
1818年創業の老舗和菓子メーカー榮太樓總本鋪(東京・中央、以下、榮太樓)。実は同社では、商品リリースなどのPR活動を手掛けるのは広報の担当者ではない。商品の発案者だという。つくり手の熱量で顧客との距離をぐっと縮める、榮太樓流コミュニケーションとは。
創業から204年、東京・日本橋で江戸時代から続く菓子メーカー、榮太樓。榮太樓といえば、紅色のパッケージに入った三角形の「梅ぼ志飴」を思い起こす人も多いだろう。全国飴菓子工業協同組合(東京・台東)に加盟している日本最古のメーカーだ。
現在、百貨店で取り扱う和菓子ブランド「榮太樓總本鋪」のほか、伊勢丹新宿店、銀座三越ではあめ専門の「Ameya Eitaro」を展開。駅ビルなど全国約130店舗では、カジュアルブランド「にほんばしえいたろう」の商品を販売する。
200年以上の歴史の中で、榮太樓が対外的なコミュニケーションに本腰を入れ始めたのは7年ほど前。江戸時代から続く老舗だけに「自ら宣伝するのは『野暮(やぼ)』。江戸っ子気質には合わない。知っている人が買ってくれたり話題にしたりしてくれればいいという思いがあった」(榮太樓總本鋪 商品企画開発部商品企画課の藤原大吾課長)。
かつては東京土産の代名詞であり、あめといえば「榮太樓」だった。しかし今や東京土産も菓子メーカーもあふれ、きっかけをつくらなければ売りにつながらない。伊勢丹新宿店、銀座三越で展開するあめ専門のブランド「Ameya Eitaro」で2014年秋、初めてのリリースを配信した。
15年3月には、ホワイトデー向けに、1粒が3780円の商品を発売した。実在するダイヤモンドやクリスタルと同じカットをしたあめ「スイートジュエル」をリリースで発信すると、都内2店舗のみでの販売にもかかわらず「テレビほか、250のWeb媒体に取り上げられた」(藤原氏)。ホワイトデーの時期には男性客が長蛇の列をつくり、毎日入荷とともに品切れが続いたという。
もちろん、「スイートジュエル」がかつてない斬新なアイデア商品だったこともある。だが、「これがあめ?」と思わせるような見た目(宝石のような透明感のあめや美しいパッケージ)、宝石のストーリー(「ビクトリア女王に献上された」など商品化した“宝石”4種のストーリー)、さらにはリリースのどこを読んでもあえてあめとは思わせない文章構成にしたことが、多くのメディアを引きつけた。
榮太樓では、商品のリリースほか、販促宣伝を手掛けるのは商品企画開発部の仕事だ。メンバーは11人。新商品を提案し、製造開発部に依頼、完成後は価格決定やパッケージ制作、リリース配信、店頭POPなどディスプレーまでを1人が担当する。広報部はテレビ・雑誌の取材対応や社内機関誌などを担う。
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