
福岡市を拠点とする食品メーカーのピエトロは、2020年4月を最後にテレビCMなどのマス広告をやめ、自社のファン一人ひとりに向き合う「ファンベース経営」を打ち出している。自社を応援してくれるファンはどんな人か、何をしたら喜んでもらえるのか。地道な取り組みの中に、本来の「マーケティング」で求められる顧客と向き合う姿勢が見えてくる。
テレビCMからの撤退――。そんな大きな決断をしたのは、オレンジ色の丸いキャップに口ひげをたくわえたシェフのイラストが目印の「ピエトロドレッシング 和風しょうゆ」で知られるピエトロだ。同社は2020年4月を最後に年間数億円をかけていたテレビCMなどのマス広告をやめ、小売店では価格競争ではなく、価値訴求による売り方改革を進めている。
代わりに選んだ道は、企業やブランドの価値を支持してくれるファンを大切にし、「類友」を巻き込んでいくことで、中長期的に売り上げや事業価値を高めていく「ファンベース」だ。ピエトロは戦略の要に「ファンベース経営」を据え、顧客との関係性を見直している。
「テレビCMはブランド認知が一番の目的で実施していたが、新商品の販促など確かに効果はあった。しかし、これだけ情報が多い中でその効果がどれだけ続くのか。どうしても『広く浅く』になってしまってピエトロが伝えたい価値が本当に伝わっているのか。長年疑問もあった」とピエトロのファンコミュニケーション室、加来聡子氏は振り返る。
そこで出合ったのが、ファンベースの考え方だ。もともと同社は1980年に福岡市で創業したパスタ専門店「洋麺屋ピエトロ」を起源とし、「目の前のお客様を喜ばせたい、真剣に向き合いたいという意識がずっと強い会社」(加来氏)と自負する。実際、主力のピエトロドレッシングが生まれたのも、来店客の「家族に食べさせたい」という要望を受けて、ワインの空き瓶に入れて持ち帰ってもらったのがきっかけというほどだ。
この原点に立ち返ると、マス広告で万人にメッセージを打ち出すのではなく、「ファン一人ひとりと双方向につながる道を模索するほうが、長い目で見たときピエトロには向いている」(加来氏)。決断の背景には、そういう考えがあったという。
もちろん、テレビCMをやめた衝撃は大きい。例えば、2020年4月に最後のCMを大々的に打った「おうちパスタ」シリーズは、その年売り上げが大きく伸長した。しかし、22年3月期(21年4月~22年3月)の決算では、新型コロナウイルス禍の「巣ごもり特需」の反動なども加わり、パスタ関連カテゴリーは前期比4億5400万円の減収となった。
それでも、ピエトロのファンベース経営の方針は揺らいでいない。同社は20年4月に専門部署としてファンコミュニケーション室を設立して以降、まずは「自社のファンは誰か」、深く知ることから始め、着々と将来への布石を打っている。
まさかの“手作り感”、工場動画をファンが支持
「小売店やネット通販、レストランと複数の販売チャネルを持つ中で顧客の情報が分散し、なんとなくピエトロを大好きな人がいることは分かっていたが、実際のファンの姿は曖昧なままだった」(ファンコミュニケーション室の日髙翔太氏)。ピエトロの価値を伝えていこうにも、「どんな人に」が明確になっていなかったのだ。
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