2022年7月4日発売の「日経トレンディ2022年8月号」 ▼Amazonで購入する では、創刊35周年を記念し、「家電、文房具、日用品オールタイムベスト」を特集。ボールペンの歴史は、そのままインクの進化の歴史だ。第3のインクとして登場した「ゲルインクタイプ」、書いた字が消せる「フリクションボール」など、数十年に一度起きるかどうかの技術革新が立て続けに起こった。

※日経トレンディ2022年8月号より。詳しくは本誌参照

35年間に、数十年に一度起きるかどうかのインクの技術革新がたびたび起こった
35年間に、数十年に一度起きるかどうかのインクの技術革新がたびたび起こった

 ボールペンの歴史は、そのままインクの進化の歴史だ。現在、国内で最も使われているゲルインクタイプは、1980年代、長らく定番だった油性タイプと水性タイプに加わるかたちで第3のインクとして登場。ゲルインクは水性の一種だが、油性の特徴も備え、力を入れずにくっきりした文字を書けるため使い勝手がいい。そのため、「ハイブリッド」(ぺんてる、89年発売)や「ハイテックC」(パイロット、現パイロットコーポレーション。94年発売)がヒットするなどして広く普及した。

 数十年に一度起きるかどうかの技術革新は、2000年代に入ってからも立て続けに起きた。1つ目のインク革命が、06年に登場した「ジェットストリーム」(三菱鉛筆)だ。当時の一般的な油性ボールペンは、インクの粘度が高いため書き味が重く、それなりの筆圧が必要だった。しかしジェットストリームは粘度が低く、書き味は従来と一線を画した滑らかさ。これが利用者に受けてヒットした。

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 そして翌07年、今度はゲルインクの世界でインク革命が起きた。ボールペンで書いた字は消せない。誰もが疑わなかったこの常識を、パイロットコーポレーションの「フリクションボール」が、摩擦熱で消すという新発想で覆したのだ。ボールペンをこれまで以上に気軽に使えるようになり、利用シーンが拡大。同社は10年にノック式の「フリクションボールノック」も製品化し、同シリーズの売れ行きに弾みをつけた。市場に与えたインパクトは絶大で、水性インク分野の成長をけん引。13年度に油性と水性のシェアが逆転する大きな原動力となり、ゲルインクを含む水性タイプ優勢のまま現在に至る。

 近年は、こうしたインクの新開発がひと段落し、極細タイプの製品化が活発だ。一般的なボールペンはペン先のボール径が0.5〜0.7ミリメートルであるのに対して、0.3ミリメートルクラスの製品が盛り上がりを見せている。ただ、この極細タイプは以前からあった。筆記用具に詳しい納富廉邦氏によれば、「日本人は手帳やノートの限られたスペースに画数が多い漢字を書くため、小さくても字をきれいに書ける細字を好む傾向がもともと強い」という。

 メーカーが極細タイプの開発に力をさらに入れるのは、ボールペン利用者の使い方に変化が起きているためだ。新型コロナウイルス感染症の拡大がきっかけとなって、仕事場所が多様化。手帳は、出先の手狭なスペースや移動中でも使いやすい小型タイプが人気だ。そして、きれいに書き込んでSNSに投稿する新しい楽しみ方や、ノート術の根強い人気も後押しする。

 ゲルインクの分野では、21年11月、ゼブラの「サラサ」シリーズに「サラサナノ」(ボール径0.3ミリメートル)が加わった。一方、油性インクでは三菱鉛筆が世界初となる同0.28ミリメートルの「ジェットスリーム エッジ」を19年に発売している。

ボールペン・万年筆の最新トレンド

ゲルも油性も「より細い字を書けるか」が焦点

【ボールペンKeyword 1】極細タイプ/0.3ミリメートルクラスが主戦場に

 通常0.5〜0.7ミリメートルのボール径を短くした新製品が増えている。「ジェットストリーム エッジ」は油性インクで世界最小ボール(径0.28ミリメートル)の開発に成功。ペン先(チップ)も絞り、書きやすくした。ゲルインクの「サラサナノ」はボール径0.3ミリメートル。32色展開で、極細字の多様な使われ方に対応する。

「ジェットストリーム エッジ」の新開発のポイントチップ(左)。既存のチップ(右)
「ジェットストリーム エッジ」の新開発のポイントチップ(左)。既存のチップ(右)
ゲルインクの「サラサナノ」
ゲルインクの「サラサナノ」
【ボールペンKeyword 2】持ちやすさ/グリップや重心で決める

 握りやすいかどうかは、売り場で必ず確認したい。「学生向けと違って、大人向けはデザインがシンプルなグリップ無しが人気だ」(納富氏)。21年9月には、グリップが無く、重心を低くした「ユニボール ワンF」を三菱鉛筆が発売している。

三菱鉛筆の「ユニボール ワンF」
三菱鉛筆の「ユニボール ワンF」
【ボールペンKeyword 3】色味/6種類の黒色を選べる時代に

 1つの色をベースに、微妙な違いを使い分けられる製品が登場。サクラクレパスの「ボールサインiD」(20年12月発売)と、ぺんてるの「エナージェル ブラックカラーズコレクション」(21年10月発売、数量限定)は、どちらも色味の違う6種類の黒インクを展開する。

