消費者を無意識のうちに契約へと誘導する――。「ダークパターン」と呼ばれる手法の一例だが、単なるユーザーインターフェイス(UI)デザインの問題ではなく、組織的な問題としてその解決のために構造的な課題に向き合わなければならなくなっている。大事なのは、その判断基準が「ユーザーがダークパターンと感じるかどうか」にあるという点だ。連載第1回ではダークパターンの7つの類型を紹介し、対策の第一歩を提示する。

ダークパターンの類型を知ることが、防止の第1歩になる
ダークパターンの類型を知ることが、防止の第1歩になる

 「ダークパターン」という言葉をご存じだろうか。暗黒のパターンとはものものしい名称だが、これはアプリやWebサービスなどのUIにおいて、ユーザーをだましたり、勘違いさせたりするような手法に対してつけられた名称である。

 ダークパターンという用語は、ここ数年でメディアをにぎわすようになってきている。その背景の1つとして、行政での取り組みが盛んになってきたことが挙げられる。

 2021年に、米カリフォルニア州の消費者プライバシー法(CCPA)で、サービスの解約手続きにおけるダークパターンが禁止された。また、米ワシントン州でも生活者の同意取得においてダークパターンを用いることを規制する法案が提出されている。日本においても消費者庁をはじめとしてダークパターンへの取り組みがはじまり、行政、UI研究者、憲法学者などでの議論が活発化している。

 ダークパターンを巡る法規制の施行や議論が本格化することで、社会的にもダークパターンへの関心が高まってきている。

 ダークパターンという言葉は、2010年にUX(ユーザー体験)デザイナーのハリー・ブリグナル氏によって開設されたサイト「DARK PATTERNS」によって使われ始めた。同年は、ちょうどスマートフォンの普及によって、個人がインターネットに接続された端末を日常的に持ち歩くようになり、さまざまなオンラインサービスが発展し、問題がより社会的にも認知されてきた時期といえる。

 それ以前からもこういったUIは問題視されてきていたが、単に使いにくい、手間がかかるということだけではなく、明らかにユーザー=消費者・生活者に害を及ぼすもの、としているところ、つまりユーザーに害を及ぼすユーザー体験としているところがダークパターンの特徴といえる。現在ブリグナル氏は「DECEPTIVE DESIGN(欺瞞[ぎまん]的デザイン)」という名称で、ダークパターンを含めた人をだますデザインについての啓発を行っている。

▼関連リンク(クリックで別サイトが開きます) DECEPTIVE DESIGN

 このダークパターンは、その後アカデミックな研究対象としても扱われるようになり、その種類や構造などが議論されるようになってきた。そしてその結果として、ダークパターンとは単なるUIデザインの問題ではなく、組織的な問題であり、そしてその解決には構造的な課題に向き合わなければならないことが明らかになってきている。

ダークパターンとはどのようなものか

 そもそもダークパターンとはどういったものなのか。フリー百科事典サイト「Wikipedia」によるとダークパターンとは以下のように記されている:

ダークパターン(英語: Dark pattern)は、ユーザーをだますために慎重に作られたユーザーインタフェイスのことである。例としては、購入時に保険に入会させたり、何かを定期購入させるたりするなどの特定の行動をユーザーに促すものがある。ダークパターンには、プライバシー侵害や人々の判断力低下など複数の問題点が指摘されている。

 つまり、ダークパターンとは、

  • ユーザーをだますために作られたユーザーインターフェイスであり、
  • プライバシー侵害や人々の判断力低下などの問題が指摘されている

というものであるといえる。

 詳しくは次回以降で紹介するが、例えば、虚偽のタイムセール情報をユーザーに見せ、焦らせて買わせる、といったようなものは典型的なダークパターンといえよう。さらに昨今ではこの定義からさらに拡張され、インターフェイス(操作画面)を超えて、不誠実なサービスの仕組みなども指すことが多い。

 オンラインプライバシー研究者として知られているアーバインド・ナラヤナン氏らが、米コンピューターサイエンス学会のACM(アソシエーション・フォー・コンピューティング・マシナリー=米国計算機学会)が発行する会報誌に寄稿した記事「Dark Patterns: Past, Present, and Future(クリックで外部サイトが開きます)」で挙げた事例もその1つ。米メタ(旧フェイスブック)が、二段階認証のためにユーザーが入力した電話番号を、ターゲティング広告の配信に利用したという内容だ。こういった、ユーザーの個人情報を悪用するような不誠実な扱いや、その仕組み自体もダークパターンの一種であるとしている。

 しかし、こういったユーザーに見えないところでデータを悪用するようなものはむしろ「ダーク」であることが分かりやすいといえるかもしれない。ダークパターンの議論で難しいのは、それがあくまで「受け手がダークパターンと感じるか」に依存しているところといえる。

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