ファミリーマートの店舗集客大作戦 第2回

ファミリーマートが集客のために取り組む作戦は「店舗のメディア化」だけではない。電動キックボード(キックスケーター)のシェアサービスや、家庭で余った食品を回収するフードドライブの展開など、同社ならではの来店客増加作戦も推し進める。これらの作戦を担う3つの“謎”めいた組織に着目した。

Luup(東京・渋谷)と資本業務提携を結び、電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」の「ポート(借り出しや返却ができるスペース)」を設置したファミリーマートの店舗(出所/ファミリーマート)
Luup(東京・渋谷)と資本業務提携を結び、電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」の「ポート(借り出しや返却ができるスペース)」を設置したファミリーマートの店舗(出所/ファミリーマート)

 2022年3月、1つの組織がファミリーマート(以下、ファミマ)社内に新設された。その名も「クリエイティブオフィス&8」。字面だけを見ると、広告会社の制作部門のようにも見えるこの部署、実はリアル店舗を活用した新しいビジネスの種を生み出すために設置された、社長直轄の戦略組織である。

 店舗運営などの現場を歩んだ後、新組織のゼネラルマネジャーに就いた野上真孝氏が、組織のミッションとして「クリエイト」「マネタイズ」に次いで「リンケージ」を掲げるなど、既存組織との協調・連係によって成果を出すことを目指す。実際、部署名の末尾にある「&8」という一見すると不可解な文字は、ファミマの親会社である伊藤忠商事第8カンパニーと連係を取って事に当たるという意味なのだ。

クリエイティブオフィス&8のメンバー
クリエイティブオフィス&8のメンバー
クリエイティブオフィス&8ゼネラルマネジャーの野上真孝氏(左)とゼネラルマネジャー補佐の山中伸哉氏(右)
クリエイティブオフィス&8ゼネラルマネジャーの野上真孝氏(左)とゼネラルマネジャー補佐の山中伸哉氏(右)

全国700店までLUUPのポート設置店を広げる

 このクリエイティブオフィス&8が、新しいビジネスの種として取り組んだ具体的な施策の第1弾が、電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」を展開するLuup(ループ、東京・渋谷)との提携だ。Luupが自社の事業戦略に照らしてここに「ポート(借り出しや返却ができるスペース)」を配置したいと希望し、オーナーや家主の了承を得られたファミマの店舗について、22年6月から本格的にポートの設置を開始した。22年7月末現在で、京都と東京の数十店にポートが設置されている。

 「誰でも1度は乗ってみたいと思わせる電動キックボード」(クリエイティブオフィス&8ゼネラルマネジャー補佐の山中伸哉氏)について、借り出しや返却ができるポートをファミマの駐車場や店先のスペースに設置することで、「これまでファミマをあまり利用したことがないユーザーの利用を促す」(山中氏)という狙いがある。LUUPの場合、キックボードを借り出すときに専用アプリであらかじめ返却場所を指定する仕組みになっているため、「ファミマの店舗で借り、別のファミマの店舗で返すという流れになれば、店舗に立ち寄って購買してもらえる機会が増える」(山中氏)と考えた。

 店頭への集客と同時に、店舗周辺の空きスペースを活用した地代収入という新たな収益も得られる。ファミマの新しいビジネスとして定着させるため、以前から手がける店頭を活用したレンタサイクルサービスと同規模である「全国700店程度までLUUPのポート設置店を広げる」(野上氏)のが、当面の目標だ。

処方薬を店頭で受け取れるサービス「ファミマシー」

 クリエイティブオフィス&8は他の施策の展開にも積極的だ。ファミマの店頭において、最短で申し込みの翌日に、送料・手数料無料で処方薬を受け取ることができるサービス「ファミマシー」はその1つである。

 凸版印刷の100%子会社であるおかぴファーマシーシステム(東京・千代田)と組み、凸版印刷とおかぴファーマシーシステムが運営する処方薬宅配サービス「とどくすり」の資産を活用する。具体的には、ユーザーがとどくすり薬局の薬剤師による服薬指導を終えた処方薬を、22年5月から、自治体の許可を得られた東京都内の約2400店舗で受け取れるようにした。この仕組みにより、ファミマ店頭に薬剤師や登録販売者を置かなくても済む。ユーザーがネットで商品を注文し、店頭で受け取るという既存の仕組みの上に、処方薬を新メニューとして載せた格好なので追加投資も少なくて済む。

(1)とどくすりへの会員登録をする(登録済みのユーザーはログインする)<br>(2)受診した医療機関で「とどくすり利用希望」の旨を伝える(処方せんは医療機関から薬局に送付される)<br>(3)マイページまたは申込画面から、受け取りを希望するファミリーマート店舗を選択する<br>(4)薬剤師から電話があるので、処方薬の説明を受ける<br>(5)店舗へ処方薬が到着次第、受け取りに必要なバーコードがメール等で通知される<br>(6)レジで認証用バーコードを提示して受け取り、処方薬を確認する<br>(出所/ファミリーマート)
「ファミマシー」のサービスの流れ
(1)とどくすりへの会員登録をする(登録済みのユーザーはログインする)
(2)受診した医療機関で「とどくすり利用希望」の旨を伝える(処方せんは医療機関から薬局に送付される)
(3)マイページまたは申込画面から、受け取りを希望するファミリーマート店舗を選択する
(4)薬剤師から電話があるので、処方薬の説明を受ける
(5)店舗へ処方薬が到着次第、受け取りに必要なバーコードがメール等で通知される
(6)レジで認証用バーコードを提示して受け取り、処方薬を確認する
(出所/ファミリーマート)
ファミマシーを利用した顧客は、店頭で処方薬を受け取れる(出所/ファミリーマート)
ファミマシーを利用した顧客は、店頭で処方薬を受け取れる(出所/ファミリーマート)

 「自宅近くや職場近くのファミマの店頭で処方薬を受け取れるため、ユーザーの満足度がアップする」(野上氏)のに加え、「処方薬の受け取りが強い来店動機になる」(野上氏)と考えた。処方薬を必要とするユーザーは少なくなく、そうしたユーザーと関係を構築できれば定期的な来店につながる可能性が高いというわけだ。サービスを開始してまだ数カ月だが、「今のところ想定通り、中年の女性客を中心に利用が伸び、同時にこれらの来店客による店頭での売り上げも増えている」(野上氏)という。この形式の販売について、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に抵触しないなどの見解で許可が得られた自治体から順次、全国に展開していく考えだ。

 クリエイティブオフィス&8は今後、LUUP、ファミマシーとも、利用したユーザーに対し、アプリなどを経由して店頭で販売中の商品の割引クーポンなどを提示することで、店頭での売り上げをさらに増加させる手立てを検討していくという。

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