新刊『それでは伝わらない!ビジネスコミュニケーション新常識 デジタルグローバルな作法は若者に学べ』(2022年8月、日経BP発行)を基に、ビジネスコミュニケーションの常識を変え、グローバル化を一気に進展させる新しいツールの登場やコミュニケーションスタイルの変化の背景を整理して解説する連載。今回は「マーケティングのトレンド」を解説する。

 広告代理店勤務のEさんは、趣味で始めたペットの犬の写真を投稿するInstagramのアカウントを持っています。ある時、そのInstagramのアカウントに、ペット向けおやつを販売している企業からDMが届いたそうです。

 「おやつを無料で送りますので、Instagramでおやつの感想を投稿していただけませんか?」

フォロワー5000人のアカウントに告知を打診

 商品を無料提供する代わりに、その感想を投稿してもらうことで、企業は宣伝効果を狙っているのです。他にもEさんのもとには、犬用のベッドメーカーなどから様々な打診が届きました。

 「犬の生活にかかる費用負担は小さくないので、このような提供はすごく助かっています」

 Eさん自身も広告代理店に勤務していることから、SNS上のインフルエンサーと呼ばれる万単位でフォロワーがいるInstagramユーザーと関わりはありました。

 「仕事でインフルエンサーに販売促進のための投稿協力を依頼することはありましたが、フォロワー5000人に満たない自分のアカウントに打診が来るとは思いませんでした。ということは、1万人や10万人のフォロワーのいるユーザーへの打診はもっとすごいだろうなと思います」

 「打診された中には、よりビジネス的な依頼もありました。企業の商品宣伝ページへのリンクを私のInstagramに記載し、そこから注文につながると売り上げの一部を宣伝費用として支払ってくれるというのです。試しにやってみたら10件くらいの注文が来て、実際に売り上げもあったのです。自分の犬がかわいくて、それを見てもらいたいと趣味で始めたアカウントが、こんなことになるとは思いもよりませんでした」

 このようなマーケティング手法を「インフルエンサーマーケティング」と呼びます。国内の市場規模は2021年には425億円、2025年には723億円に拡大(サイバー・バズ/デジタルインファクト調べ)し、世界市場は2027年に419億米ドルになる(REPORTOCEAN調べ)と言われています。

「共感」コミュニケーションスキルが求められる

 これまで主流であったテレビCMをはじめとするマスマーケティングは、今、SNSを通じたインフルエンサーによるおすすめ、友達同士のコミュニケーションを通じた紹介、といった「共有型」「共感型」のマーケティングに大きくシフトしています。この流れの特徴は、これまでは「セレブ(芸能人)」がCMを通じて「消費者」に宣伝する一方通行型であったのが、広告代理店勤務のEさんのように、一般の人が趣味や「好き」を追求する中で、「発信者」側にもなる、という双方向型であるという点です。

 このような変化はマーケティングの世界だけでなく、Eコマースの発展やSNSの浸透によって様々な業界で起きています。例えば全国各地の農園では、生産者自らが直接ネットショップやEコマースプラットフォームを通じて宣伝し、一般ユーザーへ直送販売しています。また、アパレルでは、実店舗を一切持たず、Instagramで顧客にダイレクトにアプローチし、オンライン販売のみで急成長するという事例もあります。

 モノの作り手とユーザーが直結する新たなビジネスにおいては、モノや体験の価値・感動を、マス広告としてではなく、個人から個人へダイレクトに「発信」し、相手の「共感」を生み出すことが重要です。

 「共感」コミュニケーションスキルは、今後、どんな立場、職種であろうと、必ず重要になってくるでしょう。

SNS標準がビジネスコミュニケーションへ、学び直すのはキャリア世代!?
『それでは伝わらない!ビジネスコミュニケーション新常識 デジタルグローバルな作法は若者に学べ』	著者●西原勇介/定価●1870円(10%税込み)/発行●日経BP/判型●四六判248ページ/発行日●2022年8月29日/ISBN978-4-296-20018-4
『それでは伝わらない!ビジネスコミュニケーション新常識 デジタルグローバルな作法は若者に学べ』 著者●西原勇介/定価●1870円(10%税込み)/発行●日経BP/判型●四六判248ページ/発行日●2022年8月29日/ISBN978-4-296-20018-4

 最近の若者のコミュニケーションはいかがなものか――。そう考えているキャリアパーソン世代は少なくないでしょう。しかし、キャリアパーソン世代が常識と思っているビジネスコミュニケーションは、今、過去のものになろうとしています。これまでは「丁寧・気配り」「実直」「立場・背景」が重視されましたが、新常識の特徴は「共感」「ストレート」「フラット」で、従来とは大きく変化しています。

 これら新常識にキャリアパーソン世代は戸惑うでしょうが、若者はそうではありません。実は若者がSNSで身に付けたコミュニケーションスキルの特徴と同じなのです。つまり、コミュニケーションを学び直す必要があるのはキャリアパーソン世代というわけです。

 ビジネスコミュニケーションの新常識は、本書を読むことで最速で身に付けることができます。もちろん社会人になったばかりの若者や就職を控える学生にとっても、普段のコミュニケーションが次世代のビジネスシーンにおいてどんな価値があるのか、本書を読めば具体的な事例をもって知ることができ、得意とするスキルをビジネスでも存分に発揮できるようになります。

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