
アクセンチュアで培った精度の高いフレームワークを土台に、転職先のディー・エヌ・エー(DeNA)やメルカリといった、大手ネット企業のスピード感に合わせて作業工程を柔軟に変更する。そんな柔と剛が同居する考え方でフレームワークを進化させ、日清食品ホールディングスのDX(デジタルトランスフォーメーション)をけん引するのがCIO グループ情報責任者の成田敏博氏だ。社内にシステム開発の文化を根付かせ、既に350を超えるサービスやアプリを開発した。
「資料を何十枚も作成して社内を物理的に回覧されていく書類を、クラウド上に置いてパソコンからいつでもだれでも確認できる状態に変わった。その結果、平均20営業日ほどだった決裁完了までの所要日数が約5分の1に減るなどの効果が出ている」
日清食品ホールディングス CIOの成田敏博氏はこう明かす。例えば、総務部門は、紙やはんこ文化を無くすため、決裁文書の電子化システムや承認アプリを独自に開発した。成田氏が先頭に立ち、日清食品グループで生み出した業務効率化向けのシステムやアプリは全社で350超に上るという。
成田氏が日清食品へと転じたのは2019年のこと。それからわずか3年で、日清食品のDX(デジタルトランスフォーメーション)を急速に推し進めた。その下地となっているのが、大学卒業後に最初の就職先として選んだアクセンチュアでの経験だ。
「アクセンチュアで学んだフレームワークは、ステージごとに掘り下げる観点を変え、全体としての完成度を上げていくもの。ここから省ける工程は省略し、ゴールを急ぐ仕組みでプロジェクトを管理している」と成田氏。こうした柔軟で独自性のあるフレームワークは、アクセンチュアで学んだ知見を生かし、成田氏がその後のキャリアで磨きあげたもの。日清食品グループのDXの旗振り役としてプロジェクトの推進を任されている。
成田氏のキャリアチェンジは大胆そのもの。1999年にアクセンチュアに新卒で入社し、2011年まで主に官公庁に対して業務システムの導入・運用、業務改革のコンサルティングを担当した。その後、DeNAやメルカリといったネット企業のIT部門のマネジメントを歴任し、19年に日清食品ホールディングスに転身した。コンサルからネット企業、そして食品メーカーという、畑違いの道を進んできた。
ネット企業を経て、老舗食品メーカーを選んだのは、経営トップ自らがDXをリードしていたためだ。以下のビジュアルは19年、安藤徳隆COO(最高執行責任者)が社内向けに発した強いメッセージだ。
食品会社であっても、デジタル化で生産効率を上げなければ生き残れない。そんな危機感を「DIGITIZE YOUR ARMS デジタルを武装せよ」という言葉に詰め込んだ。「IT戦略は、経営戦略から降ろしたものにほかならない。このビジュアルを見て、IT化を後押ししてくれる環境だと理解した」(成田氏)
アクセンチュアの方法論を事業会社で生かす方法
数々のIT現場を見てきた成田氏だが、日清食品グループの第一印象は、「思ったよりもIT化が進んでいた」だった。入社時点で、オフィス向けチャットツール「Microsoft Teams」が導入され、新型コロナウイルス禍前だったにもかかわらず、従業員でのコミュニケーションにチャットやビデオ会議が活用されていた。システムの多くがクラウドサービスに置き換わるなど、テレワークがしやすい環境が整いつつあった。一方で、紙やはんこを伴う業務も根強く残っており、これらを解消すべく改革に動きだした。
プロジェクトのベースは、アクセンチュアで学んだ「BIM(ビジネス・インテグレーション・メソドロジー)」というフレームワークだ。組織に大きな変革を起こし、それを継続する方法を、「計画」「運用」「管理」「継続」の4つのフェーズで分類し、方法論として確立したものだ。
「自分が経験していなくても、類するプロジェクトからフレームワークを持ってくると、どんなステップで何をすれば成功するのかが分かるようになっている。あるタスクを実行した場合、リスクが上がるかどうか判断がしやすい。先人の経験が方法論化しているのはアクセンチュアの強みだった。あそこまで汎用性がある方法論として共有されている企業はそう多くはない」(成田氏)
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