インクルーシブデザインの可能性 第1回

駅のアナウンスや電車の音などの環境音を、オノマトペ(擬態・擬音語)や手話として視覚的に表現する「エキマトペ」が話題となっている。聴覚障がいの有無を問わず、便利で楽しめることを目指して開発したインクルーシブデザインの最新事例の1つだ。

JR上野駅の1・2番線ホームに設置されている「エキマトペ」。定型のアナウンスが流れると、手話付きの映像が映し出される
JR上野駅の1・2番線ホームに設置されている「エキマトペ」。定型のアナウンスが流れると、手話付きの映像が映し出される

 インクルーシブデザインとは、従来の製品企画や開発のプロセスから除外(Exclude)されてきた制約のある多様な人々──障がい者や高齢者、外国人など──と一緒(Include)に、製品を企画したり開発したりするデザイン手法だ。最近では大手企業を中心に、インクルーシブデザインを取り入れるケースが増えている。例えば花王の「アタックZERO」が採用した「ワンハンドプッシュ」の新容器は、高齢者や視覚障がいのある人、手に軽いまひがある人などの協力を得て開発されたという。

 従来の製品・サービスの対象から排除されてきた人々を、デザインの上流から巻き込んでいく。「極端なニーズ」をきっかけに、マジョリティーが気づかないような潜在的ニーズを掘り起こし、より多くの人が使いやすいデザインを見いだす──そこにインクルーシブデザインの真の価値がある。

 2022年の夏は、3年ぶりに「行動制限のない夏」だった。人々の動きが活発になり、高齢者や障がいがある人も元気に活動し、インバウンド(訪日外国人)をはじめ多様な人々が交じり合う──そんな日常を取り戻す第一歩だ。

 そこで大切になるのが、ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と包摂性)への取り組みだ。SDGs(持続可能な開発目標)の重要な柱でもある。欧米にやや遅れている感じはあるものの、日本でも少しずつ認識が高まってきた。

 注目したいのは、ダイバーシティー&インクルージョンへの取り組みがイノベーションにつながり得る、という可能性だ。これまでのように顕在化したニーズに対応するだけでは、もはや新しい商品やサービスは生まれにくい。むしろハンディキャップがある人たちの極端なニーズがブレークスルーのきっかけになる。

 本特集では、大きな可能性を秘めたインクルーシブデザインのさまざまな事例を取材した。第1回は、富士通とJR東日本、大日本印刷(以下 DNP)が手がける「エキマトペ」だ。

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 電車が発着するときのアナウンスや、電車がブレーキをかけながらホームに入ってくる音、走り去っていく音、ドアの開閉や発着を知らせるベル音など、駅のホームにはさまざまな音が飛び交っている。エキマトペは、そんなさまざまな音声をAI(人工知能)が分析し、リアルタイムで手話の映像や文字にしてモニターに映し出す装置だ。

 富士通、JR東日本、DNPの3社が川崎市立聾学校の生徒の声を基に開発し、2021年9月13日から15日までJR巣鴨駅で実証実験を行った。その後、装置の小型化などの改良を加え、22年6月15日から12月14日まで、JR上野駅の1・2番線ホーム(京浜東北線と山手線)で実証実験を行っている。

 定型のアナウンスが流れると、モニターには手話の映像と文字情報が映し出される。電車やベル音などの環境音は、「ヒューン」「ガタンゴトン」「ルルルル」といったオノマトペ(擬態・擬音語)で表現される。ユニークなのは、オノマトペはそれぞれ、音のイメージに合わせてグラフィカルにデザインされ、アニメーションで流れることだ。漫画的な目を引くデザインで、見ているだけでも楽しめる。

ドアが開くときの案内音は「ポロンポロン」、出発するときのベル音は「ルルルル」、電車が走る音は「ガタンゴトン」など、音のイメージに合わせてデザインされた書体のアニメーションがリアルタイムで表示される
ドアが開くときの案内音は「ポロンポロン」、出発するときのベル音は「ルルルル」、電車が走る音は「ガタンゴトン」など、音のイメージに合わせてデザインされた書体のアニメーションがリアルタイムで表示される
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