連載の第4回では外部からダークパターンを是正する最も強力なアプローチとして、法律による規制について解説する。米国では、人気オンラインゲーム「フォートナイト」を提供する米エピックゲームズが、ダークパターンを摘発されて多額の罰金を命ぜられる事例も出ている。現地住民が利用するサービスであれば、他国のサービスであっても対象となる諸外国の法規制もある。そのため、日本企業の視点で見ても、外国人の利用が想定されるネットサービスなどを提供する場合は無関係ではない。
2022年に国内の消費者団体が、ある企業を相手取り、ダークパターンで差止請求訴訟を起こした。対象企業は自社のWebサイトで、景品表示法の「有利誤認表示取引条件について、実際よりも取引相手に著しく有利であると誤認される表示など)」に当たる表示を行ったことがその理由。下図は実際の訴訟とは数字や文言などを変更し、簡易的に再現したものだ。初回価格を大きく表示し、さもお買い得かのような印象を与えているが、画面下部に小さめの文字で必ず複数回の継続購入が必要である旨が記載されている。
消費者団体の主張は、「初回の特別価格が適用されるためには、複数回の継続購入が必要条件である。にもかかわらず、画面上の表示では1回のみの購入契約であるように見せていた」ことと、「複数回の平均支払い金額よりも初回の支払い金額を安くする合理性がないのに、初回の支払い金額を強調して表示していた」ことが景品表示法の有利誤認表示にあたるというものであった。実際の取引よりも、消費者にとって有利な条件で購入ができるかのように誤認させる手法が使われているということである。
だが、この訴えは棄却された。一般的な消費者であれば、商品の購入が最初の1回だけの契約ではないと容易に理解することができるという理由だ。判決文からは、細部にわたって慎重に検討がなされたことがうかがえる。初回の価格と比較すると小さい文字ではあるが、必ず複数回の購入が必要であることや合計金額など購入者に伝えるべきことは注意文にすべて記載されており、法律上は違法に当たらないという判断となった。しかしながら、実際に契約内容を誤認し、消費者団体へ相談した消費者がいたことも事実だ。
UX(ユーザー体験)やUI(ユーザーインターフェース)は、さまざまな要素で総合的に評価されるものである。そのため、ダークパターンとそうでないものを分ける絶対的な基準をつくることは難しく、どのような基準で判断を下していくかはダークパターン規制の課題の1つである。
ダークパターン規制に進む日本の法規制
一方、近年、法律によるダークパターンの規制が進んでおり、欧米では法に違反した事業者に対して罰金が課される事例なども増えてきた。ダークパターンは「ダークパターン禁止法」のような包括的な法律があるわけではなく、消費者保護、プライバシー保護、不正競争防止・独占禁止、差別禁止、児童保護などといった既存の法律の延長線上で取り締まりが行われる。
まずはダークパターンの取り締まりに当たる日本の法律を見ていこう。消費者保護の観点では、直近のトピックとして22年6月に施行された「特定商取引法の改正」が挙げられる。特定商取引法とは、訪問販売・通信販売・連鎖販売取引といった消費者トラブルが生じやすい取引(特定商取引)において取引の公正性と消費者被害の防止を図るための法律だ。
連載の第3回で解説したとおり、1回きりの購入に見せかけて実は定期購入の契約になっているという「Hidden Subscription(隠れたサブスク)」の被害は年々増加している。22年6月の特定商取引法の改正では、定期購入でないかのように誤認させる表示に対して、即時に罰則が適用される直罰化が定められた。また、契約解除を妨害する可能性がある表示の禁止などが追加されている。さらに、これまで書面での手続きが必要だったクーリングオフがメールやファクスでも可能となった。
景品表示法も消費者保護に関わる主な法律だ。不当な表示や過大な景品類を規制し、公正な競争を確保することで、消費者が適正に商品・サービスを選択できる環境を守ることを目的としている法律だが、ダークパターンはこの景品表示法の「優良誤認表示(実際よりも著しく優良であると一般消費者に示す表示など)」や、冒頭で紹介した事例でも論点になった「有利誤認表示」の違反に当たる可能性がある。消費者庁は22年6月に行われた「第4回景品表示法検討会」の中でダークパターンを中長期的な検討課題の1つとして挙げており、今後取り締まりはさらに強化されていくと考えられる。
FTCを中心とした全米でのダークパターンの告発
続いて、ダークパターンの規制が進んでいるアメリカの現況を見ていこう。米国全土ではFTC(連邦取引委員会)を中心にダークパターンの規制を進めている。FTCは市場における欺瞞的、または不正な商習慣を阻止することを目的とする米国の消費者保護機関である。ROSCA (オンライン購入者信頼回復法)やCOPPA(児童オンラインプライバシー保護法)といった法律によってダークパターンの摘発をおこなっている。
ROSCAは商品やサービスをインターネットで販売する事業者に対して、以下の3点を定めている。
(1)消費者の請求情報を入手する前に取引のすべての重要条件を明確かつ目立つように開示
(2)消費者の口座に請求する前に消費者から明示的にインフォームドコンセント(十分な合意)を得る
(3)消費者が定期的な請求を停止するための簡単な仕組みを提供しない限り、ネガティブオプション機能による請求を禁じる
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー