2022年9月2日発売の「日経トレンディ2022年10月号」 ▼Amazonで購入する では、「ずるい! 文章術」を特集。文章を投稿して販売もできるメディアプラットフォーム「note」をはじめ、ブログへの投稿やライターの副業など、文章を書いて副収入を得ることへの関心が高くなっている。ただ、その際に誰もが直面する課題が、何をテーマにした文章を書けばよいのかだ。多くの人に読まれる文章はテクニック以前に、「読みたいことを、書けばいい。」と伝える田中泰延氏に、その真意を聞いた。
※日経トレンディ2022年10月号より。詳しくは本誌参照
——読まれる文章を書きたい人が、まず念頭に置くべきは何でしょうか。
バズるための秘訣、ターゲットに刺さる書き方、もうかる原稿うんぬんを解説する本がちまたにあふれていますよね。僕は電通でコピーライターをしていた24年間、ずっとそうしたテーマの本に書かれている内容と同じことを考えてきました。この商品のターゲットは何歳ぐらいの女性で、こういう思考を持っているから、こんなコピーが印象に残り商品が売れるだろうと。それはコピーライターとして、商品を売る代理人としてやるのは多分、正しい。
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ですが、ブログやnoteに書く内容の大半は自分が経験したことや身辺のこと。その時にマーケティングなんて必要だろうかと思うんですね。そういう本に書いてあるテクニックの一つに、「誰か1人に手紙を送るように書きなさい」というアドバイスもありますが、1人の人に届けたかったらLINEすれば? という話です。何か書いて他人に届けようという考えがそもそも間違っているんです。届けるのは郵便局ですよ。
——田中さんはウェブ連載の経験もお持ちですが、仕事以外でインターネットに文章を書いたときは何を意識しましたか。
コピーライターをしていた最後の2年間、「コラムの連載を書きませんか」と声がかかって、映画評や身辺雑記を書いたのが初めてウェブ上に掲載した長い文章でした。
その時、誰に向けて何を書いていいか分からないから、広告の真逆の発想でやってみようと。自分が読み返して面白いとか、自分が何かプッと笑えるから、もうこれでええわという感じで納品していました。でも最終的に30回ぐらいの連載で、500万PV超えたんです。この経験から自分が読みたいことを、自分が面白いように書くことは割と正解なんじゃないかなと思うようになりました。
注意しないといけないのは、他の人が言っている意見にちょっと自分の意見を加えたら、自分なりの文章が完成したと思ってしまうこと。既にあるものを焼き直しても、受け売りだとバレてしまいます。第一に書く意味がないし、時間がもったいないんじゃないかなと思います。
他に誰も言ってない、自分が読みたいことを、書けばいいだけです。
——自分が読みたいことを、ただ自由に書けばよいのでしょうか。
そこが初心者がはまりがちな落とし穴です。例えば、自分の内面を書きたがる人がいますが、世の中の人はそれほど他人の「お気持ち表明」を知りたいと思っていません。文章を書くことで多くの人に自分や自分の思いを知ってもらいたいという考えには、大いなる勘違いが潜んでいると思います。歩道橋の上でギターを持って歌ったら、観客が5000人ぐらい集まってお金を投げてくれるはずだ、というのと同じくらいの勘違いがあると思いますよ。有名人なら話は別ですが。
あと、多くの人から共感を得るために立派な意見を書こうとする必要もないと思います。いったい何様なんですかと思ってしまうような、高い立場から物事を断言する人も、ネット上には多いですよね。でもそれは受け入れられないし、自分に正直な文章にもならないですよね。
読みたいものは、自分の中にあるものではなく外にあるはずです。ネット上で読まれている文章の圧倒的なボリュームゾーンは随筆。これを私流に定義すれば「事象と心象が交わるところに生まれる文章」です。何か事象に触れて心が動き、心象が生まれる。そして肝心なのは事象の方。外にある事象を文章として提示することで、興味を持ってもらえる可能性が生まれる。
同じ事象でも、先ほど話した通り既にある情報の焼き直しは厳禁です。映画ならただのあらすじ紹介、事件や事故ならニュースの引用になるだけ。事象にオリジナリティーを持たせる方法は、調べることだと思うんです。僕は著書でも「物書きは『調べる』が9割9分5厘6毛」と書いたのですが、「他で誰も言っていない、自分が読みたいこと」は調べたものの中にこそある。
ひたすら心象を書いているかのように見える詩人や俳人も、実は観察した風景のことを詠んでいます。風景も事象、つまり観察は調べることの一種なんですよね。書くという行為において最も重要なのはファクトであり、調べることなのです。
——調べる時に、注意すべきことはありますか。
ネットにある情報は、また聞きのまた聞きが文字になっているものが大半です。僕は書籍に当たるようにしています。公共図書館には司書という調べものの強い味方がいますし、国立国会図書館デジタルコレクションは、キーワードを入れたら閲覧できます。例えば、本能寺の変を調べようと思ったら、歴史書に加えて地方公共団体や学術機関の出版物まで100冊以上ある。スマホかパソコンがあれば、誰でもどこからでも一次情報が見られます。織田信長が殺された理由について、この人はこう言っているが、この人はこういう理由でこうだと言っていると調べたら、それだけでも読みものとして面白いですよね。
——何かの事象をテーマに、調べたことを書くということですね。テーマを探すコツはありますか。
誰にでも何にでも、心が揺り動かされる瞬間がありますよね。映画を見て何か書こうという時なら、特定のシーンに感動したからかもしれないし、俳優の演技や音楽に驚いたからかもしれない。こうした自分の「感動の中心」をテーマにすればいいんです。
映画なら、その映画そのものに感動する必要はないのもポイントです。つまらない映画だったけれど、クルマが大爆発するシーンだけが唯一面白かったのであれば、その話だけ書けばいいんです。それについて調べたいとも思えますよね。そのシーンはCGなのか。リアルなら火薬の量はどうなのか、その監督は他の映画でも爆発シーン好きなのかなど、いくらでもファクターが思い浮かびます。
このパターンを知っておけば、納豆1パック渡されても文章を書けますよ。粒の大きさ、粘り、タレの味……。テーマになり得ることはいくらでもあります。一番心が動いたことについて調べるだけですから。
——文章を書くために、ふだん心掛けた方がいいことや、やっておける事前準備は何かありますか。
普段、本を読んでいない人は書けないですよね。何も様々な本を膨大な数読んで、テクニックを盗もうと意気込む必要はないと思います。誰かのエッセーがすごく好きなら、「こんな文章を書いてみたいな」と思いながら読めばいいと思うんです。それを繰り返していけば、なぜこの人のエッセーが面白いのか分かってくると思います。
「信念とは? 芸術とは? 成熟とは?という巨大なテーマが、大長編でなければ語れない分量で書かれています。大長編と呼ばれる本はどんなものなのか知るのも悪くないと思います」(田中氏)
『神曲 地獄編』(全3巻)ダンテ・アリギエリ著、原基晶訳(講談社学術文庫)
「これも長い本です。しかも詩なのか、小説なのか。神話のようでSFのよう。悲劇のようでコメディのよう。人間の想像力を知りたかったらこの本を読むといいと思います」(同)
『マルクス 資本論』(全9巻)エンゲルス編、 向坂逸郎訳(岩波文庫)
「政治的な思想に関係なく、この本は単純に面白い。社会観察だけでなく、『この例え話いるか?』と突っ込みたくなる話が盛り込まれており、これが読み物として成立させています」(同)
『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』マックス・ヴェーバー著、大塚久雄訳(岩波文庫)
「プロテスタントの信仰が結果的に近代資本主義を誕生させたという話が、『調べまくる』という基礎の上で展開されています。調べることで納得させてしまうという手法が学べた1冊です」(同)
『坂の上の雲』(全8巻)司馬遼太郎著(文春文庫)
「ストーリーの描写の中で、『ところで筆者は思うのだが』などと話が飛ぶので、小説か随筆か分からないところがある。いずれにせよ司馬遼太郎も『調べること』の極みのような作家」(同)
『美人論』井上章一著(朝日文芸文庫)
「井上章一は、おそらく日本で一番ねちっこい文体を駆使する人ではないかと思います。特に仮説の立て方、資料の揃え方、そして展開の仕方に注目してください」(同)
『輝ける闇』(新潮文庫)、『ベトナム戦記』(朝日文庫)開高健著
「開高健は広告コピーライター、ルポ・随筆を書くライター、そして小説家の3つを横断して生きた作家。彼が書いたものの立ち位置の差を検証することで、無数の学びがあるはずです」(同)
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