
ステルスマーケティングやおとり広告など、企業の信頼を大きく揺るがす大問題がいくつも勃発している2022年。マーケターは今、自身が顧客に向き合う姿勢を再点検すべきときにある。そんな課題意識から立ち上がった本特集。第1回はファンベースカンパニーの佐藤尚之(さとなお)氏と電通の並河進氏が、マーケティングのあるべき姿を前後編にわたって議論する。
TikTokのステルスマーケティング問題、吉野家の元常務による舌禍問題、スシローの「おとり広告」、悪質な調査会社による「NO.1広告」……。2022年、企業のマーケティング姿勢を疑うような事例が相次いでいる。こうした“しくじり”は今に始まったことではないが、多くのマーケティング担当者にとって「対岸の火事」ではないはずだ。
高岡浩三氏、小々馬敦氏、田中信哉氏、音部大輔氏、鹿毛康司氏、嶋浩一郎氏、佐藤尚之(さとなお)氏、並河進氏ら、マーケティングの第一人者たちが登場します。
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そこで本特集では、改めてマーケティングの本質を見つめ直すべく、今日から1週間にわたって毎日、レジェンドマーケターの見識や企業の好事例を公開していく。ネスレ日本の元社長兼CEO(最高経営責任者)で現ケイアンドカンパニー代表の高岡浩三氏、博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクターで博報堂ケトル(東京・港)取締役・編集者の嶋浩一郎氏など、そうそうたる面々がそろう。
彼らが今伝えたい「マーケティング」とは何か。そこから得られる知見を生かして個々のマーケター自身、自社は顧客との関係性をどのように再考すべきか。「囲い込み」や「刈り取り」といった顧客軽視の言葉がマーケティングの現場で聞かれることも珍しくなくなった今、日経クロストレンド編集部も含めて一度立ち止まり、改めてマーケティングを考える機会にしていきたい。
そんな特集の第1回、第2回は、ファンベースカンパニー会長でファンベースディレクターの佐藤尚之(さとなお)氏と、電通カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センターのセンター長である並河進氏の対談だ。元電通社員のさとなお氏と現役の並河氏は、顧客中心を貫く姿勢で共感し合う2人。両社は22年7月に業務提携し、商品やブランドを愛するファンと誠実に向き合うファンベース視点で、企業のカスタマーエクスペリエンス(CX、顧客体験)全体の改善・開発を支援するプログラムを始めている。
そもそもマーケティングとは何か。時代が変わる中でそのアプローチがどのように変遷してきており、今の生活者に求められるコミュニケーションの在り方とは何なのか――。2人が存分に語り合った。
なぜ企業は「モーケ(儲け)ティング」に走ったのか?
――お2人が考えるマーケティングとは何か。本題に入る前に、並河さんの仕事について教えてください。
並河進氏(以下、並河) 電通カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センターは21年1月にスタートした部署で、総勢120人ほどのクリエーティブ集団。従来のCXというと、コールセンターなどのイメージが強いかもしれませんが、我々の部署では広告のみならず、商品やサービスの購入後や顧客同士の交流など、顧客体験のすべての領域に関わっていきます。
これまでは広告会社もクライアント企業も、CM担当やSNS担当、店舗運営などをばらばらに捉え、その中で部分最適する動きが続いてきました。しかし、お客様の視点に立てば、個々の最適化よりも全体のブランド体験が重要なはずです。そこに寄り添えるようつくった組織です。
佐藤尚之氏(以下、さとなお) CXって、本来の意味のマーケティングと概念的に近いですよね。
昨今、マーケティングは嫌われ者的なイメージがあって、マーケティングという言葉自体もなくなったほうがいいという人もいます。でも、もともと「マーケティング」はもっとラバブル(Lovable=愛されるべき存在)なものであるはずなんですよね。良い商品やサービスを生活者に届けて喜んでもらうための総合的活動なわけですから。もっと愛されてもいいはずです。
日本マーケティング協会の定義をおさらいしても、「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」とされています。つまり、ものづくりから顧客への価値提供、その後の関係性に至るまでのすべてのプロセスが対象。それは並河さんが言うCXと重なります。
これが、なぜ嫌われ者になってしまったのか。それは、もともと日本のマーケティングの出自が「調査部」だったことに起因しているのではないか、と思っています。
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