※日経エンタテインメント! 2022年8月号の記事を再構成
20代男性俳優は“戦国時代”の様相を呈している。午後7時~11時の「ゴールデン・プライム帯」(GP帯)ドラマはもちろん深夜枠で注目を集める俳優も多い昨今、数多くの作品に出演することは人気俳優へと歩むチャンスと言える。そこで、ドラマや映画への出演数が多い俳優は誰かを調査。主演数やレギュラー出演数、映画出演数も確認した。
若手男性俳優の登竜門といえば、『仮面ライダー』と『スーパー戦隊』シリーズを思い浮かべる人が多いだろう。2010年代以降は、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)も注目の場の1つだ。これらは、地上波テレビというマスのパワーで日本全国の幅広い層に対して一気に認知度を高められる場といえる。
だが、SNSや配信サービスが普及した昨今は、深夜ドラマや在京キー局以外が制作するドラマなど、従来登竜門と言われてきた場とは異なる作品での演技も広く注目を集め、ブレイクに至るケースも増えている。役柄の大小にかかわらず、数多くの作品に出演することで、人気俳優への道を歩むチャンスが巡ってくる時代になったと言っていいだろう。
日経エンタテインメント! 編集部では、19年9月号にて当時20代の男性俳優を対象に「映画&連ドラ出演数ランキング」を調査している。下の表がその結果だ。3年近くたった今では、この調査で上位に入った人物の中から、主演クラスに登り詰めた人物や、GP帯ドラマなど話題の作品にて主要キャストを演じる機会の増えている人物が多く見られる。
「出演数」がキャリアに
前回、最も出演数の多かった笠松将(29)は、18年8月からの1年間に出演していた18作のうち、10作が連ドラのゲスト出演だった。その後、着実に知名度を上げ、22年1月期の『ムチャブリ! わたしが社長になるなんて』など連ドラのレギュラー出演が増加。さらにはアメリカの配信サービス「HBO Max」で世界配信された『TOKYO VICE』(日本ではWOWOWで4月24日から放送)でも、重要な役に抜てきされるなど確実にステップアップしている。
前回11作に出演していた杉野遥亮(26)、8作の町田啓太(31)、7作の赤楚衛二(28)と間宮祥太朗(29)らは、いまやGP帯ドラマにて主演もしくはヒロインの相手役を担うクラスへと成長した。
18年~19年当時の杉野と赤楚は深夜ドラマへ多く出演、町田は『中学聖日記』で、間宮は朝ドラ『半分、青い。』で知名度を上げ始めた時期だった。その後、赤楚と町田は20年10月期の深夜ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』で大ブレイクを果たした。杉野は昨年10月期の連ドラ『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』にて杉咲花の相手役を務め知名度が上昇。さらに、間宮は22年4月の『ナンバMG5』にてGP帯の連ドラ初主演を達成している。様々な作品への出演が、その後のキャリアに結び付いているようだ。
では今、数多くの作品に出演する20代男性俳優は誰なのか。21年7月から1年間の間に放送、配信、公開されたドラマと映画を対象に出演数をカウントした。
1位となったのは、いずれも1年間で17もの作品に出演した浅香航大(29)と濱正悟(27)。これに14作の井之脇海(26)、戸塚純貴(29)、吉村界人(29)が続くという結果となった。
浅香、戸塚、吉村の3人は、GP帯連ドラや深夜ドラマのレギュラーからゲスト出演、映画と幅広く出演する。浅香は共にヒットしたドラマの映画版『あなたの番です 劇場版』と『チェリまほ THE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』などに出演、戸塚は『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』などGP帯ドラマ3作でレギュラーを務め、吉村は6作の映画出演に加えて『ケイ×ヤク‐あぶない相棒‐』など連ドラレギュラーも多い。いずれも作品ごとに全く異なる表情を見せており、若き実力派俳優といえる存在だ。
濱は、18年の『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』にてルパンブルー役を演じて、本格的に俳優業をスタートした若手。調査対象期間内はドラマのゲスト出演や配信作品での出演が多かったが、22年6月1日からスタートした『何かおかしい』(テレ東系)にて連ドラ初主演を務めており、さらなる飛躍が期待される。井之脇は、GP帯ドラマに加えて朝ドラでの出演を重ねており、お茶の間での認知度が着実に上昇中。現在放送中の『ちむどんどん』は実に3回目の朝ドラ出演であり、主人公が勤めるレストランの厨房の先輩を演じている。
主演数1位は神尾楓珠
次に主演やドラマのレギュラーなど、出演作でのポジションも確認した。まず、多くの俳優が目指す「主演」の数が多かったのはいったい誰か。
