「東京ゲームショウ2022」(TGS2022)に初出展ながら大規模ブースを構え、ゲームパブリッシャーとして存在感を示した集英社ゲームズ。出版とゲーム、それぞれの業界が持つ力をかけ合わせることを打ち出しているが、実際の開発はどのように行われているのか。出展タイトルの制作陣に聞いた。

東京ゲームショウ2022に出展した集英社ゲームズのブース
東京ゲームショウ2022に出展した集英社ゲームズのブース
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 集英社ゲームズは2022年4月に本格始動したばかりの新しいゲーム会社だ。出版業界が持つ「新しい才能を見つけて育てる力」と、ゲーム業界が持つ「作品を開発して届ける力」、この2つをかけ合わせてまだ見ぬ新たなゲームを生み出すことをミッションに掲げている。出版業界が持つ力とはもちろん母体である集英社のノウハウであり、ゲーム業界の力の部分は経験豊富な人材を積極的にリクルートすることでまかなっている。

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 TGS2022には、今後発売予定のオリジナル作品を中心に5タイトルの試遊台を設置。会場で新作タイトルの発表を行うなど、リアル開催ならではの演出に力を入れていたのが印象的だった。

 出展した合計6タイトルのうち、「ジャンプ」など同社出版物でおなじみのキャラクターが登場するのは1作品のみ。集英社のマンガ作品をゲーム化するのではなく、クリエイターの個性を引き出してゲーム発の新たなIP(キャラクターなどの知的財産)を生み出そうとする姿勢がうかがえる。

 個人でもSteamなどのプラットフォームを通じてゲームを配信できる今、ゲームクリエイターはなぜ集英社ゲームズを選んだのか。また、実際の開発はどのように行われているのか。出展タイトルの『SOULVARS(ソウルヴァース)』と『ハテナの塔 -The Tower of Children-』の制作陣に聞いた。

世界観にほれ込み、移植と「売り方」を提案

 まずは『SOULVARS』だ。同タイトルは個人スタジオのginolabo(ジーノラボ)が開発し、22年1月にスマホ向けゲームとして配信されたRPG。AppStoreやGoogle Playストアの有料RPGランキングで最高1位を獲得するなど、配信直後から人気を博した。

 そんな『SOULVARS』の世界観とゲームセンスにほれんこんだ集英社ゲームズが開発者のジーノ氏にコンタクトを取り、PCおよびコンソール版を共同開発。東京ゲームショウ2022が初のプレイアブル出展となる。本作のプロデューサーである集英社ゲームズの鈴木達也氏に、プラットフォーム拡張を手がけることになった経緯から聞いた。

ゲームプロデューサー 鈴木達也氏(集英社ゲームズ)
ゲームプロデューサー 鈴木達也氏(集英社ゲームズ)
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――ginolaboとタッグを組むことになった経緯を教えてください。

鈴木達也氏(以下、鈴木) 『SOULVARS』はインディークリエイターのジーノさん(ginolabo)がお一人で、メインの仕事をしながら、平日の夜や週末を使って3年間かけて作られたゲームです。しかも、ゲーム開発やアプリリリースが未経験の状態から始めたので、このゲームが1作目。その世界観やゲーム性に引かれてお声がけしたところ、同じタイミングで既に「7社から声がかかっている」と言われました。

 もともとが縦画面で気持ちよくプレーできる点を売りにしていたゲームでもあったので、プラットフォームを拡張する際の見せ方や売り方を提案させていただたところ「ぜひとも集英社ゲームズに」とおっしゃっていただきまして、何とかここ(東京ゲームショウへの出展)までたどり着いた状態です。

――開発者であるジーノ氏が集英社ゲームズを選んだ決め手は何だったのでしょう?

鈴木 当社が具体的なプランを出したことだと思います。「こういう考え方をしてくれているのなら、いい形になるんじゃないか」と理解してもらえたのではないかと。あと、これは結果的になんですが、「ジャンプ」などで活躍している作家の宇佐崎しろ先生(『アクタージュ act-age』作画など)にキービジュアルを描いていただいたことも大きいと思います。というのも、ジーノさんは「ジャンプっ子」だったんです。

 ただ、ジーノさんが『SOULVARS』をリリースしたのが22年1月で、交渉させてもらったのが2月から3月にかけてなので、タイミングとしては集英社ゲームズが始動する「前」でした。ですので、会社として何もお約束できる状態ではなかったんですが、私たちの姿勢や期待値という部分を見てもらえたのではと思います。

マンガ家・イラストレーターの宇佐崎しろ氏が描いた『SOULVARS』のキャラクター
マンガ家・イラストレーターの宇佐崎しろ氏が描いた『SOULVARS』のキャラクター
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――「集英社で連載しているマンガ家とコラボできる」と打ち出したわけではなく、結果的に集英社の強みが発揮されたということですね。

