メンズストリートブランドを中心に、複数のD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)ブランドを展開するアパレル企業yutori(ユトリ、東京・世田谷)。創業5年目の2022年時点で18ブランドを展開し、SNS総フォロワーは約260万人、年商は30億円を見込む。20年7月にはファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOとの資本業務提携を発表。23年までの新規株式公開(IPO)を目標として、猛スピードで成長している。なぜyutoriは若者から絶大な支持を集めているのか。代表で28歳の片石貴展氏に、「Z世代のヒットメーカー」こと今瀧健登氏が話を聞いた。また、Z世代をはじめとした若者にとって、魅力的な組織になるための思考についても迫る。
今瀧健登氏(以下、今瀧) D2Cブランドが数ある中で、yutoriはトップランナーとして業績を伸ばしています。D2Cブランドとしての成功ノウハウを教えてください。そもそも、なぜ一点突破ではなく複数のブランドを展開しているのですか。
片石貴展氏(以下、片石) ブランドを複数持っているのは、「ブランド本来のサイズに合わせてブランドをコントロールする」ことを大切にしているからです。例えば経営都合などでブランド本来の規模より大きくしなければならないと、ブランドを薄めてターゲットじゃない人にも商品を届けないといけなくなる。それでは本当に届けたい人に届くブランドではなくなってしまいます。だからブランドを濃くつくって、その濃さを維持できるような規模で展開したい。
あと、そもそも1つのブランドだけでめちゃくちゃ売るのって、今の時代無理だと感じます。だからメンズストリートファッションなど自分たちの得意な分野で、一つ一つのブランドの規模は小さくても市場を独占して大きくなっていく、そういう戦略でやっています。
今瀧 僕は以前メンズコスメ事業をやろうとしたことあります。何でかというと、メンズコスメのブランドが少なかったから。ないから自分でつくる、というのはかつてに比べるとやりやすい世の中ですが、特化したブランドが存在しないのは、例えば市場が狭いとか、何かしらの理由があるはずなんです。そこをカバーするためにブランド数を増やしていくのは、すごくきれいなビジネスモデルだと感じます。いかにマスの市場を深く重く取るかというマーケティング思想と反対ですね。
売り方や商品のつくり方など、ブランドごとに戦略は変えていますか。
片石 例えば2022年7月に買収したA.Z.Rというアパレル企業は、社員全員がZ世代インフルエンサーで1人1つブランドを持っています。そこはリアルで売るのがめちゃくちゃ得意。なのでyutoriに入ってからも、店舗での販売に力を入れています。今までyutoriはネットの動向をすごく細かく観察して、トレンド性もクオリティーも高い商品をそこそこ手に取りやすい値段で出すという、仕掛け人的な手法でヒット商品を生んできました。一方で、A.Z.Rはブランドをやっている社員自身がインフルエンサーなので、社員に憧れるファンが店舗に来ることで消費が生まれる。そのブランドの何が価値になっているかを考えて、戦術を分けています。
でも、古着から着想を得て商品を出すというリバイバルの考えと、ブランドにストーリー性を持たせることは、どのブランドを展開するうえでも会社として大切にしています。価値観やこういうものを提案したいという主張を、ブランドにのせて具現化していくんです。
今瀧 商品での差別化が難しくなっているからこそ、そういった共感性のマーケティングや「ストーリーマーケティング」が、最近は求められているのかなと感じます。この潮流には、どのような背景があると思いますか。
片石 確かにブランドにストーリー性を持たせることは必要だと思うけど、ストーリーで物を買う人はいないと思うんですよ。服のような消費財は特に。ローンチしたばかりのブランドだと多少ストーリーを見るかもしれないけど、単純に物がいいかとか、自分の欲しいムードに合っているかでしか選んでいないと思います。
ブランドができた背景とか伝えたいことは、にじみ出るものなんです。だって変じゃない? お店に行って商品を見ているときに、いちいち制作の背景とかを説明されたら。ネット上でも同じことのような気がします。なので、わざわざストーリーをブランド側から語ることはしません。そもそも何かに満足していないから物をつくっているわけで、つくり手の鬱憤や不満、葛藤を昇華させたものが商品です。だからストーリーが大事なのは今に始まったことではなく、当たり前のことだと思ってます。
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