第4回では回転すしチェーン「スシロー」を展開するあきんどスシローの「おとり広告」問題を例に、Strategy Partners(東京・港)代表取締役の西口一希氏が、広告宣伝をはじめとする「コミュニケーション」で生まれる、企業と生活者のギャップを防ぐ手段をお伝えした。今回は「サプライチェーン」がテーマだ。マーケティングの成功で品切れが起きたとき、マーケターはこれを誇るべきではないと西口氏はくぎを刺す。「単発集客のわな」から脱却し、集客を目的とした新商品や限定品をどう使うのが正しいのだろうか。

▼第4回はこちら スシローおとり広告の問題点 西口流「単発集客のわな」の回避策
西口一希氏
西口 一希 氏
Strategy Partners 代表取締役 兼 M-Force 共同創業者 兼 グロースX 社外取締役
1990年大阪大学経済学部卒業後、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)マーケティング本部に入社。「パンパース」「パンテーン」「プリングルズ」「ヴィダルサスーン」などのブランド担当。2006年ロート製薬入社。執行役員マーケティング本部長として60超のブランドを統括。ロクシタンジャポン代表取締役、スマートニュース執行役員マーケティング担当(日本・米国)を経て、M-Forceを創業。Strategy Partners代表取締役社長。グロースX社外取締役

――コミュニケーションによるギャップを防ぐ手段はよく理解できました。一方、サプライチェーンによるギャップ防止についてはいかがでしょうか。

西口一希(以下、西口) このギャップを防ぐのは非常に難しいです。どんな企業も100の需要に対して無駄な在庫をゼロにし、100の供給を目指す需要予測をしたいと考えます。ですが、それでも売れすぎて品切れすることは起こります。例えば、想定外にテレビで大々的に取り上げられたことで需要が想定の2倍になってしまった、といったケースです。

 理想は、どれだけ売れても品切れをしないように潤沢な在庫と即時の生産体制を用意することですが、多くの場合、財務的、物理的に困難です。なので、100の需要予測に対し、在庫リスクを勘案して80で構えることもあれば、120を用意して、需要を超えるかもしれない20は、最後は営業努力で売り切る意志を持つといった判断になるかもしれません。

 需要を100と予測しながら、在庫を10しか準備せずに集客するのは問題ですが、サプライチェーンのギャップ防止には、どれだけ需給予測を突き詰めても、不確定要素が多いので、理想的な答えはありません。

 時折、品切れすることをマーケティングの成功とする声を聞くことがありますが、それは誤りです。私も過去に商品が売れた際に、マーケティングの責任者として、「品切れが起こるぐらい売れてよかった」と言っていました。ですが、営業の役員からは「普段、顧客、顧客と言う割には、マーケティングの担当として、本当に顧客の気持ちを考えているのか」「(購入できずに)がっかりしたお客さまが簡単に明日戻ってくると思うのか」と、強い叱責(しっせき)を受けました。

 マーケティング責任者として、顧客不在も甚だしい恥ずかしい認識でした。それは、倫理観を越えた問題であり、企業の継続的な収益性を毀損する経営問題だと認識すべきだったのです。

 仮に想定の2倍の需要を生み出して品切れを起こしたとすれば、「100の喜び」の裏で、「100のがっかり」を生み出しているわけです。しっかり需給予測をして臨んだにもかかわらず、それでも品切れが起こったときは、広告活動を止め、謝罪文を掲載したり、場合によっては生産体制が整うまで商品の販売を停止したりするといった真摯(しんし)なコミュニケーションで、「100のがっかり」の顧客の信頼を完全に失わないことが重要です。

 新たに提案する新商品や限定品などは需要予測が難しいため、需要と供給が合わないことが起きやすい。新商品や限定品は、そのニュース性ゆえに、集客目的に使われがちです。しかし、その需給ギャップのリスクが大きいため、100の集客に成功しても、100のがっかりを生み出し、すぐには見えない深刻な顧客の離反を起こすことがあります。一方で、重要な事実は、継続的に販売されている定番品は、需要予測がより簡単であるということです。

 集客目的に何らかの施策を打つ場合は、集客数だけを見るのではなく、既存顧客の離反の大きさ、離反につながる心理と行動の変化を見ることが重要です。これらを同時に視野に入れて、その施策の是非を議論すべきです。次の図は、私の著書『顧客起点の経営』(日経BP)で紹介している「カスタマーダイナミクス(顧客動態)」のフレームワークですが、事業を左右する顧客の動きをすべて同時に把握するものです。

 この中で、集客とは、「(1)(3)の成長ルート」と「(2)の復帰ルート」です。一方で、離反につながる顧客の変化は「(4)失敗ルート」です。100のがっかりとは、この(4)の失敗ルートが大きくなり、時間をかけて、より多くのロイヤル顧客と一般顧客が離反していくことです。

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