前回までは、典型例や生まれた背景といったダークパターンを理解するうえでの前提となる内容を紹介してきた。意図的ではなかったとしても、消費者が「ダークパターンである」と感じた場合に何が起きるのか。第3回ではダークパターンが及ぼす9つの負の影響を図解する。一過性の成果に目がくらみダークパターンに手を染めると、たった1社の影響によって業界全体の信用を失墜しかねない。

(写真/Shutterstock)
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 第2回で紹介したアルビンド・ナラヤナン氏らの研究によれば、事業者がダークパターンを用いる目的には、「ユーザーにより多く消費させる」「ユーザーからより多くの情報を引き出す」「サービスをより中毒性の高いものにする」の3つがあるという。まずは、ダークパターンを用いることで事業者が利益を得る一方で生じている負の影響について紹介する。

 書籍『ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン』(翔泳社)では、事業者がダークパターン使用により生じる損失やリスクについて下記の9点を紹介している。

(1)カスタマーサポートへの負担増
(2)返品率の増加
(3)SNSでの悪評の拡散・ネガティブレビュー(レピュテーションリスク)
(4)顧客のLTV(顧客生涯価値)の低下
(5)新規顧客獲得コストの増加
(6)従業員の離職率・人材の採用コストの増加
(7)消費者トラブルへの発展(紛争・訴訟のリスク)
(8)法律違反・罰則リスク
(9)業界全体の信頼が損なわれる

 これら9つは独立して存在するというよりも相互に関連しているといえよう。下図は筆者がそのつながりを図式化したものである。

ダークパターンのリスクは総合的に関連しており、場合によってはドミノ式に複数のリスクが顕在化し、大きな損失を生む恐れがある
ダークパターンのリスクは総合的に関連しており、場合によってはドミノ式に複数のリスクが顕在化し、大きな損失を生む恐れがある
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 まずは「ダークパターンの使用」から始まる、負の影響の連鎖を見ていこう。本連載第1回で紹介したような、「Urgency(緊急)」や「Social Proof(他者圧力)」といったダークパターンによって、ユーザーは焦らされたり、惑わされたりして、当初予定していなかった「不本意な購入」をしたとする。その結果、問い合わせが増えたり、返品率が増加したりする。より深刻な場合はそのまま消費者トラブルへと発展する。

 消費者はだまされたと思った後には、不信感を抱き継続的な購入が見込めないため、LTVの低下を招く。さらに、SNSに悪評を書く可能性もある。悪評が出回れば、より新規顧客獲得が難しくなり広告費などのコストが増加する可能性がある。さらに、一部の事業者がダークパターンを使っていたことによって、例えば「健康食品の通販は怪しい」といった具合に、業界全体へ不信感が広がることになれば、市場全体に悪影響を及ぼす恐れもある。

 社会的に悪い印象のある企業と認識されれば、従業員の労働意欲が失われ、離職率や新規採用コストの増加につながりかねない。このように、1つのダークパターンをきっかけに企業活動のさまざまな点に悪影響が出てくる可能性がある。また、「(9)業界全体の信頼が損なわれる」については広く捉えると、業界にとどまらずオンラインサービスそのものの信頼性の低下につながるとも考えられる。

悪いと分かっていてもダークパターンに陥る3つの理由

 さて、ダークパターンの使用は消費者、事業者の双方に悪影響を及ぼす可能性があることはご理解いただけたと思う。にもかかわらず、なぜダークパターンは使われてしまうのか。ダークパターンが使われる背景には大きく3つのケースがあるのではないかと筆者は考えている。

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