鈴木 そうですね。私はソニー・インタラクティブエンタテインメント出身なんですが、正直、集英社で連載しているような作家さんにキービジュアルを依頼するなんてどうすれば実現するのか分からなかったですから。

 中国では、アニメ(Anime)、マンガ(Comic)、ゲーム(Game)を総称してACGと呼びますが、これら3つは全然違うものなんですよね。文化も違えば、制作工程も違う。集英社に加わったことでマンガの作り方を学びましたが、ゲームとは全く違っていました。

 集英社ゲームズは本格的には22年4月から始まったばかりで、日々驚きの連続です。反対に「ゲームってそんなに大変だったの?」「そんなに関係者が多いの?」と驚かれることも多いです。マンガとの違いとして、例えばゲームは膨大な量のファイルを扱うので、それらの交通整理が大切なんです。ここを間違えると事故が起きます。

――スマホ向けの縦画面から、PC・コンソール用の横画面にするにあたり、一番注力した点は?

鈴木 当たり前の話なんですが、スマホは画面をタッチして操作しますよね。タッチする際に、私たちは自然と画面全体を視野に入れています。だからこそ「ここを押せばメニューが表示される」「ここをタップすると攻撃を出せる」といったことを一画面に表示できるわけですが、PC・コンソール版では画面とコントローラーの2つを使うので、スマホ画面のような選択肢の出し方をするとものすごくプレーしづらい。なので、UI(ユーザーインターフェース)の再設計をしながら横画面にするという作業をかれこれ3カ月半ほど、率直な表現をするなら、血へどを吐きながらやっています。(笑)

 一方で、ジーノさんのいきいきとしたドット絵はそのままです。このドット絵を、大きな画面で、迫力をもって見れる。ここがコンシューマー版が一番力を発揮できる部分だと思いますね。

――デッキバトルの画面構成も大きく変わっていますね。

鈴木 『SOULVARS』のバトルは複雑です。敵の属性に合わせて技を組み合わせたり、弱点をつくと自分の出せるコマンドの数が増えたり。戦略性の高さはそのままに、操作性がその邪魔にならないよう気を付けています。バトル中の音楽もエフェクト(画面効果)も本当に爽快なので、まだプレーしたことがない人にもぜひ楽しんでいただきたいです。

『SOULVARS』のバトルシーン。テキストはかなり小さいが、バトルに必要な要素が画面にすべて収まっていて操作しやすい。「ソウルビット」と呼ばれる手札を組み合わせることで技が発動する
『SOULVARS』のバトルシーン。テキストはかなり小さいが、バトルに必要な要素が画面にすべて収まっていて操作しやすい。「ソウルビット」と呼ばれる手札を組み合わせることで技が発動する
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試遊版(PC)『SOULVARS』のバトルシーン。ソウルビットの表示のさせ方など、横画面になったことで各要素の配置や操作方法が大きく変わっている
試遊版(PC)『SOULVARS』のバトルシーン。ソウルビットの表示のさせ方など、横画面になったことで各要素の配置や操作方法が大きく変わっている
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マンガ家とのコラボにチャレンジしたかった

 『ハテナの塔 -The Tower of Children-』(以下、ハテナの塔)については、原作・ディレクターを務めるタストαの池田トム氏に話を聞いた。

 ハテナの塔は、塔の上に暮らす子供たちが、地上の楽園を目指して塔を下るローグライクアドベンチャー。PC(Steam)向けタイトルとして、2022年内に発売予定だ。池田氏は、これまでも『ロリポップチェーンソー』(PlayStation 3、Xbox 360)のディレクターや『勇者ヤマダくん』(Nintendo Switch、PC[Steam])のゲームデザインを手がけるなど、個性的なタイトルを担当してきたゲームデザイナー。クリエイター側から見た、集英社ゲームズと組む魅力とは何か。

PC(Steam)で22年発売予定の『ハテナの塔 -The Tower of Children-』の試遊スペース
PC(Steam)で22年発売予定の『ハテナの塔 -The Tower of Children-』の試遊スペース
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――インディーゲームとして制作し、自分たちだけで作品をリリースすることもできるなか、集英社ゲームズを選んだのはなぜですか?

池田トム氏(以下、池田) いろいろな企画を進める中で、ちょっととがったものや、メッセージ性の強いものを作りたいという思いがあって。そういう作品づくりができる場所を探していました。それから、マンガ家の方とコラボできるのが新しいな、と。出版社ならではの強みに魅力を感じたのが理由です。

――大手と一緒に開発すると、むしろ作家性を発揮できないのではという心配はありませんでしたか?

