「マーケの危機」今、再考すべきこと 第4回

品切れにもかかわらずテレビCMなどで宣伝を続けていたとして、景品表示法違反(おとり広告)で措置命令を受けた回転すしチェーン大手「スシロー」。実は親会社のFOOD & LIFE COMPANIESで、元ネスレ日本社長兼CEO(最高経営責任者)の高岡浩三氏が社外取締役を務めている。おとり広告の背景に何があったのか、こうした出来事が繰り返されないためにはマーケターに何が求められているのか、語ってもらった。

チョコレート菓子「キットカット」の受験キャンペーンを成功させ、「ネスカフェ アンバサダー」でネスカフェの新しいビジネスモデルを構築するなど、マーケターおよび経営者として数々の実績を上げた元ネスレ日本社長兼CEOの高岡浩三氏。現在は、ビジネスプロデューサーとして「高岡イノベーション道場」を主宰する他、回転すしチェーン「スシロー」を運営するあきんどスシローの親会社、FOOD & LIFE COMPANIESで社外取締役を務める
チョコレート菓子「キットカット」の受験キャンペーンを成功させ、「ネスカフェ アンバサダー」でネスカフェの新しいビジネスモデルを構築するなど、マーケターおよび経営者として数々の実績を上げた元ネスレ日本社長兼CEOの高岡浩三氏。現在は、ビジネスプロデューサーとして「高岡イノベーション道場」を主宰する他、回転すしチェーン「スシロー」を運営するあきんどスシローの親会社、FOOD & LIFE COMPANIESで社外取締役を務める

――2022年6月、「スシロー」を展開するあきんどスシローが、消費者庁から「おとり広告」に当たる景品表示法違反で措置命令を受けました。「ウニが110円」というCM、広告を見て期待して行ったら早々に売り切れ。にもかかわらずCMを継続して集客していたことが問題視されました。品切れで販売していない店舗が多く、その期間が相当に長かったことから、厳しい意見、見方も飛び交いました。親会社の社外取締役の立場から、どう受け止めていますか。何が問題だったのでしょうか。

高岡浩三氏(以下、高岡) これは言い訳でも正当化でもないですが、キャンペーン商品の需要予測は難しいところがあって、“売り切れ御免”はつきものという感覚があった。そして在庫状況に応じて機敏に広告宣伝を切り替えなければいけないという意識が薄く、その体制ができていなかったのが原因です。

 私がネスレにいた当時も、新商品のテレビCMを放映したら、売れ行きが想定を大幅に超えて品切れになる、供給が追い付かないというケースはたまに起こっていました。問題はその際の対応です。商品が欠品した時点で、すぐその新商品やキャンペーンのCMは差し替える。差し替えるものがなければACジャパン(公共広告)ですね。そうした基本動作ができておらず、それが問題であるという自覚が足りなかったといえます。業界でトップに立ったスシローだからこそ、その分、厳しい目が向けられるのは当然のことだと思いますし、改善していかなければなりません。

 こうした対応がネスレでは機能していて、スシローでできていなかったのはなぜか。両者かの違いを考えると、法務部門の権限が挙げられます。ネスレの場合、法務は社長直轄組織で、法務部長は例外なく執行役員です。だから役員会議に出席しているんですね。一般的に日本企業は、法務部門の立ち位置が低いように感じます。誰もが「コンプライアンスが大事だ」と口をそろえて言うのだけど、経営そのものが性善説に立ちすぎてしまっている。外資系はまず例外なく性悪説が前提です。日本企業の場合、営業部、営業本部長の力が強く、執行役員会に法務部長がいない場合が多い。だから、売り上げ至上主義の商売が優先されてしまう。

――品切れは機会損失でもあるので、なるべくなくしたいはずですが、それでも起こる。需要予測は難しいものですか?

高岡 ネスレのような菓子類でも新商品やキャンペーンの反響はなかなか読めないところがあります。さらに時代の要請として、食品ロスは非常に問題だという意識が高まってきました。特にすしは生モノですから。過剰な在庫を抱えて大量廃棄することがないようにというプレッシャーはあります。

 ネスレで「キットカット」の期間限定商品を始めたきっかけは、実は“コンビニ対策”でした。大手コンビニエンスストアに新商品が並ぶと最初の2~3週間は売れ行き好調なのですが、1~2カ月たって他の新商品が入ってくると売り上げが下がってくる。するとある日、突然切られてしまうんですね。だったら3カ月で切られる前に2カ月でこちらから切ろう、という狙いで作ったのが期間限定商品でした。在庫の山で頭を抱えないようにするにはどうしたらよいかを考えるのはマーケターの仕事です。

 期間限定商品が想定より好調で、2カ月待たずに欠品になるケースもあります。小売り側から販売機会ロスということで、違約金を求められたことがありました。営業部門は小売りとの関係性を保ちたいので払っておきたい。でも、これは優越的地位の乱用でもあるので、ネスレは法務の判断で払わないと決めた。本当の意味でガバナンスとコンプライアンスを徹底するためにも法務の判断は重要です。

――小売りとの関係は悪化させたくないけれども、言いなりになるのも問題で、難しいところです。

高岡 原材料が高騰している今は、各社ともいかに値上げするかが課題でしょう。大幅値上げする商品は置かないという小売りもあるようですが、たとえそのチェーンから排除されたとしても、近隣の別のスーパーでは売っているわけですから、そちらで買おうと思ってもらえる商品をメーカーは作る必要があります。それがブランド力です。不当に安売りしてしまっては、かえってブランドを毀損します。小売り側とパートナーとして健全な関係を保つためにも、権限のある法務の判断が大切です。

――マーケターは目先の売上責任を背負っている一方で、ややグレーな販売手法などの誘惑もチラつく中、どうすれば倫理観を持って律していけるでしょう?

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