1位となったのは、計6作で主演を務めた神尾楓珠(23)だ。内訳を見ると、ドラマは21年10月期の『顔だけ先生』と22年5月スタートのNHKドラマ『17才の帝国』の2作。さらに調査対象期間内に公開された映画4作のすべてが主演作だった。教師役から高校生役まで務め、さらにコメディ、ラブコメ、主演映画『彼女が好きなものは』ではゲイの高校生役と幅広い役柄を演じ分けている。4作に主演した内藤秀一郎(26)は、21年8月まで放送された『仮面ライダーセイバー』で主役を務めておりその関連作品が3作を占めている。
主演数が3作だった4名のうち、菅田将暉(29)と山田涼介(29)はGP帯ドラマや大規模公開映画で主役を張る、すでにトップクラスの俳優。奥野壮(21)はNHKドラマ1作、深夜ドラマ1作、映画1作、ジャニーズJr内グループ「HiHi Jets」のメンバーである高橋優斗(22)は深夜ドラマ3作でそれぞれ主演を務めた。
続いて、連続ドラマのレギュラー出演が多いのは誰か。例えば、先に挙げた間宮祥太朗は、20年から22年3月までの間に6作のGP帯ドラマでレギュラーを務めたのちに、22年4月期の『ナンバMG5』にて主演に抜てきされた。ゲスト出演で経験を積んで連ドラレギュラーをつかみ取り、視聴者の認知度と制作スタッフの信頼を得ることで、主演の座へつながる可能性が高まると言えるだろう。
多くの視聴者の目に留まる可能性が高い「GP帯ドラマのレギュラー数」が多かったのは、4作の鈴木伸之(29)。21年7月期『ボクの殺意が恋をした』、同年10月期は『ラジエーションハウスII~放射線科の診断レポート~』と『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』の2本、さらに22年4月期『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』に出演している。ちなみに、22年1月期は深夜ドラマ『ケイ×ヤク ‐あぶない相棒‐』で主演を務めており、調査対象期間を通じて連ドラに出演していた活躍ぶりだった。
鈴木に続く3作に出演した6人では、前出の戸塚純貴と間宮祥太朗に加えて、一ノ瀬颯(25)、高橋文哉(21)、金子大地(25)、中川大志(24)という25歳以下の4人も名を連ねた。
中川はすでに連ドラ主演の経験もあり、一ノ瀬は『ドクターX~外科医・大門未知子~』、金子は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』という話題作に出演。また、高橋は20年10月期から7クール連続で連ドラのレギュラーに起用されている。いずれも、今後さらなる飛躍が期待される存在と言っていい。
続いて、「深夜ドラマのレギュラー数」についても調査した。GP帯と比べると視聴者が少ない放送枠ではあるが、昨今は熱狂的な人気を生む深夜ドラマが増加している。代表的な例は、先にも挙げた『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』だろう。同作は深夜1時スタートという時間での放送だったが、熱狂を生みTwitterのトレンド1位を獲得。赤楚衛二と町田啓太の人気を大きく高めることとなった。
深夜ドラマが大きな反響を集めるようになった背景には、TVerやGYAO!といった見逃し配信サービスの普及も挙げられる。こうしたサービスは、在京キー局以外が制作するドラマにも影響を与えている。例えば、大阪の毎日放送が制作した昨年11月スタートのドラマ『美しい彼』は、在京局での放送がなかったが見逃し配信サービスを通じて大反響を呼び、第59回ギャラクシー賞『第16回マイベストTV賞』でグランプリを受賞。日本はもちろん海を越えた中国でも、主演の萩原利久(23)と八木勇征(25)の人気が高まるという結果をもたらした。
在京キー局制作以外も含めた「深夜ドラマのレギュラー数」を調べたところ、曽田陵介(24)と細田佳央太(20)の2人が4本でトップだった。それぞれ主演作が1作あり、曽田の『不幸くんはキスするしかない!』は男性同士の恋愛を描いたいわゆるBLもの、細田の『もしも、イケメンだけの高校があったら』は若手俳優が多数そろう、いずれもSNSなどで反響の大きいジャンルだ。主演作品数の多かった内藤秀一郎は、22年6月からスタートした毎日放送制作のBLドラマ『先輩、断じて恋では!』にて瀬戸利樹(26)とともに主演を務めている。若手俳優が深夜ドラマや地方局制作のドラマに積極的に出演するという流れは今後も続きそうだ。
映画も、若手俳優が主演や重要な役どころで出演するチャンスが多い場の1つだ。社会問題やバイオレンスといった地上波ドラマでは扱いにくいテーマや描写を取り入れる作品も多く、演技の幅を広げる場となっている。
「映画出演数」では、磯村勇斗(29)と藤原季節(29)と演技力で高い評価を得る2人がともに7作でトップに立った。そのほかも、演技派と呼ばれる俳優が名を連ねている。