インクルーシブデザインの可能性 第7回

長年、インクルーシブデザインの研究を続けてきたジュリア・カセム氏と、2022年4月にインクルーシブブランド「IKOU」を立ち上げた松本友理氏。異なる立場の両者が、インクルーシブデザインの現状や課題について話した。

ジュリア・カセム氏と松本友理氏(写真/行友重治)
(写真/行友重治)
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ジュリア・カセム 氏(右)
京都工芸繊維大学
KYOTO Design Lab特命教授(インクルーシブ・デザイン)

1984~99年「The Japan Times」のアートコラムニスト。2000~14年RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)ヘレン・ハムリン研究センターで「Challenge Workshops」プログラム実施。14年より現職

松本 友理(まつもと ゆり)氏(左)
Halu代表取締役
2007年大学卒業後トヨタ自動車入社。本社でプロダクトマネージャーとして商品企画などを担当。16年に誕生した長男に脳性まひによる運動機能障害が判明。19年トヨタ自動車退職。20年Halu(京都市)設立

ジュリア・カセム氏(以下、カセム) 1971年に日本にやってきて、東京芸術大学大学院で彫刻を学んだ後、84年から英字新聞「The Japan Times」のアートコラムニストをしていました。当時の日本は好景気で、美術館ブーム。立派な建物が次々と建設される一方で、アートの知識がない人々が心理的に排除されていると感じていました。さらに排除されていたのが障がい者たち。そこで、一般の人々も視覚障がいの人々も楽しめる美術展を企画しました。エクストリームユーザーである視覚障がい者の視点を取り入れ、多くのユーザーに新たな体験を提供できたことが、インクルーシブデザインに取り組むきっかけになりました。

松本友理氏(以下、松本) 2022年4月に「IKOU」を立ち上げました。身体的にチャレンジを抱える子供たちを深く洞察し、より多くの子供たちに価値をもたらすプロダクトを作っています。

カセム なぜIKOUを始めようと思ったのでしょうか。

松本 起業してものづくりをしようと決めたのは、前職で商品開発をしていたことと、脳性まひを抱える息子との暮らしがきっかけです。既存の福祉機器の多くは機能に特化しており、ユーザーの気持ちが置き去りになっている。そこで、ユーザーの気持ちに寄り添いながら、さらに障がい児だけでなく、一般の子供たちも価値を感じられる商品開発をしようと、考えを発展させていきました。

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