
カード国際ブランドの1つである米ビザ(Visa)傘下の日本法人ビザ・ワールドワイド・ジャパン(東京・千代田)が、「Visaのタッチ決済」の普及に力を入れている。特に注力しているのが、有力アクワイアラー(加盟店と加盟店契約を締結するクレジットカード会社)の1社である三井住友カードなどとタッグを組んで目指す「公共交通機関への導入」だ。Visaのタッチ決済はビザの思惑通りに普及するのか。その取り組みを追った。
2022年7月7日、JR九州が、2022年7月22日から23年3月31日まで、「Visaのタッチ決済」を使って改札する実証実験を一部区間で実施すると発表した。対象となるのは、博多駅(中央改札口、北改札口のみ)や吉塚駅、香椎駅(1階改札口のみ)など5駅。三井住友カードが提供する公共交通機関向けソリューション「stera transit」を活用する。
JRグループの企業が、既存の交通系ICカードと併用かつ実証実験とはいえ、改札機にVisaのタッチ決済を導入するのは初めてのこと。公共交通機関への普及に力を入れるビザ・ワールドワイド・ジャパンにとっては、画期的な出来事である。
公共交通機関でのVisaのタッチ決済取引件数は1年で38倍に
Visaのタッチ決済とは、タッチ決済対応マーク入りのクレジットカードやデビットカード、スマートフォンなどのデバイスを、ユーザーが店頭の専用読み取り端末に文字通りタッチするだけで、決済が完了するというもの。日本では、決済額が1回当たり1万円までならサインも暗証番号の入力も原則不要なため、現金はもちろん、他のキャッシュレス決済の手段と比べてもスピーディーに決済ができる。
実はビザ・ワールドワイド・ジャパンは、三井住友カードなどと協力し、航空機とタクシーを除く鉄道、バス、船、ロープウエーなどの公共交通機関に、Visaのタッチ決済を導入させようと、20年から攻勢を続けている。22年7月8日時点で、20都道府県で28の実証実験を含む公共交通機関への導入プロジェクトが、発表または展開済みだ。
約1年前の21年6月末時点では、12都道府県で10プロジェクトにとどまっていたことを考えると、この1年での進展ぶりが分かる。実際に公共交通機関でVisaのタッチ決済を使って決済された取引件数も、21年1~3月期と22年1~3月期を比較すると「38.1倍に伸びている」(ビザ・ワールドワイド・ジャパンのデジタルソリューションズ ディレクターの今田和成氏)という。まずは順調に普及しているといってよい。
ビザ・ワールドワイド・ジャパンは、一般の小売店に加えて、なぜ公共交通機関への導入に力を注ぐのか? そこには2つの狙いがある。
FeliCaと比べて遜色ない高速処理が可能とアピール
1つは、Visaのタッチ決済の機能向上をアピールし、普及の“障害”が存在しないことを示すためだ。
ビザ・ワールドワイド・ジャパンによれば、Visaのタッチ決済は既に世界中の約200の国と地域で利用されており、米国を除く世界市場で、Visaカードを使った対面決済の3分の2はタッチ決済だという。これに対して日本では、タッチ決済対応端末が100万台(22年3月末時点)に達し、タッチ決済対応カードの発行枚数も7100万枚(同)を超えたが、世界に比べるとまだまだ普及の遅れは否めない。
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