※日経エンタテインメント! 2022年9月号の記事を再構成

日本上陸15周年を迎えたYouTube。個人が自由に動画を発信できるプラットホームの登場は、エンタテインメントのあり方だけでなく、我々の生活や社会にも大きな変革をもたらした。この先どんな可能性を秘めているのだろうか。今回、未来を語るにふさわしい2人として、トップYouTuberのはじめしゃちょーと、YouTube日本代表の仲條亮子氏に話を聞いた。

はじめしゃちょー(右)とYouTube日本代表の仲條亮子氏(写真 中川容邦)
はじめしゃちょー(右)とYouTube日本代表の仲條亮子氏(写真 中川容邦)

 はじめしゃちょーは、2012年にチャンネル開設後、主にエンタテインメント動画を中心にアップして人気を集めるなど、初期から活躍してきた。昨年12月にメインチャンネル登録者数が1000万人を超え、現在までの動画の総再生回数は120億回に迫る。

 仲條氏は、米国の通信社であるブルームバーグなどを経て、17年に現職に。社会的責任を強く意識しつつ、安心・安全なコミュニティーの維持および、充実したクリエーターエコノミー実現のため日々奔走し、ここ5年のYouTubeの成長を支えた立役者だ。

 トップクリエーターとマネジメントというそれぞれの立ち位置から、YouTubeの軌跡を追いつつ、クリエーターに及ぼした変化や、今後訪れるであろう未来について語り合ってもらった。

――お2人のYouTubeとのファーストコンタクトは?

仲條亮子(以下、仲條) 06年頃でしたか、『Where the Hell is Matt?』という、ゲームクリエーターのマット氏が世界中を巡ってダンスをする動画が、強く印象に残っています。ムーブメントが広がり、スポンサーが付いて、ついには世界規模になっていく。そんなYouTubeの世界に衝撃を受けました。

はじめしゃちょー(以下、はじめ) 僕がYouTubeを始めたきっかけは、大学1年生時の失恋なんです。

仲條 あら。

はじめ 見返してやろう! と思ったときにふと、YouTubeがいいんじゃないかと思って。「知る人ぞ知る世界で、有名になる」って、かっこいいなと。それが今や、動画クリエーターは「いて当たり前」の存在。時代の変化に驚いています。

多様性を求める時代に

――YouTubeはなぜここまで普及したのでしょう?

はじめ 人々の空き時間の使い方が変化したこと、通信環境や機器の進歩が大きいと思います。スマートフォンの普及以降、「移動中に動画を見る」という人が増えましたし、画質もきれいになった。それが、YouTubeを盛り上げたと思います。

仲條 私も同感ですね。

はじめ 今ではテレビのリモコンに「YouTube」というボタンがありますから。あれ、すごいなと思うんですよ。

仲條 本当に。加えて、時代が「多様性」を求め始めたことも大きいと思いますね。

はじめ 動画の尺も変わっていきましたね。どんどん長尺の動画が増えていき、長さにも多様性が生まれています。最初は短めの動画ばかりでした。

仲條 YouTubeに投稿された最初の動画って、「ミー・アット・ザ・ズー」という18秒の本当に短いものでしたもんね。

はじめ 長めの動画が増えたのは、最近、大きなディスプレーにYouTubeを映して、座って見る環境が整ってきたことも背景にあると思います。

仲條 多様なフォーマットがそろいつつありますよね。ドキュメンタリーをしっかり見たい方も、短尺が好きな方も楽しめる。

はじめ 最近ではYouTube ショートが生まれて、見せ方のバリエーションが広がりましたね。

仲條 ライブ配信活用の加速も、特にコロナ禍以降、感じています。21年に藤井風さんが配信した日産スタジアムでのライブは、アメリカのビルボード誌でも紹介されましたし、観光地など、その時は行けなかった場所の様子を、ライブで伝えてくださる方もいました。はじめさんも昨年暮れに、登録者数1000万人突破をライブ配信して、視聴者の皆さんとその瞬間を共有されましたよね。

はじめ そうですね。僕は普段、あまりライブ配信をしないんですけど、1000万人の瞬間だけは生配信したいと思っていたんです。ファンの方たちと達成した記録でしたから。

仲條 もう、感動してしまって。その瞬間を分かち合える場があることの重要性を改めて感じました。

――最近のトレンドをどう見る?

仲條 コロナ禍では、教育系クリエーターがとても重要視されましたし、最近は有名人のクリエーターも増えましたよね。(VTuberのような)バーチャルクリエーターがどんどん人気になる一方で、車いす女子のクリエーターなどいろんな視点を持った方々が増えました。改めて今、新しいステージにあると思いますね。

はじめ 僕は、ダンダスというクリエーターが気になっています。あえて音をバリバリ割るASMR、その発想が新しい。

仲條 日々生まれるトレンドの背景には、クリエーターのトライ&エラーがあるんでしょうね。

はじめ 常に探り続けていますね。例えば最近、ミラーレス一眼で撮影してみているんですが、その鮮明な映像がYouTubeというフォーマットに合っているのか、ちょっと迷っているところもあって。正解がないんですよね。

仲條 クリエーターの皆さんの、試すことを怖がらない姿勢、私は本当に素晴らしいと思っています。

はじめ 編集方法や企画が、時代やトレンドに応じて変わっていくなか、僕もマイナーチェンジを繰り返しています。やりたいことに固執せず、チャレンジし続けているからこそ、生き残ることができていると思いますね。


はじめしゃちょー
1993年2月14日生まれ。富山県出身。12年、友人らと動画投稿を開始。のちに個人チャンネルを開設し、マルチクリエーター型YouTuberとして活躍。15年、YouTube JapanのテレビCMに出演。21年12月、メインチャンネル『はじめしゃちょー』のチャンネル登録者数が1000万人を突破した
仲條亮子(なかじょう・あきこ)
千葉県出身。テレビ番組制作を経て、ブルームバーグ日本法人入社。放送部門のアジア環太平洋の代表、日本営業統括、在日副代表を歴任。13年からグーグル日本法人執行役員を務め、17年、YouTube日本代表に就任
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