第1回は、米国で起きているテレビ視聴の「測定」に関する現下の議論と、それに端を発したNBCユニバーサル(以下、NBCU)の公開リポートの導入部分を紹介した。今回はリポートの中心的内容となった、テレビCM取引の新基準算定の候補となる測定事業者を評価する3つの軸を解説する。テレビCMの広告取引の基準となる指標がどのように改革されていこうとしているのか、その方向性を見ていこう。
NBCUのバイスプレジデントであるケリー・アブカリアン氏はテレビCM取引の“代替通貨”プロジェクトのキーパーソンである。21年4月に米 ニールセンから移籍してきた。
「過去の50年間よりも、この10年間で起きている消費者行動の変化の方が大きい。テレビの視聴者はかつてないほど多くのプレミアムコンテンツをリニア(従来のテレビ放送)、デジタル、ストリーミングなど、あらゆる形態で視聴し、複数のプラットフォームを行き来しながら暮らしている」
そして、「このような現実を反映し、広告主が賢明な広告投資を行えるようにするためには、パートナーとして測定領域の能力を大幅に向上させる必要がある」としている。
加えて、「1つの“通貨(基準)”、1つの指標、そして1つの企業だけではすべてのコンテンツ視聴を捉えることはできない。完全に統一されたクロススクリーン測定を実現させるためには、多くの革新的な企業との取り組みが不可欠である」と明言する。
その課題について、NBCUの「測定フレームワーク・ルックブック」本編では、次のような整理がなされている。
消費の中心となる年齢(18~49歳)さえも超えて、非常に長い間、1つの通貨がテレビ広告ビジネスのエコシステムを独占してきた。しかし、数十年、毎年何十億ドルもの取引に使われてきた通貨が今、変わろうとしている。問題は、どのような基準に変わっていくのかである。必要なのは、まず「オーディエンス測定」であり、これは広告主、メディア、業界団体にとってもっとも緊急性の高いニーズである。
通貨とはテレビCMの広告枠などを取引する「基準」を指し、国内では視聴率を基にしたGRP(延べ視聴率)がそれに当たる。連載第1回では、この基準がニールセンのデータ不備をきっかけに、大きく変わり始めたことをお伝えした。
次世代の視聴測定の確立に3つの課題
その変革は、オーディエンス測定から始まり、「エンゲージメント(視聴質)」や「エクスペリエンス(視聴体験)」へとつながっていくことになる。そこで基準の再定義に向けて、代替となるデータを保有する8測定事業者を通貨の候補として検証・評価し始めている。その際、次の3つの重要な課題が存在する。
1つ目は「同一性」、つまりIDである。測定の未来は、最適化への鍵となるIDという強固な基盤の上に成り立つ。なぜなら、多くのメディアや広告主がファースト・パーティー・データを収集するようになり、そのデータの価値はいかに有効活用できるかで決まるからである。そこで問題となるのは、どのようなIDフレームワークが使用され、相互接続性を持つかである。
IDに蓄積されるデータの精度はこの相互接続性に依存する。既に、何十億ドルもの投資に相当する既存の「IDグラフ(複数のID間の連携)」が存在し、これらがすべてのソリューションの軸となる可能性を持つ。新たなソリューションもこの既存のIDグラフに接続できなければ、価値を失うことになる。
IDはそれ自体が大きな競争力であり、測定事業者に対して相互接続性を有することが求められる。広告主にとって価値があるのは、相互接続可能なパートナーシップに積極的で、かつ大規模な測定事業者である。より高い効率性で無駄を省き、最終的な投資収益率を実証できるかにかかっている。
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