連載第2回では「マーケティング」に対する誤解を、Strategy Partners(東京・港)代表取締役の西口一希氏が解説した。今回は、「ブランディング」の誤解を解いていく。最大の誤解は「ブランディングをすれば売り上げが上がる」という過剰な期待だ。ブランドとは、あくまで商品やサービスを競合や同類から区別し選ぶ識別子にすぎない。この認識を誤ったままブランディングに取り組むことが、無駄な投資を招く要因の1つになっている。

西口 一希 氏
Strategy Partners 代表取締役 兼 M-Force 共同創業者
1990年大阪大学経済学部卒業後、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)マーケティング本部に入社。「パンパース」「パンテーン」「プリングルズ」「ヴィダルサスーン」などのブランド担当。2006年ロート製薬入社。執行役員マーケティング本部長として60超のブランドを統括。ロクシタンジャポン代表取締役、スマートニュース執行役員マーケティング担当(日本・米国)を経て、M-Forceを創業。Strategy Partners代表取締役社長

――ブランディングに対する過剰な期待は、なぜ起こってしまったのでしょうか。

西口一希(以下、西口) 世の中のブランディングの成功例といわれるものは、結果として既に大きくなったブランドを見て、重要性を説いていることが大半です。例えば、ブランディングにまつわる書籍でも、「Apple」「コカ・コーラ」「SONY」「パタゴニア」「メルセデス」といった既にできあがったブランドを解説しているものが多い。

 ところが、そうした成功企業も創業時の変遷をたどると、ブランディングへの投資が先にあったわけではありません。独自性と高い便益を持った製品をつくり、何十年の歴史で積み上げた結果論でしかありません。

 独自性のあるロゴやネーミングで、最初から顧客が識別しやすくしていたという点においては大切です。ですが、本質的には製品で便益や独自性を積み上げて、顧客の満足度を高めたことが重要です。その結果として、「Apple」や「SONY」のロゴが消費者の目に特別に映るわけです。

 そのため、原因と結果の履き違えが起こっています。「iPhone」を例に取ると、iPhoneの登場時の広告は決して洗練されていたとは言い難いです。iPhone成功の最大要因は、プロダクトです。スティーブ・ジョブズは「iPodに携帯電話機能がついた」と最初は紹介しました。ですが、iPhoneが進化する過程で、アプリストアが開発され、第三者も巻き込み多様な利便性を提供したことで、パソコンを超えて普及しました。

 消費者はプロダクトやサービスを買っているのではなく、具体的な便益を買っています。ブランディングと呼ばれる表面的なデザインや広告表現だけでは継続的に購入してもらえる要因にはなりません。Appleですら、同じブランディングの下で数々の失敗を積み重ねています。

 機能的な便益が弱く消えていった、「Apple III」「Lisa」「Macintosh TV」「Newton」「Power Mac G4 Cube」といったApple製品をご存じでしょうか。すべて知っている方は少ないと思います。なぜなら、広く認知されることもなく、消えたからです。一方で、売れた商品やサービスは記憶に残り、多くの人に「ブランド」の成功と語られます。これが原因と結果の履き違えをますます加速させるのです。

――例えば、家電ブランドの「バルミューダ」はデザインの良さで売れている印象があります。そのような例はどのように捉えればいいでしょうか。

西口 ブランディングしたから売れたのではなくて、機能的な便益が十分担保された上で、クリエイティブの良さを付加的な便益にしたと捉えるべきでしょう。機能的にコモディティー化した白物家電や黒物家電は、デザイン性の高い商品が少なかった。そこで機能としてもエッジの立った便益を提供しながら、合わせて統一的で高いデザインの商品群を生み出しました。その見た目の統一性が識別されて、売れています。

 ここを見誤ると無駄な投資が増えます。過去にはやったCI(コーポレート・アイデンティティー)が最たる例です。かっこいい企業名に変更すれば、ブランド力が高まり、売れるのではないかという発想で、1990年代にはやりましたが、多くの企業が失敗しました。いや失敗したとは自ら公言せずとも、CIが財務結果に明確に貢献したケースはありません。

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