「マーケの危機」今、再考すべきこと 第2回

「好かれるべき人に好かれるコミュニケーションは可能」。そう語るのは、ファンベースカンパニー会長の佐藤尚之(さとなお)氏だ。電通カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センターのセンター長である並河進氏との対談後編では、生活者の「共感」や「企業の活動に出合う」ことから始まる消費行動モデルに話題が及んだ。

▼前編はこちら 対談「なぜマーケティングは嫌われるのか」 顧客は“人”なんだ
ファンベースカンパニー会長でファンベースディレクターの佐藤尚之氏(写真右)と、電通カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センターのセンター長である並河進氏(写真左)
ファンベースカンパニー会長でファンベースディレクターの佐藤尚之氏(写真右)と、電通カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センターのセンター長である並河進氏(写真左)

「AIDMA」だけではもう古い。アテンションより重要なこととは

――SNS全盛時代、企業のマーケティング環境は以前と何が変わったのでしょうか。

佐藤尚之氏(以下、さとなお) マスからマンの流れの中で、SNSは人のつながりを可視化し拡張しただけです。今と規模は違えど、もともと人と人はつながっていましたから、本質は変わっていないと思います。そして、SNS全盛といいますが、そうでもないですよね。

 『ファンベースなひとたち』(日経BP刊)でも紹介しましたが、SNS利用者全体の22%に当たるヘビーユーザーが、SNS総利用時間の82%を占有しているというデータがあります。つまり、国内月間アクティブユーザーが4500万人いるTwitter(17年時点)なら、22%の990万人がヘビーユーザーで、この方々がむちゃくちゃTwitterを利用している。でも、それ以外の人たち、つまり残りの1億1600万人くらいの人たちにはTwitter上のバズやトレンドワードなどは届きにくい、ということになります。

 誰でも使っているように見える検索にしても、東京の住民が圧倒的に利用していて、地方は事情が全然異なり、ほとんどの道府県で東京の半分以下の検索数だというデータも発表されています。 

 このように、伝えたい相手である生活者をしっかり見ると、使っている人もいれば使っていない人もいる、という当たり前のことが見えてきます。もちろん、SNSも有力なツールですが、全盛でも万能でもない。というか、新型コロナウイルス禍で日本は後れたネット社会だとばれてしまいましたよね。まずは、そういう事実を冷静に認識する必要があると思います。

並河進氏(以下、並河) SNSに限らずですが、私が最近考えているのは、ダイアログ(対話)なコミュニケーションが重要になっていること。企業が何かを発信してそれが一方的に届くのではなく、お互いのダイアログが生まれる状態をいかにつくるか。それが、コトラーさんも言う「人格を持った一個人」として顧客と向き合うことにつながるのかなと。

 BtoC(消費者向け)という言葉がありますが、人として向き合う姿勢を持つなら、本来は「HtoH(ヒューマン・トゥ・ヒューマン)」のほうがしっくりきますよね。実際、企業で働いている人もクリエーターももやもやしていて、顧客とダイレクトに話したい、人としてつながりたいという欲求がある。コミュニケーションがダイアログなものに変わってくると、より顧客一人ひとりが見えてくるし、そこでの発言や、やり取りが重要な価値を持つ「個の時代」になってきています。

さとなお そうですよね。一生活者として考えても、企業というぼんやりした組織体からではなく、ダイレクトに「この人から買いたい」みたいな気持ちがあります。社員の中の友人から買って、友人の手柄にしてあげたい、みたいな(笑)。

 ダイアログなコミュニケーションという点も同感です。最近の若者たちは長文を読まず、LINEでやり取りするような短文のコミュニケーションが好まれるようになっているそうですが、時代は確実にそういう方向にいっている気がしますね。

 これまで、例えばテレビCMなら1本15秒で何百万人にリーチできるとか、強烈に効率的だったわけですが、ダイアログなコミュニケーションで相手の感情にアクセスするとなると、かなり非効率的ですよね。でも、もともと人と人とのコミュニケーションに効率などはありません。そういうやり取りを面倒くさがらない、これまでとは違うタイプのマーケターが必要になってくる気がします。

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