
「クッキー規制」が本格化する中で、自社の顧客データを深掘りして有効活用することが企業のマーケティング課題となっている。ただ、データの収集・活用が目的化し、その先にあるはずの新しい顧客体験がおろそかになるケースも少なくない。今、企業は自社の顧客データとどのように向き合うべきなのか。
「ルイ・ヴィトン」「ディオール」「フェンディ」などの高級ブランドを擁するLVMHグループの化粧品専門店「Sephora(セフォラ)」は、会員IDを軸とした自社の顧客データの活用で成長を遂げている好事例だ。
同社はリアル店舗とECサイト、アプリを1つの会員IDでつなげ、新たな顧客体験を提供している。まず、リアル店舗で「Sephora Color IQ」というAI(人工知能)を活用した計測システムを使って顧客の肌の色合いをキャプチャーし、それを会員IDにひも付ける。このデータを使用し、1万以上の肌の色調データセットを備えた独自のアルゴリズムで最適な製品の候補を複数選び出す。
これにより、次回以降はECサイトやアプリでも、自分の肌の色などに応じた商品が適切にリコメンドされるようになる。顧客にとっては膨大な商品情報に埋もれることなく、自分に似合う色の商品や欲しい(と思うであろう)商品が、すぐに見つかる状態だ。
しかも、オンラインだけではなく、リアル店舗でも同じ体験価値を提供している。アプリでは来店を検知すると店舗用モード(コンパニオンモード)に切り替わり、店舗の在庫情報と連係したうえでパーソナライズ情報が届くようになる。いちいちスタッフに聞かなくても、アプリを開けば店頭で自分の好みに合った商品を探せるというわけだ。
また、SephoraのECサイトでは、購入商品に加えて、その人が好みそうな商品のサンプルを同梱(どうこん)している。これまでの実績からおおよそどのくらいの期間で消費するかを判断し、サンプルが終わるタイミングを見計らってフルサイズの商品をメールで案内する。最初からフルサイズの商品を選んだ人へ再購入を促す案内も、同じロジックだ。こうした顧客の行動に即してパーソナライズしたメールを出すことで、開封率は劇的に高まっているという。
顧客の「属性データ」はもういらない?
日本でも、こうした顧客データを活用してパーソナライズされたマーケティングを目指す企業は珍しくない。だが、多くは部門ごとに導入しているマーケツールが異なることなどにより、データが「サイロ化(部門間の連携が取れていない)」し、十分に生かし切れていないのが実情だろう。
これを解決しようと、店舗やECサイト、アプリなどに点在する自社の顧客データを集約し、一人ひとりの趣味趣向に合わせたパーソナライズ化を実現しやすくする「CDP(カスタマーデータプラットフォーム)」を導入する企業が増えている。
しかし、苦労してCDPを導入しても、「そもそも『どんな購入体験を届けたいか』というデータ活用のイメージが最初にないならば、“宝の持ち腐れ”になりかねない。闇雲にデータを集めると、結局、膨大なデータに溺れてしまうことになる」と、Sephoraを支援する米アドビの日本法人で、デジタルエクスペリエンス事業本部ソリューションコンサルティング部マネージャー兼エバンジェリストを務める安西敬介氏は話す。
Sephoraの例でいうなら、自社の顧客データを「宝の山」に変えるためのポイントは3つある。
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