
文系マーケターやマーケティングに興味のあるビジネスパーソンが、“これだけは知っておきたい”基本的な統計用語を解説する本特集。今回のテーマは「仮説検定」と「p値」。検定とはどんな手法か、p値が示すものは何か、なぜマーケティング関連の論文で頻繁に登場するのか、どのように使うのかなどについて、法政大学経営学部の西川英彦教授による“超初心者レベル”の講義で学ぶ。
立てた仮説を検証する“優れモノ”の統計手法
――前回、西川先生から「覚悟しておくように」と言われたので楽しみにしていました。今回のテーマは「仮説検定」です。
西川英彦教授(以下、西川) 正式名称は「仮説検定」あるいは「統計的仮説検定」ですが、略して「検定」と呼ぶことも多いですね。それくらいマーケティング分析において、一般的な統計的手法といえるでしょう。この仮説検定には「χ2(カイ二乗)検定」「t検定」「F検定」など、さまざまなタイプがあります。
――「検定」と言われても、思いつくのは漢字検定や英語検定くらいです。回帰分析や因子分析など、何かを「分析」するのはまだイメージしやすいですが、統計学の検定とは、いったい何をしているのでしょうか。
西川 仮説検定は、実務や研究課題を解決するために立てた仮説を、調査や実験のデータを用いて「検証する」ための統計的手法です。
――つまり、自分が立てた「仮説の正しさを証明する」ために使うのですね。
西川 一般の人はそう思うでしょう。しかし、「正しさを証明する」という言葉はここでは使えません。先ほどと別の言い方で説明するなら、「調査や実験の結果のデータを確率的に検証して、立てた仮説が支持されること」を目的として行うのが仮説検定です。
- 仮説検定は「実務や研究課題を解決するために立てた仮説が支持されるか」を、調査や実験のデータを用いて確率的に検証する統計的手法
――「確率的に検証」ということは、何かの確率を計算するわけですね。
西川 「仮説の正しさが証明された」と言えば「仮説は100%正しい」という意味になります。しかし、検定は確率を使った統計的手法なので「正しい確率が高い」とは言えても「100%正しい」と断定できません。ですから「仮説が支持された」としか言えないのです。
――100%ではないから「仮説の正しさが証明された」とは言えない。少し回りくどいですが「実験すると、立てた仮説が正しいとする確率がすごく高かった。従って、この仮説は“ほぼ正しい”と考えられる」という意味で、「支持された」となるわけですね。
西川 惜しい。
――惜しい?
西川 統計的な手法では、直接的に「その仮説が正しい確率は非常に高い」と検証するのがとても難しいのです。
――ええっ? どうして、そんなに難しいのですか。
西川 例えば、ある商品のパッケージをリニューアルした際に、「デザイン変更の効果があった」と言っていいのかと考えていたとします。そこで、変更前後のデザインには、人気の差があるのか、ないのかを調べることにしました。その場合、仮説はどう立てますか。
――「変更前後のデザインには、人気の差がある」でしょうか。
西川 そうなりますね。しかし、繰り返しになりますが、その仮説の正しさを直接的に検証するのは非常に難しい。
――なぜですか。
西川 一口に「差がある」と言っても、「非常に大きな差がある」から「ごくわずかな差がある」まで、同じ「差がある」でも程度は無限にあります。
――確かにそうですね。
西川 そうなると、もし「差がある」ことを直接的に検証しようとすれば、差の大きさの違いに合わせて、1つひとつを裏付けるために、無数の例を集めなければならないことになります。
――それは現実的には無理ですね……。
西川 では、逆ならどうですか。
――逆?
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