これまで2回の連載で、現在米国で起きているテレビ広告の取引基準の変革に関する議論と、市場動向をリポートした。今回は、米大手メディア企業でテレビ広告取引の新基準制定に力を入れるNBCユニバーサル(以下、NBCU)に対して、テレビ視聴データの測定事業者側が提出した提案書を紹介すると共に、国内のテレビ広告取引においても、新たな基準を持つ必要があるのかどうかを考察して締めくくりたい。

国内でもテレビCMの取引に使う新指標が必要になるのかを考察する(写真/Shutterstock)
国内でもテレビCMの取引に使う新指標が必要になるのかを考察する(写真/Shutterstock)

 第2回では、NBCUがテレビ視聴測定の新基準づくりを進めるうえで重視している「3つの評価軸」について、具体的にどのような検討・検証を行ったのかを紹介した。今回はNBCUが新基準をつくるに当たり、測定事業者に求めたRFP(提案依頼書)に提出された提案書の内容を紹介したい。今後、国内の測定事業者がテレビCMの測定などのソリューションを機能拡張する場合や、広告主、メディアあるいは広告会社などが測定事業者と協力体制を検討する際の一助となればと考えている。

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 RFPへ回答したオーディエンス測定カテゴリーの事業者は8社ある。NBCUがテレビ広告枠の価値を決め、取引に使用する新基準、すなわち「代替通貨」の測定事業者に採択した米アイスポットTVは2012年に設立され、ワシントン州ベルビューに本拠を置く。事業は米国でのみ展開しており、従業員は350人程度である。

 しかし、その規模感にもかかわらず、市場からの期待は高い。米ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは22年4月末、アイスポットTVに3億2500万ドルの出資を決めた。当時のドル円レートで約420億円である。22年内に非上場化を目指している、大手測定事業者のニールセンの企業価値は100億ドルといわれているため、まだ桁は2つ小さい。だが、ゴールドマン・サックスが投資を決めたことでさらに注目度は高まっている。

 アイスポットTVがNBCUに提出した提案書から、特徴的な箇所をピックアップして紹介する。少々細かいため、大まかにポイントを整理して説明しよう。以下のポイントなどがNBCUに評価されたと考えられる。

(1)既に400社以上が利用し、8割を広告主が占める。テレビ広告に年間1億ドル以上を費やす広告主の半数が利用する自立した測定プロバイダーである

(2)リニア(従来のテレビ放送)と(ネット結線された)コネクテッドテレビでの広告表示を即座に取得し、24時間以内に個人レベルでの統合リポートとして提供

(3)独自技術で蓄積された広告カタログ(CMデータ)と業界最大級のスマートTV測定データの結合で、番組と全フォーマットの広告を別々に正確に検出

(4)オプトインした1900万台のスマートTVは、家庭内の他のデジタル機器と接続し、広告主の持つ自前のファースト・パーティー・データや主要なIDプロバイダーも連携可能

新基準の測定事業者の採択を進めるNBCUのRFPに米アイスポットTVが送付した個別回答(約40項目からの抜粋)
新基準の測定事業者の採択を進めるNBCUのRFPに米アイスポットTVが送付した個別回答(約40項目からの抜粋)

 また、アイスポットTVのサイトでは、提供する測定ツールのダッシュボードのサンプル画面と、多くの事例やデータなども公開されている。浅薄なことは言うべきではないが、指標項目などを見た限りでは、国内でも類似する測定方法や近しい分析を行えるソリューションはいくつか存在しているようにも思える。

 ただ、それらのソリューションは個々の分析機能であることも多く、複数のメディアを横断して統合的に分析し、同じダッシュボード上にデータを表示することができなかったり、データの結合が人為的だったりする。アイスポットTVと同等レベルのソリューションにまで昇華されるには、かなり大掛かりな測定システム同士の相互接続や、企業間の連携・提携を要することになるだろう。

米アイスポットTVが提供する測定ソリューションのサンプル画面(出典:米アイスポットTVのWebサイトから引用)
米アイスポットTVが提供する測定ソリューションのサンプル画面(出典:米アイスポットTVのWebサイトから引用)

 米ホームケアサービスの検索サービス「Angi(アンジー)」は、アイスポットTVのサービスを活用している1社だ。同社のマーケティング・バイスプレジデントのダイアナ・ボイルズ氏は22年4月に開催されたイベント「ADWEEK Convergent TV Summit EAST 2022」に登壇し、次のように述べている。

 「多くのメディアパートナーなどが独自の測定ソリューションを提供していることは知っている。しかし、それは子どもに自分のテストを自分で採点させるような行為だ。我々にとって重要だったのは、自立した第三者機関として、我々のパフォーマンスを測定してくれるパートナーを持つことであった」

 アイスポットTVも提案書の中で「自立した事業者」であることを強調している。「測定の自立」は、やはりテレビ広告の取引において、重要なキーワードとなっていく可能性が高いと言えるだろう。

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