パーソナライズという概念は、もはやさまざまな日常生活の中に当たり前のように取り入れられている。テクノロジーも進化し、高度なパーソナライズを実現することは、必ずしも困難なことではなくなった。とはいえ、現実にパーソナライズを展開していくには、技術的なハードルはもちろん、IT投資に対する考え方など、越えていかなくてはならないさまざまな要因がある。パーソナライズを「難しくてコストのかかる施策」と捉えるのではなく、「コミュニケーションの指針」と考えることで、顧客とのタッチポイントでどのような対策を取らなくてはならないかが見えてくる。連載最終回では、パーソナライズの概念を改めて見つめ直し、顧客とのタッチポイントのあり方について考えていく。
パーソナライズはコミュニケーションの手段
今や「パーソナライズ」という用語は当たり前のようにビジネスシーンやさまざまなサービスで聞かれるようになった。一人ひとりの目的や健康状態に合わせてトレーナーがコーチするパーソナライズジムがあちこちにあるし、ニュースサイトは過去の閲覧履歴を基にユーザーの特性に合わせてニュースの優先度を変えて表示する。パーソナライズはもはや生活の中に当たり前に存在しているのだ。
パーソナライズという言葉がここまで浸透する以前、マーケティング分野では「One to One」という言葉も盛んに使われていた。Webサイトに協調フィルタリング技術が実装され始めた頃だ。協調フィルタリングとは、興味嗜好が類似する複数のユーザーのデータを基に、行動や嗜好傾向を類推する技術のことで、例えば「Aという商品を買ったユーザーはBという商品も購入しています」などのように、Webサイトのリコメンド機能のベースとなっている。
人間の店員なら、Aという商品を買った消費者全員に「これを買った人はBも購入していますよ」と勧めることはないだろう。「Bがあるとより便利ですよ」「もしBがないとこういう不都合があるかもしれません」という提案はするかもしれないが、既にBを保有していたり、類似製品を持っていたりする場合には薦めない。
なぜWebサイトがAの購入者全員に一律にBを勧めてしまうのかというと、Webサイトは人間同士のようにきめ細かい会話ができないからだ。Webサイトができるのは、そのユーザーの行動を基に類似ユーザー同士でセグメント化し、そのセグメントではどのような行動パターンが多いのかを分析してその結果を提示するだけだ。
現在はテクノロジーが進み、Webサイトに限らずCRM(顧客関係管理、Customer Relationship Management)、購買履歴、店舗の履歴、コールセンターへの問い合わせ履歴、メールの開封率やクリック動向、SNSの行動などまで、あらゆるチャネルからリアルタイムに情報を収集し、それらのデータを1人の顧客軸にひも付けて分析することができるようになった。個人の行動パターンや嗜好をより詳しく把握することが可能になり、きめ細かい対応ができるようになったといってよい。これがパーソナライズだ。
以上の経緯を考えると、パーソナライズはテクノロジーというより、むしろコミュニケーションのあり方を企業に問い直す概念といえる。パーソナライズというと、高度なテクノロジーを駆使して苦労して実現するものと考えがちだが、むしろ「一人ひとりの顧客としっかりコミュニケーションを取れているか」という観点で、コミュニケーションを設計し直す「指針」と捉えたほうが分かりやすい。
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