世界に売るデザインの力 第4回

漆の老舗・坂本乙造商店(福島県会津若松市)は、家電、自動車、時計、文具など工業製品に漆塗装を施す事業も展開する。その価値を最初に認めたのは海外だった。今では日本のメーカーとの仕事が多いが、その製品のほとんどは海外に向けられる。

「PENTAX 645D japan」。ペンタックス645Dの「2011カメラグランプリ大賞」受賞記念として製作した漆塗りデジタル一眼レフカメラ。期間限定の完全受注生産品
「PENTAX 645D japan」。ペンタックス645Dの「2011カメラグランプリ大賞」受賞記念として製作した漆塗りデジタル一眼レフカメラ。期間限定の完全受注生産品

 坂本乙造商店は、1900年に創業した漆の老舗であり、もともとは塗料としての漆を製造販売する商店だった。ところが戦後になると漆の需要が減少し、漆の販売だけでは事業として成り立たなくなった。そこで同社は漆器の産地問屋として生き残りを図った。ところが70年代から、「『これからは産地問屋も生き残れなくなるのではないか』と感じるようになった」と言うのは同社社長の坂本朝夫氏である。

 「産地問屋から見るとお客さんはとても遠くて顔が見えない。漆器を作る職人さんがいて、産地問屋があって、消費地問屋、小売店があって、その先にやっとお客さんがいる。将来、作家さんだけは残るかもしれないが、こうした古い構造の産業は残らないのではないか」(坂本氏)。そこで坂本氏は、ものづくり、特に工業製品の分野に活路を開こうと考えた。

 70年代というと、日本の工業製品が最も輝いていた時代の始まりである。坂本氏は75年ごろから色々な工業製品のメーカーを訪ね、「漆を使ってみませんか」「共同でやってみませんか」という話をして回った。しかし当時は効率やコストなどを重視する時代。「『ムダ、ムリ、ムラ』をなくすのが我々の課題なのに、あなたの話は『ムダ、ムリ、ムラ』だらけだ、とほとんど門前払いだった」(坂本氏)

工芸品のバラツキが問題に

 一方で同じ頃、フランスの有名なブランドから、「漆を使ってみたい、技術を教えてほしい」という要請が来た。「日本ではどこも門前払いなのに、なぜフランスのブランドが興味を示すのかを聞くと、『安くて良いもの』を作る仕事は日本に取られてしまった。今さらその分野で競争しても勝ち目はないから、より付加価値の高い製品を作るために、色々な天然素材を研究している、ということだった。そこで、こちらから漆について教え、代わりに欧州の伝統産業について勉強させてもらった」(坂本氏)

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