キャッシュレス決済は本当に普及するのか 第4回

キャッシュレス決済の普及が進むのはいいが、たまった硬貨をどうすればよいか──。こんな悩みを持つ消費者は、高齢者を中心に実は少なくない。これまでは銀行や郵便局に持ち込めばよかったが手数料が必要になった。そこで注目を浴びているのが、米コインスターが提供する硬貨“逆”両替機「コインスター・マシン」だ。西日本に店舗を展開するスーパーチェーンのイズミでの実例と合わせ、コインスターの持つ可能性と、キャッシュレス決済普及を後押しできるかを追った。

広島市にある大型複合商業施設「LECT(レクト)」内の食品スーパー「you me 食品館」近くに設置された米コインスターの逆“硬貨”両替機「コインスター・マシン」
広島市にある大型複合商業施設「LECT(レクト)」内の食品スーパー「you me 食品館」近くに設置された米コインスターの逆“硬貨”両替機「コインスター・マシン」

 大手を中心にスーパーが導入を進めるセルフレジ。実は導入した多くの店で、2022年に入ってある問題が生じているのをご存じだろうか。それはセルフレジに、店側が想定した以上の長蛇の列ができてしまうことだ。その大きな理由の1つが、セルフレジでの支払いの際、大量の硬貨を支払い口に投入して支払おうとするユーザーが後を絶たないことである。セルフレジが大量の硬貨を自動で数えるのには一定の時間がかかるし、場合によってはレジが目詰まりしてしまうことさえある。このため、セルフレジの前に想定以上の列ができてしまうというのだ。

銀行や郵便局が硬貨の両替を有料化

 日々の生活の中で消費者が現金による支払いを続ければ、財布やポケットの中にどうしても硬貨がたまっていく。これまでは、たまった大量の硬貨を銀行や郵便局(ゆうちょ銀行)などに持ち込めば、額面の大きな紙幣に両替してくれたり、自身の口座に入金してくれたりした。ところが、銀行や郵便局は、硬貨を両替する手間とコストを嫌って、一定枚数以上の硬貨の両替を徐々に「有料化」していった。

 例えばメガバンクのみずほ銀行の場合、両替のために窓口に持ち込む硬貨の枚数が100枚までは無料だが(ATMでも100枚まで無料)、101~300枚と301~500枚では550円、501~1000枚では1320円、以降500枚ごとに660円の両替手数料がかかる。そして22年1月17日には、それまで硬貨を何枚両替しても手数料無料だった郵便局も有料化に踏み切り、硬貨の両替を何枚でも無料で引き受ける大手金融機関は事実上、姿を消してしまった。この結果、たまった硬貨を両替しようと持ち込む場所に困った消費者が、これ幸いとスーパーのセルフレジに大量の硬貨を持ち込んでいるというのだ。

主な金融機関の硬貨両替手数料(窓口持ち込みの場合)
主な金融機関の硬貨両替手数料(窓口持ち込みの場合)

 こうしたスーパーの多くは、セルフレジの導入と並行して、クレジットカードに加えて電子マネーやQRコード決済など多様なキャッシュレス決済手段の導入とその普及に尽力している。キャッシュレス決済ならば、現金払いでは分からない顧客動向を把握できるし、店舗オペレーションも効率化しやすい。しかし、現在は過渡期であり、現金払いの来店客、つまり硬貨がたまってしまうユーザーは一定数、確実に存在する。スーパーとしては、セルフレジではない場で硬貨に対応し、ニーズのあるユーザーに店に足を運んでもらいながらキャッシュレス決済へ移行していくのが、店舗のオペレーション上もブランディング上も望ましい。

1円玉、10円玉の大量交換なら得になるコインスター

 そこで注目を浴びているのが、米国発の硬貨“逆”両替機「コインスター・マシン」だ。大型の自動販売機のような機械を小売店などの店内に設置し、その本体にユーザーが硬貨を投入すると、毎分600枚以上という高速で自動的に枚数と金額を計算し、手数料を差し引いた額を示して、設置店舗の商品・サービスの購入や紙幣などとの交換に使える「引換券」が発行される。ユーザーはこの引換券を持って売り場やレジに出向くか、指定の場所で紙幣と交換する仕組みだ。1回につき最大5万円まで投入できる。しかも設置した店舗は、コインスターの日本総代理店であるアーキスカイ(東京・台東)から、設置料も受け取れる(金額は非公表)。

コインスターのサービスの流れ(出所/アーキスカイ)
コインスターのサービスの流れ(出所/アーキスカイ)

 ユーザーが引換券を商品・サービスの購入に使った場合、引換券との差額(お釣り)は現金で受け取れる。紙幣への交換の場合は、設置店舗のサービスカウンターなどで対応。紙幣に換算できずに余ったお金は硬貨のまま戻ることになるが、交換前と比べればほんの少量で済む。引換券の利用方法は設置店や流通企業により異なり、紙幣との交換のみ、設置店舗での商品・サービスへの充当のみ、という店もあるという。

 コインスターの場合、両替手数料は投入した金額の9.9%。銀行や郵便局が枚数ベースで両替手数料を設定しているのに対し、金額ベースで手数料を設定しているため、1円や5円など低額の硬貨が多いほどユーザーには得になる。

 例えば、10円玉200枚(2000円)を両替する場合、郵便局の窓口に硬貨を持ち込んで口座に入れる際の手数料は825円なのに対し、コインスターの手数料は198円で済む。これが100円玉500枚(5万円)だと、手数料は郵便局で825円、コインスターで4950円とコインスターのほうが割高になる計算だ。硬貨の種類によって使い分ければ、コインスターを利用することで手数料を低く抑えられる。

 コインスターを国内全体で見た場合、「1台当たりの平均投入金額は 約8000円、平均投入硬貨数は約700枚になる」(コインスターの日本責任者、カントリーマネジャーである宇佐美航氏)という。この平均像にならって、1円玉で100枚、10円玉で580枚、50円玉で10枚、100円玉で15枚を投入したと仮定した場合、手数料は郵便局で1100円、コインスターで782円になる。

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