
経済産業省の発表によれば、決済全体に占めるキャッシュレス決済の比率は2021年に30%を超え、32.5%となった。この流れを加速させ、キャッシュレス決済を日本の隅々にまで普及させるには何が必要なのか。公正取引委員会や経産省の取り組みを追った。
2022年7月11日午後9時──。全国のフジテレビジョン系列のテレビ局で、7月クールの「月9」テレビドラマが始まった。タイトルは『競争の番人』。公正取引委員会を舞台にした、実質的に初めての連続テレビドラマである。
坂口健太郎と杏がW(ダブル)主演し、小日向文世や寺島しのぶ、小池栄子らが脇を固める。原作は、22年5月に刊行されたばかりの新川帆立氏の新刊「競争の番人」。4月クールの月9ドラマ「元彼の遺言状」に続き、同じ原作者の作品を2クール連続でドラマ化するのは、フジテレビでは初の試みだ。
GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に象徴される米国の大手IT企業に対して、公正な競争環境を確保しようと強気な姿勢で臨むなど、最近の公取委の動きは経済界で注目されている。月9の舞台に公取委が選ばれたのも、そうした動きを受けたものかもしれない。
イシュアー手数料の実態などを公取委が調査
その公取委は、キャッシュレス決済を推し進める金融、フィンテック、ITの業界でも実は注目を集めている。22年4月に公表した「クレジットカードの取引に関する実態調査報告書」が、その理由である。
「(中小の小売店が)キャッシュレス決済を導入する際の課題の一つとして、クレジットカードの加盟店手数料が高額であることが指摘されている。ヒアリングによると、その手数料の約7割を、クレジットカードでの決済があった際、店と契約する決済会社が利用者と契約する決済会社に支払う手数料(イシュアー手数料)が占めている」という政府からの指摘を受け、公取委は調査を実施し、21年度中に競争政策上の課題をとりまとめることになっていた。25年までに決済全体に占めるキャッシュレス決済の比率を約40%にまで引き上げるという政府が掲げる目標を達成するには、中小小売店へのキャッシュレス決済導入が不可欠。そのために競争政策上、何が求められるかを、公取委がまとめた成果がこの報告書なのだ。
報告書ではクレジットカードの取引をいくつかの形で分類した。まずクレジットカードの国際ブランドを、自らカード発行(イシュアー業務)や加盟店開拓・管理(アクワイアリング業務)を行わない「カテゴリーⅠ」(具体的には米ビザ、米マスターカード、中国のユニオンペイ[銀聯])と、自らもイシュアー業務やアクワイアリング業務を手がける「カテゴリーⅡ」(ジェイ・シー・ビー[JCB]、米アメリカン・エキスプレス、米ダイナースクラブ)に分類した。国内取引における取扱高のシェアは、カテゴリーⅠが70.2%、同Ⅱが29.8%になる。
また、国内で発行されたクレジットカードが国内で利用される取引の形態を、「オンアス取引」(イシュアー[カード会員と会員契約を締結するクレジットカード会社]とアクワイアラー[加盟店と加盟店契約を締結するクレジットカード会社]が同一である取引)と「オフアス取引」(イシュアーとアクワイアラーが異なる取引)に分類した。
そのうえで、クレジットカードで決済されたときに加盟店がアクワイアラーに支払う加盟店手数料の平均を、カテゴリーⅠで2.63%、カテゴリーⅡで2.89%と推計。また、オフアス取引が発生した場合に、アクワイアラーからイシュアーへ支払われるイシュアー手数料をカテゴリーⅠ、Ⅱとも1.56%と推計した。加盟店手数料全体に占めるイシュアー手数料の割合は、カテゴリーⅠの場合で約59%、カテゴリーⅡの場合で約54%に達する。そして、このイシュアー手数料を競争によって引き下げることが、加盟店にとって高額と指摘されがちな加盟店手数料全体を低下させる可能性が大きいと指摘した。
このイシュアー手数料のうち、カテゴリーⅠのオフアス取引で発生する手数料をインターチェンジフィー(IRF)と呼び、個別に料率を設定しない場合に適用される「標準料率」を各国際ブランドが独自に設定している。日本ではカテゴリーⅠの国際ブランドはいずれも、標準料率も他のイシュアー手数料率も公開していない。海外では60以上の国において、カテゴリーⅠのうち1者以上の国際ブランドの標準料率が公開されており、米国のように公開を義務付ける規制がないにもかかわらず公開されている国も存在するのに、だ。
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