※日経エンタテインメント! 2022年9月号の記事を再構成

コムドット初のCM出演作品となった、UHA味覚糖の「水グミ 巨峰味」。今年5月末から地上波での放送がスタートし、学校の体育館で水風船をぶつけ合うメンバーたちの仲の良い姿を描いている。しかも今作は、演者であるコムドットが企画立案から参加するという、前代未聞の作り方となった。映像業界で30年のキャリアを持ち、今作で映像監督を務めた薮内省吾氏に、CM作成の裏側と、コムドットの動画の魅力について聞いた。

コムドットのスローガンの1つである「放課後の延長」から、学校の体育館で撮影するという案も、彼らが持ってきたアイデアだという
コムドットのスローガンの1つである「放課後の延長」から、学校の体育館で撮影するという案も、彼らが持ってきたアイデアだという

 今回のCMは「UHA味覚糖とコムドットで化学反応を起こす」ことが狙いでした。とはいえ、彼らが映像の企画段階から担当すると最初に聞いたときは驚きましたね。一般的に、出演者がCMの企画まで担当することなんて、ほぼないですから。

 でも、そんな心配は杞憂(きゆう)に終わりました。やまとさんが最初の打ち合わせで持ってきたコンセプトが「水を感じさせたい」というもの。当たり前かと思うかもしれませんが、これって実は意外と出てこないんです。若手の映像監督などにも多いんですけど、たいていマニアックで伝わりづらいテーマを選びがちなんですよね。

 その点彼は、商品の特性だけでなく視聴者目線もちゃんと意識して、シンプルで分かりやすいコンセプトを提案してきました。クリエーターだけでなく、マーケターとしても優秀だなと思います。そして「水のシズル感を水風船で表現したい」ということで、あくまでも僕たちはサポートに回る形で、CM作品を作り上げていきました。

 撮影現場では、細かな指示を出すことはほとんどなかったですね。というのも、メンバーたちはどう立ち回れば自分たちが面白く映るかを理解しているんです。司令塔役のやまとさんがいて、他のメンバーたちも1ミリの狂いもなく求められた動きをしていました。動画で培ってきたチームワークを感じましたね。水風船をぶつけ合うシーンも自由に演技してもらいましたが、一発でOKになりました。

 唯一、要望を出したのはラストです。5人が並んで商品名を言うシーンなんですが「安心感を与えるために落ち着いたトーンで」とお願いしました。ただ、彼らはそのままやるのではなく、元気の良さもちゃんと感じさせるテンションで言っていて、さすがだなと思いました。

次の世代の人材をも作る

 薮内氏は、「正直、初めて彼らの動画を見たときは彼らの良さがよく分からなかったんです」と語る。だが、今は映像業界の1人として、「メディアの垣根を越えていける存在」だと期待する。

 普通、テレビ番組などでは「この問題を皆で解決する」などといった企画の柱がありますが、5人の雑談から始まる彼らの動画では、一見するとテーマ性が見当たらない。これまでにないセオリーに困惑したんです。ただ、きっと彼らだけには見えている風景があって、それを僕らは予想しながら楽しむ。それが、彼らならではの動画の良さなんだと気が付きました。

 撮影の合間に、やまとさんにYouTubeへの思いを聞いたところ、「企画で勝負していない」と語っていましたが、無意識であっても明確なコンセプトがあるんだと思います。動画の雑談でお互いををイジっているときも、怒りっぽいキャラクター、嫌われやすいキャラクターなど、各自のパーソナリティーが出るトークになっていて、そこにちゃんと意図があり企画になっているんですよね。

 従来の映像業界やエンタメ業界には、芸能界含めた様々なしがらみもありましたが、YouTube界という異なる文化圏から来た彼らならば、その枠を崩してくれるのではないかと期待しています。いずれ近い将来、彼らに影響を受けたテレビマンや映画監督といった、次世代のクリエーターたちが活躍する未来も訪れるんじゃないかなと思います。

薮内省吾氏(やぶうち・しょうご)
1968年生まれ、大阪府出身。大学卒業後、映像業界へ。2022年にROBOTを退社して独立。MVやCM、映画『ファンタスティポ』など手掛けた作品は多数。バラエティ番組『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系)のキャラクター、スマジロウもデザインする
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