インド映画史上最大の製作費7200万ドル(約97億円)をかけ、全世界で興行収入1億6000万ドル(約220億円)を超える大ヒットとなった『RRR(アールアールアール)』が10月21日から日本公開される。上映館数は200館以上とインド映画としては異例の規模で、映画館側の期待の高さが表れた。というのも、『RRR』が世界的に大ヒットしているだけではなく、監督が『バーフバリ』シリーズのS.S.ラージャマウリだからだ。今回の映画についてラージャマウリ監督に話を聞いた。
『バーフバリ』シリーズは、古代インドを舞台に英雄バーフバリの壮絶な人生と復讐(ふくしゅう)劇を親子2代にわたって描いた作品。日本で2017年4月に第1部『バーフバリ 伝説誕生』、17年12月に完結編『バーフバリ 王の凱旋』が公開さると、バーフバリの超人的な強さや親子2代の熱い物語が熱狂的なファンを生み出した。『王の凱旋』は18年4月を過ぎてもロングラン上映され、4月下旬には監督やプロデューサーが来日。日本のファンの熱狂ぶりに驚いたという。『RRR』にも熱いファンが集まり、リピーターも期待されることから、上映館数が多くなったようだ。
『RRR』の舞台は1920年、反英独立運動の炎が各地で燃え上がっていたイギリス植民地時代のインド。大英帝国インド総督に連れ去られた部族の少女を救うため、ビームは南インドの森からデリーにやってくる。一方、ある大志を持って総督指揮下のインド人警察官となっていたラーマは、少女を救いにデリーにやってきているという人物を生け捕りにする特別捜査官へ立候補する。やがて2人はお互いの素性を知らないまま出会い、親友となる。
本作の主人公コムラム・ビーム(1900または1901~1940)とA.ラーマ・ラージュ(1897または1898~1924)は実在の人物で、どちらもインドの独立運動の英雄。しかし、実際には2人は出会うことはなかった。本作は「2人がもし出会ったら?」という発想から誕生したフィクションだ。
「2人は同じ頃に生まれ、20代はじめに生まれ育った場所を離れ、3~4年後に戻ってから地元の人たちと共に独立運動で戦いました。もし2人が空白の期間に会い、友人になり、触発される間柄だったらどうなるか。実在の2人の空白期間の点と点をつないでフィクションとして作ったのです」(ラージャマウリ監督、以下同)
ビームを演じるNTR Jr.、ラーマを演じるラーム・チャランはテルグ語(インドの公用語の1つ)映画界のトップスターであり、ラージャマウリ監督作への出演経験もある。2人を起用した理由は2つあるという。「1つは人柄。NTR Jr.は顔から純粋さが伝わってきて、自分の強さを自覚していないような無垢(むく)な感じを受けます。一方のラームは、神秘的な悲しみをたたえた目をしており、悲しみを出すのではなく、感じさせてくれるのです。私が受ける2人の印象が主人公2人のキャラクターに合致しました。2つめは、2人が友人同士であること。通常、人気スター2人をキャスティングするとエゴが衝突し、実に大変です。でも、あまり知られていませんが、私は2人が友人であることを私は知っていました。それがキャスティングを決定する上での助けになりました」
監督と主演2人の名前にあるRを3つ重ねた『RRR』を仮題として企画がスタート。しかし、この仮題がファンの間で好評を博したため、そのまま本タイトルとなった。英語では蜂起(Rise)、咆哮(ほうこう、Roar)、反乱(Revolt)の頭文字を取って『RRR』となっているが、テルグ語、タミル語、カンナダ語、マラヤーラム語では、怒り、戦争、血を意味するRの入ったそれぞれの単語が、RRRのサブタイトルとして付けられている。
人間離れしたアクションシーンが続出
映画の冒頭、ビームは森の中で虎と格闘する一方、ラーマは警察署を襲ってきた群衆を相手に1人で鎮圧する。その後も、鉄橋で燃料運搬列車が爆発事故を起こし、巻き込まれた少年を2人で救出するなど、人間離れした力を見せるアクションシーンが数多く登場する。『バーフバリ』シリーズでも見せた、ラージャマウリ監督の十八番の描写だ。
「私がヒーローに『こうあってほしい』という姿を投影しています。身体的にとても強くて回復も早い。けれども、人間の感情もある。虎と戦うほど強いビームであっても、誘拐された幼い女の子のことを考えるとつらくて泣いてしまう。このコントラストが重要だと思います」
原案を手掛けるのはラージャマウリ監督の父であり脚本家兼監督として活動するV.ヴィジャエーンドラ・プラサード、音楽はいとこのM.M.キーラヴァーニ、衣装デザイナーは監督の妻ラーマ・ラージャマウリなど、主要スタッフは監督の家族や親戚が多い。気心の知れた一族で監督が腕を振るっているようだ。
「実は私はあまり友人がいないんです(笑)。人生の多くの時間は家族が周りにいて、それ以外の時間はストーリーテリングや映画のことに費やしています。家族がいなかったら、私の周りには誰もいない環境なんです。父といとこは私より先に映画の世界に入っていました。兄の息子はサウンドスーパーバイザー、私の息子はプロダクションに入り、みんなを(映画界に)引き込んでいる感じです」
製作費はインド映画史上最高の7200万ドル(約97億円)。日本映画では製作費が10億円を超える大作は少なく、例えば東映が70周年作品として製作する『THE LEGEND & BUTTERFLY』(23年1月27日)が総事業費(製作費+宣伝費)20億円の超大作と発表。記者会見で東映の手塚治社長は「稟議(りんぎ)書に判をつくとき、少し手が震えた(笑)」とコメントしている。
「インドでも大きな予算ですが、私の過去作品の成功に基づいた金額だと思います。インドで成功すれば、回収できない額ではありません」
『バーフバリ』シリーズを大ヒットさせた実績のあるラージャマウリ監督だからこそ、『RRR』に巨額の資金を投入できたといえそうだ。
全米興行ランキングで初登場3位に
『RRR』はアメリカでインドと同じ3月25日から公開され、週末興行ランキングで初登場3位。総興行収入1100万ドル(約16億円)をあげ、外国映画がヒットしづらいアメリカで異例のヒットとなった。監督にヒットの理由を尋ねると、笑いながら「なんでしょうねぇ」という言葉が返ってきた。
「ここ数週間、何度も聞かれている質問ですが、実のところ分かりません。もともと私は映画を作るときにインド人の感性に訴えるものであり、かつアジア全域を考えます。『バーフバリ』が日本で受け入れられたのも、そういうところなのかなと分かるのです。一方でこれまで西洋人の感性はアジアとは違うものだと思っていました。私の作品はかなり大仰で、やりすぎ、行き過ぎな感じがあると思うんですが(笑)、今回はアメリカでもそれが喜ばれたのではないかと。もうしばらくすると、(アメリカでヒットした)理由を説明できるときが来るかもしれません」