イノベーションとは技術革新そのものではなく、「新しい価値によって顧客の行動を変えること」であると、第1回で再定義した。では、顧客の行動は何によって変わるのか。今回は「技術革新」「社会構造」「心理変化」という顧客の行動変容を起こす3つの要因を基に、「イノベーションのトライアングル」として構造化。住宅のシェアリングサービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」がイノベーターなれた理由を解説する。「インベンター(発明者)」にとどまらず、「イノベーター(革新者)」になる条件を学ぼう。
顧客の行動を変化させる要因の1つとして、「技術革新」が挙げられるのは確かである。例えば、内燃式エンジンが生み出されたことによって我々は現代に至る自動車を手に入れ、社会全体で移動における行動が大きく変わった。通信技術もしかりで、古くは電話の発明は人々のコミュニケーションにおける行動を大きく変えた。
また1990年代後半から始まったインターネットの普及は、いまや我々の生活がそれ無くしては成り立たないくらいに人々のあらゆる生活行動を変えてしまっている。さらにメタバース(仮想空間)やドローン、ロボットや自動運転といった次の革新もすべてその上に立って生まれていることは言うまでもない。
しかし、既に述べたとおり、それでもなお技術革新だけで人々の行動が変わるわけではない。上記のようなエンジンやインターネットといった革新的な技術ですら、それらが「顧客の行動を変える」に至るまでに、他の要因が影響している。では他にどのような要因があるのか。この疑問に対する答えとして、本稿では技術革新を含めた3つの要因で成り立つ「イノベーションのトランアイングル」をまずは以下に示す。
このトライアングルに基づくと、顧客の行動が変わる2つ目の要因は、「社会構造」である。社会構造とは、企業の背景にある社会や業界単位の変化を意味している。人口動態や法規制など、社会や業界全体の構造変化が対象になる。世界的には人口増加による食糧危機や気候変動による災害の増加、今の日本で言えば高齢化による労働人口の減少などが分かりやすい。直近で言えば新型コロナウイルス感染症の拡大によって移動人口が大きく減ったことは、交通業界や旅行業界にとって危機的な社会構造の変化だった。
Airbnbは「社会構造」の変化が成長要因
思考実験として、住宅のシェアリングサービスAirbnbを取り上げてみよう。同サービスは創業者のブライアン・チェスキー氏とジョー・ゲビア氏が、米サンフランシスコで借りていたアパートの家賃が払えず、ロフトのエアベッドを朝食付きで貸し出したのが始まりといわれている。
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