
マスプラットフォームからSNSのようなコミュニティー型プラットフォームへと舞台が変わり、広告のあり方も変化している。また、社会の中での役割を考えることがブランドには求められるようになっている。博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクターで博報堂ケトル(東京・港)取締役・編集者の嶋浩一郎氏が考える、これからの時代に「愛されるブランド、愛される広告」とは。
これからの時代に「愛される広告・愛されるブランド」
テレビのような昔からあるメディアには、その番組を見たい人が集まる「上意下達型」のような印象がある一方、YouTubeやSNSのようなメディアは、動画クリエイターやあるジャンルのコンテンツが好きな人たちが集まっていて「私たちのメディア、うちらのコミュニティー」みたいな感覚が強いのではないでしょうか。だから、テレビCMは企業が自分についてスピーチできる場、ネットメディアはコミュニティーにお邪魔してしゃべらせてもらう感覚を持っていることが望ましいわけです。
そうした感覚が分からない人がコンテンツをつくってしまうと、「うざい」といわれるものになってしまうかもしれません。テレビCM型のそれまで見ていたコンテンツを遮断するような広告は、ネットにはそぐわない。デジタル媒体においては「見させる広告」ではなく、積極的に「見たくなる」ようなコンテンツ型の広告が増えるといいのではないかと個人的には思います。
今、ブランディングが変わりつつあります。昔はマーケットにおける差別化がマーケティングの目標でした。つまり車でいうと、他社より燃費がいい、走行性能が高い、荷室が広いといった、市場における商品のスペックをうたうことがマーケティングでした。
しかし今は、市場の中のスペックももちろんですが、それよりも社会の中でどう役立つのかという視点がブランドの役割として重要になっています。つまり、「市場の中の私」を語ることにプラスして、「社会の中での私」を語るブランドのほうが評価される時代になっています。これはとても大きな変化です。
例えばシャンプーでいうと、洗浄力が高い商品をちゃんとつくりながら、「女性が髪形を自由に楽しめる社会を目指し、ひいては女性の自由な生き方を応援するブランドです」というように、社会において自分たちは何を果たすブランドなのかを語ることが求められてきているわけです。
「市場の中での私」を考える場合はコンペティションを意味する競争になりますが、「社会の中での私」が求められる場合は、より良い世の中をつくるためにあらゆる人たちと手を組んで共創することが必要になってきます。これからのブランドは、自分たちのことを表現するよりも、誰かと手を握っていくほうに向かっていくと思っています。
ブランドづくりとカリフォルニアロールの関係は?
ここからは、今後ブランドをつくるうえで何が必要になるのか、という僕の意見です。今後ブランドをつくる仕事は「経典」をつくるものではなく、「カリフォルニアロール」をつくる仕事になるのであると。経典というのは「うちのブランドはこうです」と、一切変化を受け入れない孤高の存在であるということ。これまでのブランドの多くがそうでした。
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