
サンスター文具(東京・台東)が2022年6月に発売した「metacil(メタシル)」は芯まで金属でできた鉛筆。芯を削ることなく約16キロメートルも書き続けられ、金属なのに消しゴムで消すこともできる。そんな特徴がSNS(交流サイト)で話題を呼び、当初想定の5倍以上の受注が舞い込んだ。
少子化に加え、さまざまな分野で業務のデジタル化が着実に進むなど、文具メーカーを巡る市場環境は厳しい。新型コロナウイルス禍による学校の休校措置、リモートワークの広がりによるオフィス需要の落ち込み、インバウンド(訪日外国人客)の需要激減などがさらに追い打ちをかけ、2020年度の国内文具・事務用品市場規模は、前年度比8.2%減の4077億円(矢野経済研究所調べ)となった。
ところが、そんな厳しい環境下にあっても、常にヒット商品が現れるのが文具業界だ。また、雑貨分野に目を向けても、メーカーの創意工夫によってさまざまなヒット商品が生まれている。
そこに隠れているのは、絶え間なく変化する消費者のニーズを的確につかみ、プロダクト(製品)として実現するための数々のヒントだ。最新のヒット文具を筆頭に、ユニークな雑貨の開発事情を深掘りしながら、次の時代の消費者ニーズを読み解くのが今回の特集の狙いである。まずは、ほんの数カ月前にSNS上で大きな話題となった文具を取り上げる。
鉛筆はプラスチックを使わないため、シャープペンシルやボールペンと比べると環境に優しい筆記具だ。だが大人になると、鉛筆を使う機会は圧倒的に減る。その背景には「削るのが面倒」「自分が書いた文字がこすれて手や紙が汚れる」などの欠点があるからだ。そんな欠点を克服した“鉛筆”が22年6月末に登場した。サンスター文具の「メタシル」だ。メタシルはその名前からも分かる通り、芯まで金属でできたメタルペンシルである。
古くて新しいメタルペンシル
メタルペンシル自体は、特に新しいものではない。意外にも歴史は長く、ルネサンス時代まで遡る。メタシルが登場する前にも、欧州を中心にメタルペンシルを作るメーカーはあった。ただ、デザイン性には優れているが、日常的に使いやすいとは言えないものが多かったという。
メタシルを開発したサンスター文具クリエイティブ本部イノベーション部の大杉祐太氏も10年以上前に、おしゃれな雑貨店で見かけたことでメタルペンシルの存在を知り、関心を持ったという。だがそのときに見たメタルペンシルは半永久的に書けるというメリットはあるものの、筆跡が非常に薄く、価格も高い。しかも筆記時の摩擦により金属粉を紙に付着させる仕組みなので、文字を消しゴムで消すことはできない。だがこれらの課題さえ解決すれば、「完成形と思われている鉛筆の新しい形が提案できる」と考え、21年の夏ごろから大杉氏はメタルペンシルの試作にとりかかった。
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