーと、YouTube日本代表の仲條亮子氏が語り合った。

はじめしゃちょー(右)とYouTube日本代表の仲條亮子氏(写真 中川容邦)
はじめしゃちょー(右)とYouTube日本代表の仲條亮子氏(写真 中川容邦)

――YouTubeはここ数年、マネタイズも多様化しました。

はじめしゃちょー(以下、はじめ) 衝撃だったのは17年に登場したスーパーチャットですね。

仲條亮子(以下、仲條) ファンの方の熱量が、直接届く感覚もあるのでは?

はじめ そうですね。応援してくれているという熱量が、とても分かりやすいです。

スーパーチャットの衝撃

仲條 マネタイズだけではないですが、変容し続けるデジタルの世界では、これが完成形ということはなく、常に時代に合わせて新しい形を考えていかなくてはいけない。我々は常に、クリエーターエコノミーを強固なものにすべく、順応していきますから。08年に、YouTubeパートナープログラム、端的にいうと、チャンネルを収益化して分配を受けられるシステムが始まったのですが、現在は全世界で200万人以上のクリエーターが参加、20年11月までの3年間で、我々がクリエーターとメディア企業にお支払いした金額は300億ドル以上です。クリエーターは情熱や知識を視聴者に伝えることで収益を得て、その収益が次なる制作のファンドになる、そうした仕組みですね。

はじめ 本当にめちゃくちゃお世話になってます(笑)。様々なことを気にせず活動できている時点で、支援されていると感じますね。

仲條 昨年、YouTubeの経済的・文化的・社会的影響についてまとめた「YouTube Impact Report」が発行されましたが、YouTubeは日本のGDP国内総生産のうち2390億円に貢献し、7万5970人のフルタイム雇用を作りました。私たちはクリエーター支援を整えて、健全な意思のもと、誰でもクリエーターになれる世界を作りたいと思っています。

はじめ 突っ走る道を作ってもらっている感覚ですね。幅広い表現活動をさせていただいていること自体が大きな支援です。

仲條 YouTubeは自由な場ではありますが、世界では毎月20億人、日本では毎月6900万人の方が訪れるコミュニティーですから、まず健全であることが重要です。その点で、クリエーターの方々も本当に意識を高く持っていただいていますし、それはコロナ禍でも感じましたね。視聴者が、信頼できる情報を早く見つけられるよう我々も動きましたが、それはクリエーターの方々も同様。はじめさんも、コロナワクチンについて河野太郎元大臣にインタビューした動画を出されましたよね。

はじめ ワクチンの動画に関しては、純粋に気になったから聞きに行ったというのが正直なところなんですが、結果的に、たくさんの方に知識として情報を共有できる形になりました。

仲條 HIKAKINさんと小池百合子都知事の会談、コムドットさんが医師に質問した動画も大きな反響がありましたし、YouTubeの社会的責任は、クリエーターの方々も体現されています。

はじめ 登録者数が増えるともちろん社会的責任は意識せざるを得ないですが、一方で意識しすぎないようにもしているんです。社会的なテーマばかり扱っていると、僕の色がなくなってしまう。社会的責任を果たしながら、動画の面白さの質は保っていきたいですね。

仲條 はじめさんが疑問に思うことは、きっと多くの方も同じように感じていると思いますし、若い層には難しい議題も、はじめさんが発信すれば「なるほど」と、しっかり聞ける。その力が、クリエーターにはあると思っています。ただ、影響が大きくなるほど、動きづらさもあるのでは?

はじめ 過激なことはできなくなりましたね。インフルエンサーとして数字がついてくると、コンプライアンスのボーダーラインは自然と上がりますから。一方で、社会的な信頼は得られるようになった。できないことが増えた反面、企業のお力を借りて、個人ではできなかったことが実現できるようになりました。プラスマイナスゼロどころか、大きなプラスですね。

メッセージにも変化が

 14年、はじめしゃちょーも出演したテレビCMのコピーは「好きなことで、生きていく」。仲條氏はこの文言について「YouTubeクリエーターの認知度を高める後押しになった」と捉え、実際にクリエーターから「活動しやすくなった」との声も寄せられた。15周年の今年、新たに掲げるメッセージは「好きは無限のエネルギーだ」。根底に多様な「好き」があり、1人ひとりの「好き」が様々な価値を生み出す世界、それがYouTubeであると2人は考える。

はじめ 「好きなことで、生きていく」というメッセージの、根本的な部分は変わってないですね。もちろん数字を維持するためには、トレンドを押さえて、視聴者に見やすい動画作りを心がけてと「好き」だけではいかない部分もありますが、僕は、好きなことで生きています。

仲條 今回「好きは無限のエネルギーだ」を掲げたわけですが、好きという気持ちは広がりがあり、私1人の「好き」が、全世界の「好き」や熱狂になるかもしれない。好きなクリエーター、コンテンツなど同じ「好き」を共通項にして集まったコミュニティーこそYouTubeであると思いますし、「多様な“好き”があって良いんだ」と認める意味もあります。

はじめ 多様な「好き」が集まるYouTubeがなければ、僕のような職業自体、生まれなかったかもしれないですね。個人で映像を作って出すという行為の火付け役こそYouTubeだったと思うんです。だからYouTubeがなければ、個人の動画クリエーターやマルチクリエーターは生まれていなかったか、もっと後の話になっていたかもしれないですね。

仲條 となると、日本の素晴らしいクリエーターやコンテンツが世界に羽ばたく機会も見られなかったかもしれませんね。

はじめ 10年前、周囲に不思議な顔をされたことが懐かしいです。「はじめくん、自分で動画撮って出してるよ」みたいな(笑)。それが今や当たり前のことになって、うれしいことではありますが、寂しいような気も少しします。

――改めて、YouTubeの魅力とは?

はじめ これまでも多く出てきた言葉ですが、はやり多様性でしょうか。ジャンル、尺、クリエーター…すべてにバリエーションがあるので、どんな人にも絶対に刺さるコンテンツがある。

仲條 同じくです。今では官僚系クリエーターもいらっしゃいますから。YouTubeの未来を考えるとワクワクしますね。はじめさんはどう考えますか?

はじめ 正直、分かんないです(笑)。だから、楽しいんですよね。新しいクリエーターが突然、人気者になったり、「マリマリマリー」のようなアニメコンテンツがジャンルの1つとして成立したり、先が読めないから楽しい。未来が読めない、それがYouTubeの未来だと思っています。決められた未来ほど、つまんないものはないですから。

仲條 YouTubeには、まだまだたくさんのドキドキがある、そう思うから多くの方が訪れてくださるのだと思います。自由な環境を保ちながら、クリエーター、視聴者、広告主が安心・安全に訪れ、活用することができるコミュニティーを、我々は守っていきます。

はじめ 今後とも、よろしくお願いします!


はじめしゃちょー
1993年2月14日生まれ。富山県出身。12年、友人らと動画投稿を開始。のちに個人チャンネルを開設し、マルチクリエーター型YouTuberとして活躍。15年、YouTube JapanのテレビCMに出演。21年12月、メインチャンネル『はじめしゃちょー』のチャンネル登録者数が1000万人を突破した
仲條亮子(なかじょう・あきこ)
千葉県出身。テレビ番組制作を経て、ブルームバーグ日本法人入社。放送部門のアジア環太平洋の代表、日本営業統括、在日副代表を歴任。13年からグーグル日本法人執行役員を務め、17年、YouTube日本代表に就任
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