キャッシュレス決済は本当に普及するのか 第3回

世界でも日本でも市場が成長していることで、このところ注目されているBNPL(後払い決済)サービス。おかげで、日本では新規参入が相次ぐ一方、欧米では当局が規制をかける可能性が取り沙汰されている。BNPLが日本でキャッシュレス決済を普及させる突破口になり得るのか、検証した。

日本市場参入を発表するAtome(アトミ)のデイビッド・チェンCEO(最高経営責任者)
日本市場参入を発表するAtome(アトミ)のデイビッド・チェンCEO(最高経営責任者)
▼関連リンク 日経クロストレンドフォーラム2022

 「アジアで最も急成長しているBNPL(後払い決済)サービスが、10番目の国・地域として日本に進出する。ユーザーは追加の年会費や金利を負担せず、希望する決済手段で分割払いを選び、後払いで商品やサービスを購入できる。導入したEC(電子商取引)サイトやリアル小売店などの加盟店も、未回収のリスクは負わず、ユーザー1人当たりの購買金額の向上が見込める。みんながハッピーになるサービスを日本で定着させることを目指す」

 2022年7月6日、シンガポールに本社を置き、アジアでBNPLサービスを手広く展開するAtome(アトミ)のデイビッド・チェンCEO(最高経営責任者)は、日本市場への進出を発表した。同日付で日本でのサービスを本格的に開始している。

 Atomeは17年にシンガポールで創業され、19年からBNPLサービスをシンガポール、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、香港、台湾、中国で順次展開してきた。親会社はAdvance Intelligence Groupという複合企業だ。導入しているECサイトやリアル小売店などの加盟店の数はアジア全体で1万店以上。登録ユーザー数も同2700万人以上に達し、累計で3000万件を超える決済件数と30億ドル(約4050億円)以上の決済金額を扱ってきた。

Atomeユーザーの平均購買単価は30%向上

 ユーザーは、追加の負担なしで分割(回数は国によって異なる)での後払いを選べ、オンラインでもリアルでも、小売店が提示したQRコードを自分のスマートフォンにインストールしたAtomeアプリで読み込み、決済金額を入力することで決済できる。日本市場では、クレジットカードやデビットカードなどに加え、銀行口座引き落としやコンビニエンスストアでの現金払いといった日本で主流の決済手段にも対応する予定だ。与信については、金融機関向けに与信審査サービスを提供してきた親会社Advance Intelligence Groupが持つAI(人工知能)と、Atomeの顧客データを活用して審査する。

 また、できるだけ早い時期に、決済金額などに応じてポイントを付与するポイントプログラムを、ユーザー向けの「ロイヤルティープログラム」として始める計画だ。チェン氏は、「日本で始めるこのロイヤルティープログラムを、ユニバーサル通貨のごとくボーダーレスに各国で使えるように育てていきたい」と語る。

 加盟店は、Atomeを導入することで、ユーザーが分割払いを選んでも代金を一括払いで受け取れる。さらに代金未回収リスクはAtomeが負担しつつ、購買金額の向上が見込める。「Atomeユーザー1人当たりの平均購買単価は、非ユーザーと比べて30%向上した」(チェン氏)という。日本ではその代わりに、決済金額の3~6%を手数料として加盟店が負担する計画だ。

インフルエンサーマーケティング機能も提供

 加えて、費用は別途必要にはなるが、Atomeが手がけるマーケティングによって、加盟店は送客効果も得られる。Atomeは先行するアジア各国で、Atomeアプリを使って、ユーザーの購買動機を喚起させるような情報(コンテンツ)や広告を配信したり、ユーザーに最適な商品やサービスをレコメンドしたりするマーケティングを展開中。アジアでは1万人以上のインフルエンサーと提携し、インフルエンサーマーケティングも展開している。加盟店が売りたい商品やサービスと、インフルエンサーの得意分野をAIでマッチングすることで、マーケティングの効果を高められるのが特徴。日本でも、同様のマーケティングプログラムを小売店に対して提供していく計画だ。

Atomeの強みの1つは、2700万人以上の東南アジアのAtomeユーザーが来日した際、Atomeを導入した日本のリアル小売店で現地通貨のまま決済ができることにある
Atomeの強みの1つは、2700万人以上の東南アジアのAtomeユーザーが来日した際、Atomeを導入した日本のリアル小売店で現地通貨のまま決済ができることにある

 また、アジアからの訪日外国人観光客を狙う加盟店、特にリアル小売店にとっては、Atomeの導入は海外からの送客効果を期待できる。これまでのアジアでの実績では、「Atomeを導入したリアル小売店は、従来に比べて新規の顧客が平均25%増加し、かつその多くが国外からの客になっている」(チェン氏)。この“クロスボーダー送客効果”は、他のBNPLサービスにはない強みになりそうだ。

 日本市場進出に当たって、「まずはミレニアル世代やZ世代といった若い層を狙い、そこから年齢層を広げていく」(チェン氏)。ユーザー向けに告知キャンペーンを計画する他、小売店の開拓については、「大手EC事業者との提携」(チェン氏)を目指しつつ、リアル小売店はソフトバンクグループのSBペイメントサービス(東京・港)などの決済代行事業者が担う体制を取る。日本法人のAtome Japan(東京・港)が金融関連の免許をまだ得ていないため、当面は最長2カ月の範囲内でしか分割払いに対応できないが、「22年中に免許を取得して、長期の分割払いサービスをユーザーに提供できる体制を整える」(Atome Japanゼネラルマネージャーの依田寛史氏)という。

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