インクルーシブデザインの可能性 第9回

※IDEO「This Work Can't Wait」から再編集 https://cantwait.ideo.com/

インクルーシブデザインの対象は広い。プロダクトだけでなく、行政システムやヘルスケア、コミュニティーまで、インクルージョンする意識が不可欠だ。特に言語や文化の違い、貧富の差が大きな米国ではその緊急性がクローズアップされている。デザインファームIDEOの取り組みから、その最前線を紹介する。

家庭を中心にメンタルヘルスを考える

IDEOとマサチューセッツ州精神衛生局の協業では、子供たちやその家族とメンタルヘルスについて話し合うためのツールも開発した
IDEOとマサチューセッツ州精神衛生局の協業では、子供たちやその家族とメンタルヘルスについて話し合うためのツールも開発した

 現代社会とその苦境は、私たちの子供を含む家庭にとてつもないプレッシャーを与えています。子供たちのメンタルヘルスは、私たちが想像さえしなかった形で、試練にさらされています。心配する親や保護者は多いものの、どこに情報や助けを求めたらよいのか分からないのが現状です。IDEOがマサチューセッツ州精神衛生局、児童養護所および保健福祉事務局との連携で開発した「HandholdMA.org」は、就学年齢の子供を持つ親を対象とした家庭に優しいデジタルリソースです。何も問題がなかったとしても、子育ては難しいものです。そこに問題が加わったときに、誰にでも支援の手が差し伸べられるようにするのが、このサービスの役割です。ローンチ以来、HandholdMA.orgには8万7000人がアクセスしています。

 子供たちのメンタルヘルスに対応することの緊急性は、いくら強調しても足りません。2020年、メンタルヘルス危機を理由とする救急来院の割合は、5歳から11歳までの子供は対前年で24%、12歳から17歳までの子供では同31%増大しています。

 新型コロナウイルス禍の10年前から、子供のウェルビーイングに対する懸念はすでに高まっていました。社会的な不公平に加え、コロナ禍の影響で抑うつ症や不安症、トラウマ、孤独、自殺願望が急増しています。メンタルヘルスは体中のさまざまな要因から影響を受けるという認識を基に、私たちはマサチューセッツ州全土で、あらゆる所得水準の家庭と開業医から話を聞きました。その中には、メンタルヘルスの問題がオープンに議論されているコミュニティーもあれば、タブー視されているコミュニティーもあります。私たちはこうした対話から、メンタルヘルス対策には本人とその家族の両方の教育とサポート、エンパワーメントが必要であることを学びました。

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