近年、注目を集める「メタバース」。その普及によってゲーム業界はどう変わっていくのか? 「東京ゲームショウ2022」の基調講演「ゲームは、絶対、とまらない。」にはメタバース関連のキーパーソン3人が登壇し、ビジネスの観点で捉えたメタバースの可能性について語った。
インターネット上の仮想空間でさまざまなサービスを提供する「メタバース」。各方面から注目されているが、ゲーム業界にとってはどんな存在なのか。「東京ゲームショウ2022」の基調講演では、メタバースのプラットフォーム「cluster(クラスター)」を提供するクラスター(東京・品川)のCEO(最高経営責任者)加藤直人氏、メタバースのプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」を世界的に展開している米ロブロックスのアリ・ステイマン氏、バンダイナムコグループ チーフガンダムオフィサーの藤原孝史氏が登壇し、それぞれの立場から見たメタバースの現状と可能性について語った。モデレーターはKADOKAWA Game Linkage ファミ通グループ代表の林克彦氏。
プレーヤーがクリエイターになるメタバースの世界
登壇者たちが「メタバース」をどう捉えているかを一通り語った後、テーマにあがったのは「メタバースによって、ゲーム(IP)はどのように楽しくなるのか」だ。
「機動戦士ガンダム」や「鉄拳」といった、バンダイナムコグループが持つキャラクターコンテンツの世界観を仮想空間上に展開する“IPメタバース”の構築に取り組んでいる藤原氏は、「バンダイナムコとしては、ファンの力を借りて仮想空間を盛り上げていくことが、メタバースに取り組む上で最も重要なことだと考えている。ゲームメーカーが提供するタイトルをプレーしていた人たちが、メタバースの世界ではメーカーと一緒にゲームを作るようになる。そうなると、プレーする側も意識が変わってくる。ゲームの価値が大きく変わる。新たな価値体験がメタバースから生まれてくる」と話した。
また加藤氏は、プラットフォーマーから見たメタバース空間におけるゲームの楽しみ方として、「クラスターのユーザーたちは、ゲームで遊んでいるというより、深夜のファミリーレストランに集まってだらだら話しているような遊び方をしている。最近クラスターで流行したゲームは『コイン落とし』。仮想空間に置いてあるコイン落としで遊びながらみんなでだらだら過ごす。メタバースの世界では、ゲームの楽しみ方や“面白いゲーム”の定義が根底から変わっていくように思う」と、メタバース空間の現状を紹介した。
「YouTubeやTikTokの素人動画が人気になったように、プロのクリエイターが作ったゲームで遊んでいた時代から、クラスの友達が作ったゲームでゲラゲラ笑い合っているような遊び方に変わっていくのかもしれない」(加藤氏)
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続くテーマは「ビジネスの観点から考えるメタバースの可能性」だ。
藤原氏は「現実世界で実現したいことを実現できるのがメタバースの世界。メタバース空間を利用することで、現実のビジネスも、より面白くなっていく。実際にある商品を利用した新しい楽しみ方がメタバース空間で可能になる」とした上で、現在構築中のIPメタバースを例に挙げた。「関連会社のIP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)とメタバースを連動させることで、ユーザーに新しい価値体験を提供したい。自分で組み立てたガンプラを3Dスキャンして、メタバース空間でそれに乗り込んでバトルすることができないか検討している」(藤原氏)
一方で加藤氏は「メタバースの発展度合いによって、いろいろなビジネスが生まれてくると思う。現段階でもいろいろなビジネスが生まれていて、例えばトヨタ自動車は、試乗ブースをクラスター上に作ってユーザーに試乗体験を提供している」と、メタバース空間ですでに始まっているビジネスの例を挙げた。
「メタバース空間では、モデルやカラーを簡単に変更できる。現実では、ハイブランドの自動車を運転する機会は多くないが、メタバース空間では、いろんな人たちに試乗を体験してもらうことができる」(加藤氏)とした。
さらに加藤氏は、その先のビジネス展開も提示した。「空間自体を誰でも作れるメタバースの本質はクリエイターにある。それもトップ・オブ・トップのクリエイターだけでなく、コンテンツ作りを学んだばかりの中学生、高校生が面白いコンテンツを作って、それによってお金を得られる機会がどんどん広がっていく」と展望を語った。
メタバースは普及するのか
ここまで挙げたことからもメタバースが注目されていることは間違いないが、実際に利用している人はまだ多くないというのが実情だろう。そこでモデレーターの林氏が取り上げたのが「メタバース普及のための課題」というテーマ。
加藤氏は「メタバースが『セカンドライフ』やMMO(大規模多人数同時参加型オンラインゲーム)のようなゲームの1ジャンルと思われることを懸念している。そうした先入観からメタバースの世界に入ってこないのは大きな損失だと思う」と話す。
またロブロックスのステイマン氏は「メタバースはユーザーが創造性を発揮してこそ進んでいくもの。ユーザーの創造性を促すことが大きな課題」と話し、常に新しい技術を導入し、より便利なツールを提供していくことの必要性を強調した。
藤原氏は「メタバースをゲームに置き換えて言えば、エンディングのないワールドゲームを作るようなもの。バンダイナムコがベストと思うものを作り上げるのではなく、ユーザーと一緒に場を作っていく。トライ・アンド・エラーを重ねていくしかない」と、ユーザーとの共創の重要性を繰り返した。
メタバースはどこまで進化するのか
ユーザーの立場からすると、メタバースのサービスがプラットフォーム単位で展開されていくのか、プラットフォーム同士が連携していくことになるのかも気になるところ。4つめのテーマは「メタバースで実現したいこと(理想や目標)」だ。
加藤氏は「メタバースはゲームの1ジャンルではなく、インターネットの次と言えるくらい大きな波だと思っている。1社で何かができるっていうことは絶対にないので、例えばアバターのフォーマットを統一するなど、プラットフォーム同士が連携して進んでいくほうが面白いことになる」と、プラットフォーム同士の連携に期待する。
ステイマン氏は「メタバースを利用するにはゴーグルやヘッドセットが必要だと思われているが、将来的にはそうしたものを使わずに入れる世界になってるかもしれない」と言う。「スマートフォンやパソコン、ゲーム機など、いろいろな端末で利用できることが重要」と指摘した。
また藤原氏は「いろいろなIPメタバースを作っていくこと。先行して『機動戦士ガンダム』に着手しているが、『アイドルマスター』や『鉄券』『たまごっち』など、いろいろなIPメタバースが作れる。その上で、それらのIPメタバースがつながっていくことが理想」と話した。
構築中のガンダムのメタバースについては「フェーズを切りながらユーザーに使ってもらい、可能性を見ながら作り上げていこうと考えている。完成がいつかは明言できないが、2023年から少しずつ使ってもらえるようにしたい」(藤原氏)とのことだった。
最後は加藤氏が「なりたい自分になれるというか、理想の世界を自分で作って、その中で生活できるのがメタバースの世界だと思っている。メタバースの世界は物理の法則に制限されないので、現実世界だと絶対にできない……例えば『1億人で何かを作る』といったクリエイティブ体験が可能になる」とした上で「そこに経済が入ってきて、新しい価値が生まれる流れになってほしい」と語り、講演を締めくくった。
(文/堀井塚 高)
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