気候変動対策領域で事業を開発するには、どうすればいいのか。コストがかかると悩んでばかりの企業に向けて、米シリコンバレーを拠点に、日系企業のコンサルティングを手掛けるデロイト トーマツ ベンチャーサポート取締役COOの木村将之氏が事業構想から実現までのポイントを伝える新連載。第1回は、米ウーバー・テクノロジーズが手掛ける新サービスを例に、日本企業の課題と今後の着眼点を提示する。
米シリコンバレーで気候変動対策に関連する新規事業開発の関心が高まったのは、2018年ごろだ。大手のエネルギー系企業のシリコンバレー進出が相次ぎ、筆者にも多くの相談が寄せられるようになった。取り組みが加速度的に進展したのが、20年の大統領選の時期である。石炭政策を推し進めたとされるトランプ政権に対して、バイデン政権が8年で2兆3000億ドルの気候変動対策予算をコミットした選挙で勝利するかもしれない公算が大きくなった時期に、政府関係者、大企業の役員の関心が急速に高まったのを今でも鮮明に覚えている。
環境対応にコスト問題
「気候変動対応はビジネスになるのか?」
デロイト トーマツ ベンチャーサポートでは、気候変動対策領域の事業開発を手掛けている。特に私の駐在するシリコンバレーでは、気候変動対策ビジネスにおいて、先駆的な取り組みを続ける企業が多い。ここ数年は、こうした事例を共有しながら日本国内のスタートアップ、大企業の新規事業開発担当者とディスカッションをする機会が増えてきた。その際に必ずといってよいほど受けるのがこの質問だ。
気候変動対応では、企業には守りと攻めの2つの選択肢がある。守りの気候変動対応は、主に自社の既存事業から排出するCO2の排出量を減らす方法で、攻めは、主にカーボンフリーな新商品を開発したり、他社が気候変動対応するのを推進したりする事業を展開する方法だ。
新たにカーボンフリーな商品開発をする場合、一般的に通常よりも多額の研究開発費が必要となり、商品化のコストがかかる。そのため、多くの企業から「環境対応ってコストがかかるだけですよね。本当にユーザーは追加でお金を払ってくれるのでしょうか?」と聞かれることになる。
実際に21年から22年にかけて21カ国の大手企業経営者(CEO、CFOなどの上級役員クラス)と政府・公共機関の上級職2083人(日本からの回答は106人)に実施した調査(グラフ1)がある。ここでは、気候変動対応、サステナビリティーの取り組みを進める上で障壁となる理由のトップに「コストが高すぎる」が挙げられた。
このように商品開発のコストに頭を悩ませる企業だが、同時に7割以上の企業が消費者らステークホルダーからの強い圧力を感じている(グラフ2)。自社が取り組むべき課題と理解しながら、どのような行動を起こせばよいか悩んでいるのが実情だ。
機会よりリスクと捉えがちな日本企業
課題は、コストを気にする企業側だけではない。76カ国の約1万人を対象にした15年の「World Wide Views on Climate and Energy 2015」の調査データ(グラフ3)によると、グローバルにおいては気候変動対策を「生活の質を改善するチャンス」と捉えているのに対して、日本では「生活の質が低下する危機」と捉えている。
加えて、12カ国を対象にした21年の調査(グラフ4)結果を見てほしい。日本は環境税などのコスト負担を許容できる人の割合が中国などを下回る8位となった。また、今の生活を守るか、次世代につなぐかという問いでは、「今の生活を守る」という回答が他国より多い結果となっている。環境に対するコスト負担を許容しにくく、将来よりも今の生活に意識が向いていることが分かる。
ここで米国の数値を見ると、環境税などコスト負担の許容度は日本よりもさらに5ポイント低い。だが、次世代につなぐ意識は、日本よりも約10ポイントプラスの48.2%で「次世代につなぐためにできることをしている」という。コスト負担の許容度が低いにもかかわらず、日本よりも環境を配慮した行動ができている理由は何か。
例として、米国のウーバー・テクノロジーズが始めた環境配慮型の新しいサービスを紹介したい。試行錯誤の末、利用者が増えたケースだ。
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