
全日本空輸(以下、ANA)は2022年4月、Instagramの公式アカウントの運用戦略を大きく転換した。「ANAにまつわる人」にスポットライトを当て、短尺動画機能「リール」を活用して紹介している。リールをフォロワー拡大の柱に据え始めてから、フォロワーの増加率は約2.9倍に急上昇。22年9月時点でフォロワーは62万5000人に達した。リールの投稿に当たっては内容や頻度を工夫することで、新規のフォロワーを増やし続けている。
1日の歩数は1万5000歩、入社して3年目、好きな業務はタイヤ交換、好きな食べ物はラーメン……。
自己紹介するかのように、自分自身にまつわる情報を動画で明かしていく若い男性。彼はANAの整備士だ。動画はANAが運用するInstagramの公式アカウントに、リールと呼ばれる短尺動画機能を活用して投稿された。
ANAのInstagramにはその他にもさまざまな人物が登場する。「Hello Everyone. I’m Shinichi Inoue, CEO of ANA」。リールの動画でこう切り出したのは、ANAの井上慎一社長だ。Instagramは米国発のサービス。グローバル企業であるANAのアカウントには日本人以外のフォロワーも多い。外国人のフォロワーに、社長自ら英語で会社をアピールする。
ANAは2015年3月にInstagramに公式アカウントを開設して以来、「飛行機」や「景色」などの「静止画」を中心に投稿してきた。このコンテンツの投稿戦略を、22年4月に大幅に転換。「社員」「ANAグループの取り組み」中心へと切り替え、動画投稿をメインにしている。
戦略転換によりコンテンツの幅が増えたことで、22年4~6月の投稿件数は105件と、前年同期の41件と比較して2倍以上に増えた。フォロワーの増加数は、戦略転換前の22年1~3月が約8100人増だったのに対し、同4~6月は約2万3600人増と、「約2.9倍の増加率」とANAホールディングスの広報・コーポレートブランド推進部 SNS・メディアプランニングチーム課長の槻本裕和氏は明かす。
また、ANAのInstagramは「エンゲージメント率」が高いのも特徴だ。エンゲージメント率とは一般的に投稿に対するいいね!、コメント数、保存数の合計を、インプレッション(投稿が表示された回数)またはリーチ(投稿を見たユニークアカウント数)で割って算出する。いくらフォロワーを集めても、ANAに関心の低い人ばかりでは、マーケティングの効果は期待できない。フォロワーを増やしながら、同時に高いエンゲージメント率を維持することが重要だ。
ANAの平均エンゲージメント率は10.02%(22年4月~6月)。SNS支援会社のコムニコ(東京・港)が20年3~5月にかけて実施した調査では、サービス業254アカウントのエンゲージメント率の平均値は5.49%だった。比較すると、ANAアカウントのエンゲージメント率の高さは一目瞭然だ。
Instagram戦略の中心を「リール」にした理由
ANAが22年4月から本格活用を始めたリールは、最長90秒の縦動画を作成・投稿・発見できる機能だ。InstagramのTikTok対抗機能といわれる。
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