2022年9月2日発売の「日経トレンディ2022年10月号」 ▼Amazonで購入する では、「ずるい文章術」を特集。新サービスを数多く打ち出すリクルート。同社で生まれる新しい発想の“源泉”となっているのが、年1回の新規事業提案制度「Ring」だ。「ゼクシィ」や「スタディサプリ」を生んだ企画立案のノウハウを紹介する。

※日経トレンディ2022年10月号より。詳しくは本誌参照

「スタサプ」を生んだ社内コンテストには、企画書を完成させる最強フレームワークがあった
「スタサプ」を生んだ社内コンテストには、企画書を完成させる最強フレームワークがあった

 新サービスを数多く打ち出し、事業領域を広げ続けるリクルート。同社で生まれる新しい発想の“源泉”となっているのが、年1回の新規事業提案制度「Ring」だ。1982年開始と歴史は古く、結婚情報を扱う「ゼクシィ」や、オンライン学習サービス「スタディサプリ」もここから生まれている。

■新規事業提案制度「Ring」
■新規事業提案制度「Ring」
形を変えながら、1982年から続く同社の制度。同社の社員、またはそれを含むグループに応募資格がある。書類による一次審査を通過すると、調査予算と事業開発に詳しい伴走者が付き、数カ月プラン内容を磨く期間があるのも特徴だ

 Ringの特徴は応募者が企画を提案し、まとめる過程の支援が手厚いこと。アイデアを磨き、文章でまとめるまでのフローが体系化されている。中でも多くのビジネスパーソンが参考にできるのが「Ring NOTE」。チェックシート形式などで、企画の立て方を指南する40ページの小冊子だ。

■Ring NOTE
■Ring NOTE
Ringへの応募を検討している人のためのサポートとして、事業開発の考え方をまとめた小冊子。これと連動した解説動画も30本ある
「日経トレンディ2022年10月号」の購入はこちら(Amazon)

 まず企画書を書く前段階の準備として、例年約1000件が集まる応募書類から、審査で落ちてしまう案件の条件から抽出された「落とし穴チェックシート」を使う。「読みやすい日本語か」などの基礎的な内容に加えて、3段階のチェック項目がある。「同じようなサービスは存在しないか」などアイデアがビジネスとして成立するかを判断するための必須条件。加えて、「協働パートナーのメリットはあるのか」など、起案が魅力的になるのかを示す十分条件が、18項目提示されている。

【企画立案】

事業化の可能性を3段階の「落とし穴」で見極める

 Ringの書類審査で通過できなかった応募で陥りがちだった「落とし穴」が、チェックシート形式で紹介されている。全18項目のうち、下記の13項目は企画立案時に必ず確認したい

1.ビジネスになるアイデアか
・同じようなサービスは存在しないか
・業界の構造や関連法を確認したか
・対象ユーザーは少なすぎないか
・顧客はお金を払うことができるか
・コストは売上より低く、利益は出るのか

2.質の良い課題か
・耳にした課題に飛びついていないか
・ユーザー本人が本当に困っている課題か
・顧客が対価を払うほど強い課題か
・それが課題の中で、一番重要な課題か

3.質の良い解決策か
・捉えた課題は本当に解決できるのか
・自然に広まり、使い続けられそうか
・協働パートナーのメリットはあるのか
・デジタル時代に逆行していないか

事業化を目指せる企画は一握り
事業化を目指せる企画は一握り
注)2019年度の実績より

 企画の地固めをしたうえで、Ringの応募者は、ターゲットや市場性など10項目が設定された、企画書の役割を果たす「プランシート」を提出する。他社のビジネスパーソンもいざ企画書を書く際には、このプランシートを埋めていくようにまとめていけば、過不足の無い企画書が完成する。

 毎年すべてのプランシートに目を通すというリクルート Ring事務局長の渋谷昭範氏は、「企画段階で『顧客セグメントとペルソナ』『顧客課題』『提供価値』がしっかりしていれば、他の項目が拙くても、事業が成功する可能性があると判断できる。審査時もこの3項目を重視している」と説明する。どんな企画案でも、この3項目を「型」に沿って手厚く書けば、読み手により魅力的に伝わるはずだ。

 顧客セグメントとペルソナは、「20代女性」ではなく、「東京都に住む20代女性で、世帯年収は1000万円。一人暮らしで職業は〜」とできるだけ絞り込むことが重要。読み手も具体的に想像できる。to B事業の場合も、特定の企業が思い浮かぶくらい明確に設定する。ただし、次のステップとして、同じような条件に当てはまる人が多いか、市場性の検討も必要だ。

 顧客課題は大きな課題を明示したうえで、「具体的には(1)〜(2)〜」と続け解像度を高める。「リアルな課題を見つけるためには生の声が欠かせない。生活者や企業の担当者が感じる恐れなどの『Pain』と、求めることなどの『Gain』に落とし込むように心掛け、インタビューを重ねるとよい」(同)

 こうした生の声を踏まえ、顧客課題を詳細に明文化したうえで、提供価値はシンプルに「○○である」と断言すると説得力が増す。

 下の例は2020年度のRingでグランプリを受賞し、22年1月から実証実験としてサービスの提供を開始した、企業のカムバック採用を支援するサービス「Alumy」のプランシートを基に、渋谷氏が理想像として加筆したもの。この完成度を目指したい。

