
2022年8月15日、化粧品クチコミサイト「@cosme」を運営するアイスタイルが米アマゾン・ドット・コムと業務資本提携を結び、大きな話題を呼んだ。同社の設立は1999年7月。アイスタイルの吉松徹郎社長は、新卒で入社したアクセンチュア在籍時代にNTTドコモの携帯電話ネットサービス「i-mode(iモード)」の登場受け、「世の中の仕組みが変わる」と肌で感じたという。その年に、3年勤めたアクセンチュアを退職し、起業した。ITの力で化粧品業界に革命を起こした寵児(ちょうじ)は、アクセンチュアの経験を起業にどう生かしたのか。
アイスタイルの主要事業が、@cosmeだ。@cosmeは、国内外の4万2000ブランド、登録商品数37万点(2022年8月時点)のデータベースと口コミ検索機能、新製品情報などのコンテンツを備えた美容の総合サイト。月間1650万人(同)が利用する。
「起業家になりたかったわけじゃない」という吉松氏はなぜ、インターネット黎明(れいめい)期の1999年に、未経験だった化粧品業界にてネットビジネスで起業を試みたのだろうか。そこに、3年という短い期間ではあるがアクセンチュア時代の経験が生きている。
代表取締役社長 兼 CEO(最高経営責任者)
同期にボーナスを全額出資 ネット業界との出合い
吉松氏が、アクセンチュアに入社したのは96年のことだ。「自分が一番成長できる場所に行きたかった。外資系でかつハードワークできるところとして、アクセンチュアを始めさまざまなコンサルティング会社を受け、内定が出たアクセンチュアに入社した」と吉松氏は言う。
アクセンチュア入社後、吉松氏はローカル・ガバメント(地方政府)に配属された。学校法人、県庁などを対象にシステム導入や、当時はまだ紙で管理されることが多かった情報をデータベース化することで、ネットワークを通じて管理しやすくする業務などを3年間担当した。
そんな吉松氏に転機が訪れたのが、99年だ。当時、NTTドコモがiモードを開始したことを受け、「これからインターネットで世の中の仕組みが変わる」と、吉松氏は肌で感じたという。
吉松氏の中では確信めいたものがあったものの、顧客企業を含めいくら周囲に説明しても、ぴんとこない。そうした状況にもどかしさを感じている最中、アクセンチュア時代の同期で、既に退職し、ネットベンチャーに転職していたある人物から1通のメールを受け取る。
その人物とは、ベンチャーキャピタリスト、East Ventures(イーストベンチャーズ、東京・港)の松山大河氏だ。松山氏はアクセンチュアを早々に退職し、学生時代にアルバイトをしていたインターネットベンチャーに戻っていた。そんな松山氏から退職半年後に、「自分が所属しているベンチャーに出資してほしい」と連絡があったのだ。
当時の吉松氏は、「よく分からないけれど、ちょうどボーナスが入ったから全額あげるよ」と気軽に出資を決めた。これが、吉松氏がネット業界と関わりを持つきっかけになった。
出資者となった吉松氏がその後、「マンションの一室で行われていた株主総会」を訪れると、そこには、現メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎氏や、グリー代表取締役会長兼社長の田中良和氏など、現在の国内ネットサービスを率いる錚々(そうそう)たる顔ぶれが集結していた。さらに時を同じくして、共にコンサルティング会社への就職活動を戦った仲間が続々とネットベンチャーへの転職を決め始めていた。
こうして次々にネット業界での人脈が広がっていく中で、吉松氏は、彼らとともにさまざまなドメインの取得を始める。その1つに、@cosmeのドメインとして使用している「cosme.net」があった。「cosme」でドメインを取得した理由は、アイスタイル創業メンバーの1人、山田メユミ氏が化粧品メーカーに在籍していたからだ。結果として、これが後の@cosme立ち上げに寄与する。
@cosmeのビジネスモデルを思い付いたのは、ECサイト「Amazon.com」との出合いがきっかけだ。吉松氏はコンサル業務で顧客企業に価値提案するため、さまざまな事業モデルを研究していた。その中で日本にAmazon.comが上陸することを知った吉松氏は、同社を徹底分析した。
当時Amazonの主力商品だった書籍は、日本では出版社が書籍や雑誌の定価を決め、書店などで定価販売ができる再販制度で守られているため、出版社が価格決定権を持ち、小売店は勝手に安売りできないと知り興味を持った。実は化粧品もその当時、再販制度で守られていた。そのため新興企業であっても価格競争に陥らずにサービスで勝負できる商材と考え、Amazonと同様にビジネスチャンスがあると感じたのだという。
こうして化粧品を事業領域に選んだわけだが、吉松氏は創業以来「アイスタイルが何をしたいかではなく、化粧品業界に足りないことを1つずつ実現してきた。そのため、業界全体を良くするためにはどうすればいいのかと、ひたすらコンサルティングをしてきたと思っている。この『業界全体の最適化を目指す』という考え方は、まさにアクセンチュアで学んだことだ」と言う。
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