サクラクレパスの「ボールサインiD」
サクラクレパスの「ボールサインiD」
【万年筆Keyword 1】低価格/1000円台でも信頼感あり

 1000円台からと手ごろな価格帯の選択肢が増えた。製品化するのはいずれも定評のある万年筆メーカーなので、入門層も安心して買いやすい。写真はデザインが比較的シンプルなパイロットコーポレーションの「ライティブ」。

パイロットコーポレーションの「ライティブ」
パイロットコーポレーションの「ライティブ」
【万年筆Keyword 2】字幅/手帳使いは細いペン先が向く

 ペン先の太さは、「F(細字)」など名称から受ける印象よりも太い傾向にある。小さい字を書くなら、細いペン先を選ぼう。実際、「手帳派はEFやFを選ぶことが多い」(納富氏)。また、メーカーによってもペン先の太さは異なる。

ボールペンのボール径換算(目安)
ボールペンのボール径換算(目安)

ボールペン・万年筆 トレンド史

 「日経トレンディ」が産声を上げた1987年11月以降で、ボールペン・万年筆のトレンドの変遷を年表にまとめた。

1989年
・10月 水性と油性の特徴をいいとこ取りしたゲルインクを採用する「ハイブリッド」をぺんてるが発売

1991年
・11月 筆記時の疲れを軽減する「ドクターグリップ」をパイロット(当時)が発売

■ドクターグリップ
■ドクターグリップ
人間工学に基づき、体に負担を掛けない設計。「疲れにくい筆記具」というジャンルを確立

1996年
・8月 「ハイブリッドミルキー」をぺんてるが発売。乳濁色が受け、女子中高生の必需品に

■ハイブリッドミルキー
■ハイブリッドミルキー
「黒い紙や写真にも書けるボールペン」として大ヒット。販売本数は年間1億本を超えた

【分岐点】油性ながら滑らかなインクが利用者の心をつかむ

2006年
・7月 低粘度油性インクの「ジェットストリーム」を三菱鉛筆が発売

■ジェットストリーム
■ジェットストリーム
成熟していた油性ボールペン市場に風穴を開けた。「極めて滑らかな書き味」がコンセプト

【分岐点】「書いた字を消せる」という新ジャンルを確立

2007年
・3月 「フリクションボール」をパイロットコーポレーションが発売

■フリクションボール
■フリクションボール
筆跡をこすって消せるのが画期的。フリクションは英語「friction」(摩擦の意)に由来する

2010年
・5月 1000円クラスの万年筆「プレジール」をプラチナ万年筆が発売
・7月 ノック式の「フリクションボール ノック」(パイロットコーポレーション)が発売

■フリクションボール ノック
■フリクションボール ノック
07年発売のキャップ式に続いて、利便性の高いノック式が登場し、こちらもヒット

2013年
・10月 小学生向けの万年筆「カクノ」をパイロットコーポレーションが発売、大人にも売れる

■カクノ
■カクノ
「初めての万年筆」を意識して、使いやすい仕様に。大人も魅力を感じて買い求めた
 

2018年
・12月 筆記時の振動を制御する「ブレン」をゼブラが発売

【分岐点】ボール径0.28ミリメートルの極細・油性タイプ登場、手帳需要などに

2019年
・12月 「ジェットストリーム エッジ」(油性インク、ボール径0.28ミリメートル)を三菱鉛筆が発売

2021年
・12月 静音設計の「カルム」をぺんてるが発売

注)創刊35周年特別保存版 歴代ヒット&最新ベストは、「日経トレンディ」2022年8月号に掲載しています。日経クロストレンド有料会員の方は、電子版でご覧いただけます。
▼関連リンク 「日経トレンディ」(電子版)
「日経トレンディ2022年8月号」の主な内容を紹介
【いいものオールタイムベスト】
●家電&デジタル
テレビ/最新ミニLEDテレビを検証。ハイセンス格安機の実力は?
イヤホン/骨伝導 vs LinkBuds vs AirPods。最強「ながら聴き」決定戦
炊飯器/各社の最上位モデルでガチ比較。伏兵東芝が僅差で優位に
オーブンレンジ/鶏肉のグリルと揚げ物温めでは日立がトップクラス
コーヒーメーカー/注目のバルミューダはハンドドリップに匹敵した!
掃除機/ダイソンは、本当に吸引力と“軽さ”を兼ね備えているのか
●文具
筆記用具/0.3ミリメートル以下でオススメは? 油性・ゲルインクボールペン選手権
デジタル文房具/成功例が少ない中、「ブギーボード」が生き残っている理由
●日用品&雑貨
衣料用洗剤/大手3社の主力商品をテスト。汚れ落ちに違いはあるのか
掃除用品/ワイパークリーナー登場から28年。今最もきれいになるのは?
【D2C時代のパッケージデザイン大変革】
【ヒットを作る人】メタバースはマーケティングワードか!? ライゾマティクス 真鍋大度氏 インタビュー
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