【企画構成】

最強の企画書を公開! プランシートの基本と応用

重要3項目は型にはめて書く
重要1の型「顧客セグメントとペルソナ」
重要1の型「顧客セグメントとペルソナ」
重要2の型「顧客課題」
重要2の型「顧客課題」
重要3の型 「提供価値」
重要3の型 「提供価値」
プランシート(見本)
顧客セグメントとペルソナ
【ターゲット】
・入退社が多い飲食・販売サービス系の会社
【ペルソナ】
・企業/大手牛丼チェーン企業
大量採用かつ大量退職(毎年200名採用150名退職)/人事は少ない人数で採用人数確保に集中/独自のオペレーションで育成が必要/即戦力である業界経験者を採用したい
・個人/転職したが、転職先とフィットせず、元の会社の方が活躍できたと思っている個人

顧客課題
【ニーズ】
・企業/即戦力人材を低予算で採用確保したい。
【課題(生の声)】
・企業/某人材系上場企業のアンケート結果によると、出戻り社員は即戦力として活躍が見込めると考える一方で、85%の企業が再雇用制度がなく、退職者との接点すらない。
・個人/退職した会社に戻りたいが「戻りたい」とは言えない。再受験はできないと思い込んでいる。
【課題の構造】
・企業と個人の思い込みによって、機会損失が起こっている。

対象顧客の試算
・販売サービス系の採用数は年間〇〇万人、退職数は〇〇万人(2019年)
・採用率〇%

提供価値
・顧客に提供できる真の価値は
・企業卒業者という即戦力かつ定着率が高い人材に、効率的にアプローチ可能にし、出戻り採用を実現できる点
・退職者の傾向を可視化し、定量的なデータ基に退職原因を突き止めることができる点 だと考える。

解決策
【解決策】
リクルートは企業に卒業者向けのネットワーク型のプラットフォームを提供する。
・従業員は退職する際にプロフィール(連絡先・電話・退職理由・希望条件を想定)を登録し、現職社員と連絡を取れる場、元企業の現在の採用ポジションの情報など、いつでも出戻りできる安心感を享受する。
・企業は、卒業者の一覧や過去組織の可視化、ビジネスPRや求人広告、卒業者へのDM等の機会を獲得する。
【提供すること】
・卒業者向けに報酬付きアンケートを実施し、業界ごとの退職傾向を可視化し、退職課題解決策を提供する。

コスト構造
リクルートは
・業界ごとのコンテンツ費用
・退職傾向をつかむため、卒業者にアンケート費用を支払い、プラットフォームの活性化を行う

収益構造
リクルートは
・プラットフォーム内でのダイレクトリクルーティングにおける成約料金として〇〇万円を収益として得る

競合ビジネス
・直接的には〇〇〇
・広義ではフェイスブックやリンクドインでの社員同士のつながりが対象となる

優位性
このサービスは、
・出戻り採用における金額条件を常に提示できる点が他のアルムナイ系サービスよりも優れているために、企業の「分かりやすく効率的に出戻り採用を実現したい」というニーズに答えることができる

市場性
【計算式】
事業ポテンシャルを、年間販売サービス退職者×採用率×成果報酬、で試算すると〇〇億円/年
【前提】
・成果報酬〇万円

サマリー&タイトル
・飲食・販売サービスなど入退社の激しい企業の「即戦力人材の確保」という課題を解決したい。 「コーポレートアルバム」は、「飲食販売サービス業界における卒業者(即戦力人材)」に「退職後の交流プラットフォームを提供すること」によって、企業の「卒業者へのアプローチと出戻り採用」をサポートする。 この解決策が成功するためのポイントは「卒業者への登録メリットの訴求とアクティブな会員情報の保有」だと考える
・企業が卒業者の出戻り採用を実現可能にする「コーポレートアルバム」
■Alumy
■Alumy
企業のカムバック採用を支援するサービス。2020年度のRingグランプリ受賞後、企画のブラッシュアップ期間を経て事業化

 渋谷氏は、「Ringには、企画書を書くための基本フレームを身に付けられ、審査の過程などで進化させるプロセスがある。不通過だとしても自然とスキルが上がっているので、後に書く企画書も質も上がる」と言う。

リクルート Ring事務局長 新規事業開発室部長 渋谷 昭範氏
2005年にリクルートへ中途入社し、全社WEBマーケティングなどを担当。その後ソフトバンクなどを経て、17年に復帰し同職
注)「ずるい文章術」は、「日経トレンディ」2022年10月号に掲載しています。日経クロストレンド有料会員の方は、電子版でご覧いただけます。

(写真/高山 透)

▼関連リンク 「日経トレンディ」(電子版)
「日経トレンディ2022年10月号」の主な内容を紹介
【ずるい文章術】
●伝わる文章のカギは「短文」誰でもできる“言葉ダイエット”の法則
●PART1 企画書編
脱・重厚長大「プレスリリース形式」で書けば説得力が劇的向上
●PART2 チャット編
脱・メール構文「一文一義」「挨拶不要」が業績アップにつながる!?
●PART3 プレゼン資料編
脱・官公庁パワポ資料 一瞬で伝わる秘訣は「13文字以内」
●PART4 SNS編
脱・Web1.0型発信 コアファンをつくる「共感」の生み方
●PART5 転職応募書類編
脱・書類選考落ち 40代からは「即戦力性」がカギ
●先進企業に学ぶビジネス文書の社内ルール
リクルート、キリンビバレッジ、AbemaTV、アイリスオーヤマなど
【Anker大研究!】
D2Cブランドの先駆け!Amazonレビューを使ったAnkerの勝ち筋 ロボット掃除機、ポータブル電源、シーリングプロジェクターを徹底チェック
【観光列車ランキング2022】
「“リノベ”列車」「温もりグルメ」「地元民交流」。今こそ観光列車に乗るべき理由
【ロングセラーの軌跡】“一発屋”で終わらせないブランド術
THE RAMPAGE 川村壱馬 インタビュー
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