「マーケの危機」今、再考すべきこと 第14回

「標的」を意味する「ターゲット」、「キャンペーン」には「軍事行動」という意味があるなど、マーケティングで使われている言葉の中には軍事用語が非常に多い。広告の炎上やマーケティングに対する拒否反応が広がるなか、マーケターはこうした言葉を使い続けていていいのだろうか。産業能率大学経営学部でマーケティングや経営の授業を受け持つ小々馬敦教授と、電通デジタル(東京・港)執行役員の田中信哉氏が次世代のマーケティング用語について議論した。

小々馬敦氏(以下、小々馬) 「ターゲティング」とか「キャンペーン」とか、マーケティングでよく使っている言葉は軍事用語から生まれたものですよね。

田中信哉氏(以下、田中) 私たちがいるマーケティング業界では、クライアントに対してマーケティングプロセスを提案するにあたり、効能効果をロジカルに説明しなければならない場面があります。軍事用語を使ってしまっている背景として、そこがまず大きな理由だと思っています。

 企業の中でも実は同じことが起きているのではないでしょうか。実際にマーケティングを担う人と、その決裁権を持つ人はたいてい別です。そうなると決裁をしてもらうために、施策や事業についての説明の言葉は強く、勇ましくなってしまう。大きな組織ほど、こうした傾向にあるような気がします。

産業能率大学経営学部の小々馬敦教授(左)と電通デジタル執行役員の田中信哉氏(右)
産業能率大学経営学部の小々馬敦教授(左)と電通デジタル執行役員の田中信哉氏(右)

小々馬 マーケティングは“売る”というところと強く結びついていますからね。広告ビジネスの長い歴史の中で、「クライアントファースト」の傾向がより強まっていったんでしょうね。

 軍事用語だけでなく「囲い込み」「刈り取る」など、上から目線の言葉も多いですよね。企業が生活者を“自分たちがマネジメントできる対象”として思い込んでいるということなのでしょう。

田中 「刈り取り」という言葉は、いわゆる「コンバージョン」に近い意味でよく使われますよね。自戒を込めて言いますと、これは生活者を数字として見ているか、人として見ているか、企業のスタンスが問われる言葉だと思います。事業や施策の結果は、質的なものよりも量的なもののほうが分かりやすいため、数字が求められるようになっていきます。それを繰り返していくうちに「刈り取り」という言葉や感覚が生まれて、人を人として見なくなっていく。質的な結果も見るようにすれば、もっと深い議論ができるのかもしれません。

 マーケティングに携わる企業としてクライアントと共有したいのは、数字の向こう側には人がいて、微妙な肌触りの違いで受け止め方もそれぞれで変わってくるということ。そういう理解があれば、数字などのデータを使いながらでも、生活者とよいコミュニケーションができるのではと考えています。ただ、人の知覚はそれ以上に複雑なので、永遠に探究し続けることではあります。

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