文系マーケターのための統計入門 第1回

マーケティング調査の詳細なデータ分析を読み解く際、避けては通れないのが「統計」の知識だ。しかし、数式や記号、グラフ、統計用語などを前に尻込みする人も多いだろう。本特集では連載「マーケティング研究のフロンティア」でもおなじみの法政大学経営学部の西川英彦教授に、文系マーケターを対象として「これだけは知っておきたい」統計の知識と用語を可能な限りかみ砕いて解説してもらう。具体的な解説に移る前に、なぜ今、実務において統計の知識が大切なのかについて西川教授と、同じく連載の監修を務める早稲田大学ビジネススクールの及川直彦客員教授に2回にわたって話してもらった。

マーケティングの実務家であっても、これからは統計の知識が重要だと話す法政大学経営学部の西川英彦教授(写真左)と、早稲田大学ビジネススクールの及川直彦客員教授(同右)
マーケティングの実務家であっても、これからは統計の知識が重要だと話す法政大学経営学部の西川英彦教授(写真左)と、早稲田大学ビジネススクールの及川直彦客員教授(同右)

論文を読めば科学的アプローチの基礎が身につく

――正直に打ち明けると、マーケティング論文を読み解く連載「マーケティング研究のフロンティア」で執筆者の先生方に取材するたび、くじけそうになります。「t検定により」とか「p値が」といった耳慣れない用語が出てきて、つい腰が引けてしまうのです。研究者はともかく、マーケティングの実務家にとって「仮説、実験、統計的手法によるデータの分析」という結論に至るまでのプロセスや、難解な統計用語を理解することにメリットはあるのでしょうか。

西川英彦教授(以下、西川) もちろん、メリットはあります。

――どんなメリットがあるのですか。

及川直彦客員教授(以下、及川) マーケティング論文で「仮説から結論に至るまでの思考のプロセス」を読み続けていけば、「統計的手法でデータを分析して問題を解決する方法」の基礎を学ぶことができます。そうすれば、例えば営業の実務に携わっている人であれば、営業成績を伸ばすためにはどうすればいいのか、その方法を自分で分析することも可能です。

――そんなことができるのですか。

西川 例えばクライアントへの訪問回数や電話をかけた回数、問い合わせから返答までの時間、経験年数など、いろいろな要因を点数化、つまり数値化して、営業成績と合わせて分析すれば、「どう行動すれば営業成績を上げられるのか」が分かります。これは営業に限らず、経理部門や管理部門の効率化を図る場合も、ミスの要因と発生回数を分析すると、「こうすれば現場のミスを減らせる」という可能性を導き出すことができるようになるでしょう。

 実際に詳細な分析をマーケターが個人で行うかどうかは別として、論文に目を通すなど、その科学的アプローチの基礎を身につけることができれば、何らかの改善につながるデータが社内にある場合、自分で考えて分析しようという意識が持てるようになる。そうなれば、仕事に対する姿勢もずいぶん変わるし、チーム力のアップにもつながるのではないかと思います。

西川 英彦(にしかわ ひでひこ)氏
法政大学 経営学部 教授
神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(商学)。ワールド、ムジ・ネット取締役、立命館大学経営学部准教授・教授を経て、2010年から現職。法政大学大学院経営学研究科長、日本マーケティング学会副会長、マーケティングジャーナル編集委員長、複数社の社外取締役などを歴任。主な著書に、『1からのデジタル・マーケティング』碩学舎(共編著、日本マーケティング本大賞2019大賞受賞)、『1からの商品企画』碩学舎(共編著)、『ネット・リテラシー:ソーシャルメディア利用の規定因』白桃書房(共著)、“The Value of Marketing Crowdsourced New Products as Such: Evidence from Two Randomized Field Experiments” (共著、Journal of Marketing Research、54(4))など。日経産業新聞にてコラム「西川英彦の目」を連載中。専門は、デジタル・マーケティング、ユーザー・イノベーション

――確かに、数字が苦手な文系マーケターが個人で詳細に分析するのは大変かもしれませんが、企業が自社のデータを統計的手法で分析すれば、大きなメリットが得られそうですね。近年は「データ主義」や「データドリブン」といった言葉がはやり、「数字しか見ない」「数字がすべて」と明言する経営者やマネジャーも増えていますが、実態はどうでしょう。

及川 さすがに小売業界ではデータ重視の方向で進んできている気がします。一方、メーカー系の企業は悩んでいる印象です。“エンドの顧客”との接点から取得できるデータがないことも一因ではないでしょうか。

――少なくとも小売や店舗系の企業はエンドの顧客データを持っているため、仮説を立て、それを統計的手法で検証することが可能なわけですね。

西川 自社で収集したデータを分析している企業はたくさんありますが、中には「因果関係を特定していない」分析も多いように見受けられます。それぞれに因果関係を特定できれば、現時点で収集したデータでもさまざまな分析ができると思うのですが、そこはあまりなされていないようなので、もったいないと思います。

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