東京ゲームショウ2022で存在感を示したのが、米Metaの「Meta Quest」。例年には無い巨大なブースを設け、初日には2時間程の待ちの列ができた。注目を集めたのが“日本発”のタイトル。コンテンツを生かしてVR市場の拡大を狙う、Metaの戦略を聞いた。

Meta Quest 2でVRゲームを体験する参加者
Meta Quest 2でVRゲームを体験する参加者

 東京ゲームショウ2022(TGS)で、大手ゲームメーカーに次ぐ規模で出展したのが、米Meta(旧Facebook)の「Meta Quest」。PCやゲーム機が不要のオールインワンのVR(仮想現実)システム「Meta Quest 2」(2020年10月発売)のほか、未発売を含めたVRゲーム7タイトルを展示。初日には約2時間待ちの列ができるほど、注目を集めた。

注目を集めた「Meta Quest」ブース
注目を集めた「Meta Quest」ブース
「Meta Quest 2」の本体。ゴーグルを頭に装着し、両手にデバイスを持って操作する
「Meta Quest 2」の本体。ゴーグルを頭に装着し、両手にデバイスを持って操作する

 Metaは、2014年、2015年に、Meta Quest 2の前身となる「Oculus VR」のブースを出していた。それ以降、新型コロナウイルス感染症が広がりもあり、大きなデモの場を積極的に展開できずにいた。そして、今年はVRの拡大フェーズと位置付け、当時をはるかに上回る規模で出展したのだ。

 「TGSはデモの場として最適と考え、今回は可能な限りブースを大きくした。VRマーケットのポテンシャルに対し、またデモの回数が少ない。これからが本番」と、Meta Reality Labsのマーケティング日本統括・上田俊輔氏は明かす。

 ブースを拡大した理由を、上田氏は「日本のマーケットを、米国と並んでティア1(第1階層)に置いているため」と語る。日本にはゲームが売れる市場が存在し、バイオハザードのような日本発の強力なタイトルもある。優秀なコンテンツが日本のパブリッシャー(発売元)から発売されればハードウエアの売り上げに直結するため、日本を戦略的に高い位置付けにしている。

 現在、Meta Quest 2は、日本でも250以上のゲームが体験ができる。その中で、日本発のタイトルが徐々に増えているのがトレンドだ。今回のTGSでも、魔法アクションゲーム『RUINSMAGUS ~ルインズメイガス~』(CharacterBank、2022年7月リリース)、剣げきアクションゲーム『ALTAIR BREAKER (アルタイル ブレイカー)』(Thirdverse、2022年8月リリース)といったタイトルが人気を博す。

 9月23日リリース予定の捜査アクションゲーム『ディスクロニア:CA』(MyDearest)は、TGSを初のデモ体験の場に選んだ。日本人は“日本発”のタイトルを好む傾向があり、日本発タイトルの登場はメガヒットを生む可能性を秘める。

魔法アクションゲーム『RUINSMAGUS ~ルインズメイガス~』(CharacterBank)
魔法アクションゲーム『RUINSMAGUS ~ルインズメイガス~』(CharacterBank)
剣げきアクションゲーム『ALTAIR BREAKER (アルタイル ブレイカー)』(Thirdverse)
剣げきアクションゲーム『ALTAIR BREAKER (アルタイル ブレイカー)』(Thirdverse)

 コンテンツの進化も著しい。Meta Realty Labsのストラテジックコンテンツパブリッシング日本・韓国市場統括・池田亮氏は、「ルインズメイガスはキャラクターの表演力が、これまでのゲームとは一線を画す。動きもスムーズでストレスが無く、VR酔いも軽減されている」と話す。ハードウエアの進化に合わせ、コンテンツの可能性も拡大している。

『RUINSMAGUS ~ルインズメイガス~』のゲーム画面
『RUINSMAGUS ~ルインズメイガス~』のゲーム画面

 家庭用ゲーム機からMeta Quest 2用にリマスターされるタイトルもある。既存作のファンをVRに誘導するためだ。2021年には、VR向けの『バイオハザード4』を発売した。一方で、「ホラーゲームは怖くし過ぎると遊んでもらえない。適切なバランスを考えるのが非常に難しい」と池田氏。一般のゲーム以上に、VRゲームの開発は容易ではない。

VRならでは体験があるかどうか

 Metaがコンテンツを選ぶ上で重視するのは、「VRならではの体験があるかどうか」と池田氏。ハンドトラッキングを使用してパズルなどをプレイする『Hand Physics Lab』は、最も分かりやすい例という。プレーヤーの手や指の動きがVR上に再現され、絵を描いたり、猫をなでたりといったことが、現実世界と同じようにできる。それが場所や時間を選ばないVRの世界で再現できるのであれば、体験したい人が増えるだろう。

 コンテンツ開発のノウハウは、各デペロッパーだけでなくMetaも蓄積する。ノウハウは、ハードウエアを提供するMetaからもデベロッパーにアドバイスする。Metaはメタバース構築に年間1兆円規模の投資を行っており、さまざまな企業との「共創」こそ普及の近道と考えている。

2022年後半には上位機種を予定

 「VRという言葉は広く使われているが、実際に体験した人はまだ少ない」と上田氏。今後は家電量販店などでデモ会を積極的に行い、インフルエンサーなども活用し、口コミの拡散を狙っていくという。「店舗もデモ機を置くことで、商品の売れ行きが変わることが分かっている。できるだけ協力体制を取り、まず体験してもらうことが重要だ」とも話す。

 2022年の後半には、Meta Quest 2の上位機種の発売を予定する。「普及機であるMeta Quest 2とはポジショニングが異なり、ビジネスユースを想定する。例えば、パソコンに取って代わるといった可能性も出てくるだろう」(上田氏)。

 VR普及の足かせだったプライバシー問題には、改善の兆候が見られる。実は、2020年10月以降に「Meta Quest(旧Oculus Quest)」シリーズを購入した場合、Facebookアカウントによるサインインが必須だった。しかし。Facebookは2019年に大規模な情報流出が発覚し、2021年には約5億3300万人の氏名や住所、電話番号などが再流出。個人情報の保護を重視するユーザーから、不満の声が上がっていた。

 対策を講じたMetaは2022年8月、同シリーズ向けに、新たな「Metaアカウント」を導入すると発表。Facebookアカウントを利用せずに、VRヘッドセットへのログインを可能にした。セキュリティー面の制限を撤廃したことで、認知拡大に向けて本格的に動きだした。

 「VR普及に向け、ゲームは大きなコンテンツの一つ。親和性が高く、VRの魅力を知ってもらうには最適だ。ゲームを入り口に、日本人の嗜好(しこう)にあったコンテンツを広げたい」と池田氏。コロナ禍以前の日常が徐々に戻り始め、Meta Quest 2に触れる機会も増える。体験者の本音が、VR普及のカギを握っている。

(文/寺村 貴彰)

▼関連リンク 日経クロストレンド「東京ゲームショウ2022特設サイト」 東京ゲームショウ2022公式サイト(クリックで公式サイトを表示します)
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