文系マーケターのための統計入門 第2回

前回、統計的な知識によって、企業が持つさまざまなデータをマーケティングの実務に生かせることが分かった。今回も引き続き、法政大学経営学部の西川英彦教授と早稲田大学ビジネススクールの及川直彦客員教授に、難解な統計用語を理解することの意義や、ビジネスシーンで統計的手法を役立てる方法について解説してもらった。

マーケティングにおける統計の知識の重要性を強調する、法政大学経営学部の西川英彦教授(写真右)と、早稲田大学ビジネススクールの及川直彦客員教授(同左)
マーケティングにおける統計の知識の重要性を強調する、法政大学経営学部の西川英彦教授(写真右)と、早稲田大学ビジネススクールの及川直彦客員教授(同左)
▼前編はこちら データを集める企業 「統計的手法」を使わないのは宝の持ち腐れ

誤差か意味のある差か、そこが重要

及川直彦客員教授(以下、及川) マーケティング論文によく出てくる統計用語の中で、実務家にとっても大きな意義があると思うものの1つが「統計的有意」です。私が指導するビジネススクールの生徒の中にも、「統計的に優れている」という意味の「優位」と勘違いする人もいますが、この場合は「統計的に意味がある」ことを指します。

――連載「マーケティング研究のフロンティア」でも、取り上げた論文の中に「有意」という言葉が何度も出てきました。「統計的に意味がある」ということは、そんなに大事なことなんでしょうか。

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西川英彦教授(以下、西川) それが、論文の結論の根拠となっているから大事なのです。

及川 例えば、ある2つの対象を比較して、実験結果のデータを棒グラフで表現したとします。グラフの高いほうが良い結果だとして、2つのグラフを眺めたとき、高さに違いがあったら「少しでも高いほうが良い結果になった」と思いますよね。

 実際の実験では、対象となる全てについて調べるのは不可能なので、一部をサンプルとして抜き出して実験しています。あくまでも“ごく一部の人”をサンプルとして選んで、その人たちに対して実験を行うわけですから、サンプルには必ず「誤差」が生じます。

――誤差?

及川 平たく言えば「個人差」。もしかしたら、棒グラフが高くなったほうのサンプルに、たまたま「結果が高く出やすい人」が集まっていたかもしれない。つまり、2つの棒グラフの差が「誤差の範囲」なのか、あるいは2つの対象の条件の違いによる「意味のある差」なのかを確かめる必要があるのです。

――しかし、2つの実験結果の間に出た差が、偶然による個人差の偏りなのか、2つの条件の違いによるものかは、どのように判別するんですか。

及川 それを調べるために使われるのが「t検定」であり、その検定結果が「p値」なんです。

――それは非常に大切なことだと思いますが、広告などに掲載されている「2つの棒グラフの比較」のデータで「p値」を見た記憶などありません。

及川 そうでしょうね。私が見てきた、いわゆる実証的な見せ方の比較広告でも、グラフにp値が添えられていた事例は数えるほどしかありませんでした。これまでビジネスの世界では「実験結果のグラフが高いか、低いか」程度のレベルでしか語られてこなかったのです。

――それはちょっと残念な話ですね。

西川 しかし、近年はビジネスの調査でも、レベルの高いマーケティング・リサーチが求められる傾向が出始めていますよ。

終始楽しそうに統計について語る西川教授と及川客員教授
終始楽しそうに統計について語る西川教授と及川客員教授

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――グラフが高いか低いかではなく、その差が偶然か統計的有意かまで確かめるようになれば、ビジネスの現場における意思決定も格段に精度が向上しそうです。ただ、連載でも「t検定」や「p値」の計算方法までは詳しく解説していません。かなり複雑で難解な計算式なのでしょうね。

西川 専門的な教育を受けていない人にとっては、少しハードルが高いかもしれません。

――だからこそ近年は「データアナリスト」の需要が高まっているわけですね。多少かじったくらいでは複雑な計算式は解けないため、実務の現場では統計的手法を使った分析は困難だと……。

及川 複雑な計算式を解く必要はありませんよ。

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