今や音楽を聴く手段としてメインとなったストリーミングサービス。以前、取り上げたストリーミングサービスSpotifyのアーティスト別月間リスナーランキングでは、国内で立て続けにヒットを飛ばすアーティストに加え、海外でアニソンを担当するアーティストの名前が目立った(記事「Spotify月間リスナー数ランキング 藤井風、Adoを抑えての1位は?」参照)。では、昭和アイドルとしてデビューした女性歌手に限定するとどうなるだろうか。現在の国内ヒットの常連でもなく、海外のアニソン人気にもほとんど依存していない彼女たちの人気から何が見えてくるだろうか(ここでは、演歌歌手やシンガーソングライターを除き、1970年代以降にデビューした女性歌手を対象とした)。

昭和女性アイドル限定 Spotify 月間リスナー数 1位~10位
[画像のクリックで拡大表示]

 1位と2位は、80年代女性アイドルの2トップとも言える松田聖子と中森明菜。当時のレコード売り上げではかなり接戦となっている2人だが、聖子には「瑠璃色の地球」「抱いて…」といったアルバム用の楽曲や「SWEET MEMORIES」「制服」など当初シングルB面として発表された楽曲にも人気曲が多いこと、さらに近年のジャズ・アルバムのリスナーも含まれることで1位となった。

 ただ、明菜のほうも2022年がデビュー40周年ということもあり、各メディアでの特集や復刻アルバムが大きな反響を呼び、「DESIRE-情熱-」「少女A」「十戒(1984)」などアップテンポの楽曲を中心にストリーミングで大きく伸びている。これで年末のNHK紅白歌合戦での復帰などがあれば、一気にリスナーが広がることだろう。

 3位は、その明菜と同じく今年デビュー40周年となる小泉今日子。聖子と明菜の二大巨頭にはないサブカルとの親和性の高さや、「あなたに会えてよかった」「優しい雨」など出演したドラマ主題歌の歌唱に加え、近年はSpotifyのポッドキャスト番組も複数担当するなどヒット要因が多い。

 4位は今年ソロ・デビュー35周年となる工藤静香。80年代アイドルで唯一12年連続オリコンシングルトップ10入りを達成しているのに加え、楽曲を多数提供されている中島みゆきのカバーアルバムを2作出していることも人気の要因だろう。中島は、Spotify未配信ゆえ、彼女の楽曲は人気のカバーで聴くことになるからだ。

菊池桃子のリスナーは約3分の2が海外

 5位には、「セーラー服と機関銃」「探偵物語」など主演映画のヒット曲も多い薬師丸ひろ子が入った。興味深いのは、当時セールス的に5番手だった「Woman“Wの悲劇”より」がストリーミングではトップとなっていること。作詞を手がけた松本隆も、作曲を手がけた呉田軽穂こと松任谷由実も、自身の代表作に挙げるほど、薬師丸の崇高な歌唱が光るバラードで、まさに記憶の名曲と言えるだろう。

 7位のWinkと8位の菊池桃子は、ランキングに入った他の人たちと比べると、ヒット期間や活動期間自体は短いのだが、ストリーミングではかなりの人気。Winkは「愛が止まらない~Turn It Into Love」「Sexy Music」などの海外のカバー曲が多いこと、菊池桃子はシティポップブームの中心的作家でもある林哲司がまる4年間全シングル・全アルバムの楽曲を手がけていることで、それぞれ海外リスナーからの支持が強いことが上位の要因だ。Spotifyによると、なんと桃子リスナーの約3分の2が海外からとなっており、この比率はかなり高い。なお、2組とも韓国人の人気DJ、Night Tempoがダンサブルなリミックス音源を多数手がけていることも人気に拍車をかけていると思われる。

 そして、9位には2017年に、ビルボードジャパンの週間チャートでも総合2位となった「ダンシング・ヒーロー」の荻野目洋子がランクイン。彼女の場合は、懐メロとしてではなく、今の流行歌手として聴いている若い世代も多いのだろう。

代表曲に縛られないストリーミング

昭和女性アイドル限定 Spotify 月間リスナー数 11位~35位
[画像のクリックで拡大表示]

 伝説の歌姫、11位の山口百恵をはさんで、10位に姉の岩崎宏美、12位の妹の岩崎良美がランクイン。これは山口百恵が低いのではなく、姉・宏美は不朽の名曲「聖母たちのララバイ」に加え、「ロマンス」「シンデレラ・ハネムーン」など昭和ポップスファンの多くがリスペクトする筒美京平の楽曲を非常に多く歌っていること、妹・良美はカラオケのド定番「タッチ」に加え、海外でも人気の尾崎亜美や林哲司の提供作が多いことが上位入りにつながった形だ。

 つまり、一般的な人気のイメージが1曲に集中している歌手でも、実は数多くの楽曲に人気が広がっているのがストリーミングの大きな特徴で、やはり気軽に大量の楽曲が聴けるというメリットあってのことだろう。同様の理由で、26位の石川ひとみや27位の畑中葉子も、自身の圧倒的な代表作(石川は「まちぶせ」、畑中は平尾昌晃とのデュエット曲「カナダからの手紙」)だけではなく、数多くのカバー曲や注目の作家が提供していた隠れ名曲も人気となっていることが、ランキング入りにつながっている。

 なお、35位までの歌手のストリーミング最大人気曲も表に示したが、35組中17組(オレンジ色の枠)が、レコードやCDによって当時最も売り上げ枚数の多かったシングルとは一致しないものとなっている。例えば、1位の聖子「赤いスイートピー」は当時のシングル売り上げ11番目、2位の明菜「DESIRE-情熱-」は売り上げ9番目だ。この2人に関しては、現在の我々が「代表曲」と感じている曲に近いかもしれないが、8位の菊池桃子はアルバム曲「Mystical Composer」が、13位の原田知世は竹内まりやのカバー曲「September」が、ストリーミングで最大の人気曲となっている。今後、こうした海外リスナーのトレンドが国内に逆輸入される可能性も大きい。

 このように、ストリーミングによって、より幅広い世代や、より幅広い地域で昭和アイドルポップスから新たなヒット曲が出続けていることがよく分かる。