文具・雑貨 最新ヒット商品の裏側 第10回

タイガー魔法瓶(大阪府門真市)初の炭酸飲料対応の保冷専用ボトル「真空断熱炭酸ボトル」の売れ行きが好調だ。目指したのは、新しいライフスタイルの創出。ボトルは欧米市場を意識してデザインしたという。

サイズは4種類。写真左から0.5リットル、0.8リットル、1.2リットル、1.5リットル。タイガー魔法瓶公式通販サイトでは、0.5リットルが6000円(税込み、以下同)、0.8リットルが6500円、1.2リットルが7000円、1.5リットルが7500円で販売している
サイズは4種類。写真左から0.5リットル、0.8リットル、1.2リットル、1.5リットル。タイガー魔法瓶公式通販サイトでは、0.5リットルが6000円(税込み、以下同)、0.8リットルが6500円、1.2リットルが7000円、1.5リットルが7500円で販売している

 タイガー魔法瓶は2022年1月に発売した「真空断熱炭酸ボトル」の国内での年間出荷数10万本の目標を、発売からわずか3カ月で達成し、すでに約16万本出荷している(7月20日時点)。海外市場での展開は開発当初から計画しており、中国や台湾、香港をはじめ、米国や欧州各国からも引き合いがきているという。タイガー魔法瓶の真空断熱ボトルブランドマネージャー南村紀史氏は、「アジアでは以前から真空断熱ボトルを販売してきたが、米国や欧州ではあまり展開できていなかった。真空断熱炭酸ボトルの販売を機に、欧米での販路を広げていきたい」と意気込む。

 従来の保冷ボトルに炭酸飲料を入れると、ボトル内の圧力が上昇し、場合によってはキャップや栓などが破損する恐れがある。そのため、タイガー魔法瓶では、保冷ボトルに炭酸飲料を入れることは禁止事項で、開発もしていなかった。だが、近年は無糖の強炭酸水市場が伸長し続けており、炭酸飲料対応ボトルの要望も少なくなかった。

 同社は、23年に100周年を迎える。それに伴い、社内では、数年前から次の100年に向けた「NEXT100」というスローガンを掲げ、既成概念にとらわれない製品開発に挑戦する機運が高まっていたという。「これまで安全面への懸念から踏み込んでいなかった炭酸飲料対応ボトルに着目し、19年から研究開発に取り組んだ」(南村氏)

炊飯器の技術を応用

 課題は、ボトル内で気化した炭酸ガスを安全に抜くことだった。ただ、炭酸ガスが抜けすぎると、炭酸飲料のおいしさは損なわれてしまう。そこで開発したのが、「炭酸ガス抜き機構」と「安全弁」の2つの機構が備わった、「Bubble Logic(バブルロジック)」と呼ぶ栓だ。

 タイガー魔法瓶の真空断熱炭酸ボトルは、栓のキャップ内側のねじ部分に縦のスリットが2カ所入っている。これが「炭酸ガス抜き機構」だ。キャップを回すと、ボトル内の炭酸ガスがスリットから抜けていく。その後に、完全にキャップが開くので、中身が吹きこぼれず、軽い力で開けられる。「この機構は、炭酸飲料のペットボトルの飲み口部分を参考にした」(南村氏)

キャップの内側のねじ部分に2つ縦のスリットが入っている。キャップを回すとスリットから炭酸ガスが抜けるため、安全に開栓できる
キャップの内側のねじ部分に2つ縦のスリットが入っている。キャップを回すとスリットから炭酸ガスが抜けるため、安全に開栓できる

 開発で時間がかかったのは、もう1つの機構の「安全弁」だったという。ボトルの栓の内側にある、小さな丸い突起が安全弁だ。万が一、ボトル内部の圧力が異常に高まったときのみ、安全弁が一瞬だけ押されて炭酸ガスを外に逃がすように設計されている。そして、必要以上に炭酸が抜けないように、真夏の車内に放置されて炭酸飲料の温度が著しく上昇するなど、万が一の設定値は高めにしているという。

 安全弁の構造は、同社のロングセラー商品「圧力IHジャー炊飯器 炊きたて」の安全装置を参考に開発した。「ただ、炭酸飲料の圧力は、炊飯器の圧力とは比べものにならないほど高い。飲料メーカー各社が販売する強炭酸を基準にしつつ、家庭に普及しているソーダ水を作る機器の炭酸の強さも把握しながら開発した」(南村氏)

ボトル内の圧力が異常に高まったとき、炭酸ガスが自動的に抜ける「安全弁」を開発した。小さな丸い突起が安全弁。タイガー魔法瓶の圧力IH炊飯器を参考にした
ボトル内の圧力が異常に高まったとき、炭酸ガスが自動的に抜ける「安全弁」を開発した。小さな丸い突起が安全弁。タイガー魔法瓶の圧力IH炊飯器を参考にした

 安全弁が作動する“万が一”のときの基準を高めに設定すると、作動するまでに本体やキャップなどのパーツで異常が起きる可能性もある。「パッキンの形状や位置、ねじの山谷の深さなど、既存品で試験をパスしたものではクリアできず、一つひとつ見直した」(南村氏)

 ボトル内部は、既存の真空断熱ボトルでも採用している「スーパークリーンPlus加工」を施している。「汚れや臭いを付きにくくする表面加工は、ステンレス製のボトルを開発してから長年磨いてきた技術。実験を重ねていく中で、凹凸が少ない滑らかな表面加工は、炭酸の気化を抑える効果があることも分かり、技術の横展開ができた」(南村氏)

ビールの持ち運びにも

 仕事中に炭酸水を飲んだり、アウトドアやピクニック、スポーツ観戦などに行くとき、ビールやスパークリングワインなどのアルコール類を持参したりする。そんな新たなライフスタイルの創出も目指している。

 色は、カッパー、エメラルド、スチールの3色展開だ。カッパーはアルコールの貯蔵タンク、エメラルドはヨーロッパの炭酸水の瓶の色をイメージした。ボトルの表面は、ラメ入りでザラッとした質感にした。視覚や触覚からも、炭酸飲料を想起させたいと考えたという。サイズは4種類で、0.5リットル、0.8リットルに加え、1.2リットル、1.5リットルという大型のボトルもラインアップ。米国ではクラフトビールのテークアウトが一般的で、1.9リットル以上の大型ボトルも普及している。そんな海外市場で存在感を出していくために、真空断熱炭酸ボトルは、太めのストラップや、ガスバルブのような形状のキャップなど、従来のボトルよりも頑丈そうな印象を目指した。

 ボトルデザインの検証は何度も行った。最終的に栓やキャップは、つかみやすさや安定感も考慮して、下から上に向かってほんのわずかに大きくなるデザインにした。22年4月からは、ストラップや底に付けるラバーなどの色を選べるカスタムボトルも販売している。こちらの売れ行きも好調だという。

最終のデザインを決定する前の2案。A案は、栓とキャップに下から上に向かって広がっていく傾斜を付けて、シャープな印象にしたもの
最終のデザインを決定する前の2案。A案は、栓とキャップに下から上に向かって広がっていく傾斜を付けて、シャープな印象にしたもの
B案は、全体に丸みを持たせて、カジュアルな印象にしたもの
B案は、全体に丸みを持たせて、カジュアルな印象にしたもの
最終的にはA案に決まった
最終的にはA案に決まった

(画像提供/タイガー魔法瓶)

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