池田 前者(とがったものや、メッセージ性の強いものを作りたいという思い)についていうと、集英社ゲームズはむしろとがった作品はウエルカムという感じです。内容に対しても厳しくありませんし、こちらの思想や思いをぶつけてくれればいいという“男気”がすごく気に入りました。

 自分たちだけでゲームをリリースすることもできますが、クオリティーやスケジュールを集英社ゲームズがしっかり見てくれるからこそ、妥協することなく本当にいいものを作り上げることができていると思います。

――池田さんが想定していた「マンガ家とのコラボ」とは、コミカライズなどのメディアミックスではなくゲームづくりに関して、ということでしょうか。

池田 ゲームの「中」でのコラボレーションですね。ゲームクリエイターによるキャラクターデザインではなくて、マンガ家の方と一緒にゲームづくりができる点に魅力を感じました。あとはゲームクリエイターとして一皮むけたくて、マンガ家とのコラボというチャレンジをしたかった、というのもあります。

――実際に『ハテナの塔』では漫画家デビュー前の眞藤雅興氏(『ルリドラゴン』作者)がキャラクターデザインを手がけていますね。

池田 もともとマンガ家の方とコラボしたいという思いがあったので、集英社ゲームズと組んだ際にこちらから依頼をして候補のマンガ家さんをたくさん紹介していただきました。その中から、当時まだデビュー前だった眞藤さんにお願いした、という経緯です。メインのキャラクターだけでなく、エネミーのデザインなど、『ハテナの塔』のコンセプトデザインを担ってもらったと言ってもいいと思います。

「週刊少年ジャンプ」でマンガ『ルリドラゴン』を連載する眞藤雅興氏がキャラクターデザインを担当している
「週刊少年ジャンプ」でマンガ『ルリドラゴン』を連載する眞藤雅興氏がキャラクターデザインを担当している
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――もともと「マンガ家に世界観の構築に参加してほしい」という思いがあったのですか?

池田 マンガの魅力って、世界から入るところだと思うんです。世界のデザインがこうなっているから、こういうキャラクターがいるべきだろう、となる。今回の『ハテナの塔』はまさに「世界」が重要なゲームなので、マンガ家さんとのマッチングが高いと思いました。

 やっぱり世界があってのキャラクターですし、その世界に生きている子供たちを描きたかったので、キャラクターデザインをするために物語の深いところまで潜ってもらう必要がありました。その点はマンガ家と相性がいいと思っていたので、わくわくしていました。

――『ハテナの塔』の出発点は?

池田 個人的なことなんですが、子供が生まれたことですね。ショックを受けたというか、「本当に生まれるんだ!」とびっくりしたんです。知識としては知っていたけど、まさか本当に生まれるとは思わなくて。こんな風に生命って生まれるんだなと。

 この経験がどう『ハテナの塔』に関係しているかは深く語れないんですけど……。このゲームでは、それぞれの子供たちが意志や思想を持っています。自分の子供もそうなんですが、3歳や4歳でも自分の意志があるし、思想があるんですよね。

――塔の上で暮らす子供たちが、なぜ塔の仕組みを知らないのか。なぜ子供だけで暮らしているのか。気になることばかりです。こうした疑問や違和感が、物語の本質に迫るヒントになりそうですね。

池田 その通りです。もう一つ、登場するエネミーが敵っぽくないんですよ。バトル中にはこちらを思いやるような発言も出てきます。そうしたエネミーとのやり取りを通じて、どうやら「ハテナの塔」の中の敵はいきなり襲ってくるような相手ではないな、と分かるんです。なぜエネミーが子供たちに対してやさしいのかも、ゲームの本質に関わっています。

「攻撃したり、守ればいいんだ」と、★プレーヤー側にアドバイスしてくれる敵キャラクター。バトルに勝つと「子らは勝利した」と表示される。テキストの表現一つとっても、不思議な違和感が残る作品
「攻撃したり、守ればいいんだ」と、★プレーヤー側にアドバイスしてくれる敵キャラクター。バトルに勝つと「子らは勝利した」と表示される。テキストの表現一つとっても、不思議な違和感が残る作品
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 また、『ハテナの塔』ではさまざまな選択肢がプレーヤーに提示されます。遊ぶ度に違うダンジョンを楽しめたり、同じ敵でも違う倒し方を見つけたりすることができるかもしれません。

 気になった方はぜひSNSでの発信などを通じて『ハテナの塔』を応援してください。

本作の原作・ディレクターを務める池田トム氏(タストα/写真左)と、プロデューサーの杉山晃一氏(集英社DeNAプロジェクツ/同右)
本作の原作・ディレクターを務める池田トム氏(タストα/写真左)と、プロデューサーの杉山晃一氏(集英社DeNAプロジェクツ/同右)
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ゲームショウでは試遊をすると「伝説の古代パン」がもらえる。ゲーム内で子供たちが集めているパンを再現したものだという
ゲームショウでは試遊をすると「伝説の古代パン」がもらえる。ゲーム内で子供たちが集めているパンを再現したものだという
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(文・写真/大吉紗央里)

▼関連リンク 日経クロストレンド「東京ゲームショウ2022特設サイト」 東京ゲームショウ2022公式サイト(クリックで公式サイトを表示します)